182.そうですか、そうきましたか
本日2話目の更新です。
「そうそう、もうひとつ訊いておきたいことがあるのだけれど」
再びレオさまが言い出しました。「当日お店で味わえるおやつや軽食に関しては、こちらから指定ができるのかしら? もし、完全予約制にするというのであれば、指定させてもらえるとありがたいわ」
リドさまもうなずいてます。
「それはもう、指定させていただきたいですね。相手の好みに合わせたおやつや軽食を出すことは、交渉を有利に進めるためにも必要なことですし」
「それと、あとちょっと贅沢を言わせていただくと」
うふふふと笑いながらメルさまが言った。「わたくしたち女性向けに、少し小さめのハンバーガーやサンドイッチをご用意いただけるとありがたいわ。そうすれば、軽食もおやつもいっぺんに味わうことができるもの」
「それはいいわね!」
メルさま案にレオさまも大喜びです。
「前回の栗拾いお茶会では、せっかくルーディちゃんがあんなにたくさん美味しいものを用意してくれたのに、その場で全部食べきれなかったのですもの。どうせなら、おやつも軽食もいっぺんに味わいたいですものね」
うーん、みなさん本当に食い意地が、げふんげふん、お料理に関してはご熱心でいらっしゃいます。
「飲食用店舗としては、案を一度練り直したほうがいいかもしれぬな」
公爵さまが言い出しました。「リドが言うように、家を持たぬ領主や地方貴族が王都で交渉事のために使用できるような店舗にするのであれば、最初にゲルトルード嬢が言っていた貴族女性が気軽に茶会の雰囲気を味わえる店舗とは何かと違ってくるだろう」
おおう、わかってくださってますね、公爵さま。
私もうなずいて答えた。
「はい、わたくしもそう思います。もう一度、どのような店舗にするのか、案を練り直したほうがよいと思います」
「ではこの後、商会店舗に移動したところで商会員を交えて意見を出し合ってみよう」
「よろしくお願いいたします」
うん、まあ、私はアイディアだけ出して、あとは公爵さまやエグムンドさんに丸投げしちゃって大丈夫でしょう。むしろそのほうが、私の出したアイディアをいまのこの世界というか、この国のニーズにちゃんと合ったものにしてくれると思うわ。
それに試食会についても、もう無理な要求は聞かなくていいことになったし、なんかいろいろちょっと楽になりそう。お母さま、本当にありがとうございます。
それに、もし公爵さまがまた何か無体を働いてきたとしても、レオお姉さまに言いつけます、で大丈夫そうだしねー。本当に、お姉さまがいてくださるってなんて素敵なの。もうガンガン頼らせていただきますとも。
そんなこんなで、試食会はお開きになりました。
私はこれから公爵さまと一緒に商会店舗へと向かい、商会員希望者の面接、シエラとハンスの弟との顔合わせ、ツェルニック商会との面会に、そんでもってまたもや試食会と盛りだくさんだ。
商会店舗で行う試食会のための道具やおやつはすべて、公爵さまからお借りしている時を止めないほうの収納魔道具に入れてある。まあ、おやつがプリンだったら、やっぱ時を止める収納魔道具のほうがいいんだけど、今回はOKだわね。
しかしホンットに便利だわ、収納魔道具。
ホントにホンットに、我が家の収納魔道具を取り返したい。その後、そっちの捜索がどうなっているのか、一度ヒューバルトさんに確認してみよう。
客間を出て、私たちはぞろぞろと玄関ホールへと移動した。
玄関ホールでは、レオさまとメルさまが交互に私をハグしてくれちゃう。
「今日のおやつも本当に美味しかったわ、ルーディちゃん」
「ええ、本当に。あの『ぱうんどけーき』も貴女のお店で販売するのよね? とっても楽しみにしているわ」
「はい、ありがとうございます」
そしてレオさまが念を押すように言ってくれる。
「これから学院に戻れば、ルーディちゃんもそうそう新しいお料理を作っている時間はなくなると思うけれど、本当に無理をしないようにね。何ごとも学院を優先してちょうだい」
「ありがとうございます、レオさま。そのようにいたします」
「それに、困ったことがあれば、なんでもすぐご相談してちょうだいね」
メルさまも言ってくれて、私もまたお礼を言った。
「はい、メルさま。本当に困ったときはメルさまにご相談させていただきますので」
そしてお次はユベールくんだ。
「試食会がないとしばらくルーディお姉さまにお会いできなくなると思いますので、とても寂しいのですけれど……それでもルーディお姉さまの学生生活のほうが大切ですから」
実に自然なしぐさでユベールくんは私の手を取り、すっと身をかがめて私の手に……顔を近づけただけで、鼻ちょんはありませんでした。
って、だから上目遣いでにんまりしてるんじゃないわよ、この腹黒美少年侯爵さまは。
「寂しいですけれど、我慢しますね、ルーディお姉さま。またご無理のない範囲で、お会いできる機会を作っていただければと思います」
「ええ、ご配慮ありがとうございます、ユベールさま」
と、ユベールくんが手を放してくれたところで、最後はリドさまかなーと思ってたんだけど……リドさまはにこにこしたまま私に手を出してこない。
「リド、貴方、ご挨拶はいいのかしら?」
レオさまの問いかけに、リドさまはやっぱりにこにこと答えた。
「義母上、私はこれからルーディ嬢の商会店舗に同道させていただきますので」
は、い?
リドさま、試食会が終わったらさっさと帰るとか言ってなかった?
しれっと、本当にしれっとリドさまは言ってくれちゃう。
「これから閣下とルーディ嬢は、商会店舗で商会員を交え店舗改装のお話し合いをされるのでしょう? 私としてはぜひ、どのような目的でどのように利用させていただきたいのか、そのお話し合いで意見を述べさせていただこうと思いまして」
あー、うん、最初に商会店舗でも試食会をするって話しちゃったからね……リドさま、本日2回目の試食会を狙っていらっしゃるわけですね?
公爵さまも片手で頭を抱えちゃってる。
「リド、本当に其方は……」
息を吐いて公爵さまはそれでも言った。「まあ、確かに、其方が商会店舗を利用したい貴族男性として、意見を述べてくれることには意義があるだろうが」
「はい、閣下。私もぜひお話し合いに参加させていただきたく」
「……仕方あるまい」
横目をくれちゃった公爵さまに、私もとりあえずうなずいておくしかなかったです。
うーん、今後リドさまが何か無体を働こうとしてきたら、やっぱりレオさまに言いつけちゃえばいいのかしらね? レオさま、義理の息子さんがちょっとアレです、とか言って。
それからようやく、それぞれの馬車に乗り込んでいった。
私はナリッサと一緒に公爵さまの馬車に乗せてもらう。もちろん、公爵さまとアーティバルトさんも一緒だよ。
それにね、ハンスが従者のお仕着せの上着をはおり、公爵家の馬車の立ち台に立ってるんだよね。そう、商会店舗で弟が公爵さまと顔合わせをするってことで、ハンスも付き添いで行くことになったの。
ふふふ、ハンスってばめちゃくちゃ緊張してるっぽい。
お母さまはレオさまの馬車に乗せてもらった。レオさまの馬車は、侍女のザビーネさんも一緒なので3人乗車。うーん、やっぱお母さまに侍女がついていないっていうのは、貴族の外聞的にはよろしくないんだろうけど……シエラはお留守番のリーナについていてもらいたいんだよね。
メルさまとユベールくんはもちろん、侍女さん近侍さんも一緒にご自分の馬車に乗り込んでる。
ちなみにリドさまは馬で来ておられましたので、やっぱり馬に乗って私たちが乗る馬車とともに商会店舗へと向かうことに。
お留守番のヨーゼフに見送られ、私たちはそれぞれ商会店舗と新居に向けて出発した。