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19.荷運びには火事場の馬鹿力

ブックマークも評価も本当にありがとうございます!

 シエラは面接の翌日にはもう、我が家の侍女になっていた。

 本当にこの世界では、仕事も辞めるとなったらその日に辞められちゃうんだね。


 まあ、お針子も基本的に住み込みで、一応お給金はもらえることになっているけど、実際はほとんどもらえない職場も多いらしい。だから未払いのお給料もナニもあったもんじゃなくて、本人が辞めますって言ってその日から来なくなったら終わりなんだって。

 シエラは多少お給金をもらってたらしくて、まるっきり無給ってわけではなかったみたいなんだけど……でも住み込みだからお給金もろくに出ないとかってさ……貴族家だけじゃなくあらゆる職場がブラックってことか……。


 そのシエラ、ナリッサが用意してくれた侍女服に着替えてもらい、早速お母さまの衣裳部屋へ連れて行ったら……入り口で両手を胸の前で組み合わせ、瞳をキラキラさせてうっとりとつぶやいた。

「……すてき!」

 うーん、なんかやっぱり服飾関係の人たちって、全体的にこういうノリなのかしらね?


 それでもさすが元お針子、衣装の扱いは本当に素晴らしくて、シエラはしゅたたたたーーーーっとばかりにドレスを片っ端からたたんで衣装箱に詰めてくれる。

 本当にその手際のよさは圧巻。ものすごい高速でたたんで詰めてたたんで詰めてを繰り返しているのに、そのたたみ方も完璧なのよ。アレはたぶん、新居で箱からドレスを取り出しても火熨斗アイロンも要らないと思うわ。おまけに、ものすごく種類の多いドレスをちゃんと季節ごと、着用シーンごとに分類して箱に詰めてくれてる。


 すごい、シエラってばめちゃくちゃ有能!

 なんか一緒に荷造りをしてるナリッサまで、ちょっとどや顔してる気がするけど。


 いやもうおかげで、荷造りがはかどるはかどる。

 これは速攻荷運びを始めないと。だってすぐに全部の荷造りが終わってしまって、私の衣装の少なさがバレてしまいそうだもん。


 私はカールに商業ギルドへと走ってもらい、クラウスに頼んであった荷馬車をすぐ手配してもらえるよう伝えることにした。

 帰ってきたカールは、明日の朝には我が家に荷馬車が到着すると告げてくれた。



「じゃあ、夜のうちに玄関ホールまで衣装箱を運んでおきましょうか」

 私はそう言って、お行儀悪くたくし上げたスカートの裾をベルトに挟みこむ。

「カールとハンスは厨房から出ないように言いつけておきましたので」

 ナリッサが言いながら、衣裳部屋の扉を大きく開いてくれる。

 ほら一応ね、貴族令嬢としてはこういうはしたない恰好を男子に見せるわけにはいかないのよ。ってことで、私はドレスの袖もまくりあげ、じゃまにならないようたすき掛けもしちゃう。

「ルーディ、無理はしないでね?」

「大丈夫です、お母さま」


 答えた私は、全身に魔力をめぐらせる。

「筋力強化」

 声に出すことで、指先まできっちり魔力が行き渡った。

「それじゃ、運びまーす」

 私は、衣装がぎっしり詰まったでっかい衣装箱を、片手でひょいっと持ち上げた。


 そう、これが私の固有魔力。

 私は『火事場の馬鹿力』って呼んでるんだけどね。


 目の前でシエラが完全に固まってる。

 そりゃそうだよね、私みたいにチビでツルペタ体形の女の子が、通常大人の男性が2人がかりで運ぶ衣装箱を軽々と持ち上げて担いでるんだもん。

「あ、シエラ、私のこの固有魔力については、口外しないようにね」

 私が声をかけると、シエラはいきなり壊れたようにこくこくこくこくとうなずきまくった。

「も、もももちろんです、決して口外いたしません!」


 いや、まあ、別にいいんだけどね。ただやっぱ、貴族令嬢としてどうなのかって感じの固有魔力ではあるでしょ、全身の筋力を強化して馬鹿力になっちゃうなんてのはね。見た目はなんの変化もないだけに、違和感バリバリだしねえ。



 貴族が持つ固有魔力については、顕現し次第その詳細を国へ報告する義務がある。

 でもその詳細は、特に必要と認められない限り公開されることはない。だから本人が黙っていて、またその固有魔力を人前で使わない限り、ほかの人に知られることはまずないんだけどね。稀に、貴族の中にも固有魔力を持たない人も居たりするそうだし。

 まあ、でもだいたいは自分がどんな固有魔力を持っているのか、ある程度は周囲にも話す。

 特に中央学院へ入学すると、専攻クラス分けの参考になるしね。やっぱり攻撃的な固有魔力を持っていると武官クラスを選ぶ場合が多いし、産業に役立てられそうな固有魔力を持っていれば文官クラスを選ぶことが多いから。


 貴族のための王都中央学院は、15歳で入学して3年間学ぶことになってる。

 1年目は貴族としての一般教養科目がメインで、2年目から専攻クラスを選ぶ。武官、文官のほかに領主クラスっていうのもある。要するに、領地持ち貴族の跡継ぎが選択するクラスね。基本的に男子だらけのクラスだけど、たまに婿取りが決まってる令嬢も専攻してたりする。

 で、1年間の一般教養と2年間の専攻クラスを終えたら卒業。でも、幹部候補の生徒はそのままさらに2年間の高等学院へ進むことが多い。


 私はこの冬で学院1年目を終えるため、2年目になる春からは専攻クラスを選ばなきゃならない。でもねー、ホンットにただの馬鹿力でしかないから、使いどころがほとんどない固有魔力なのよねえ……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。 コロナEXでマンガを読み、こちらで探したらあったので、このお引っ越し話から読んでます。 貴族家の相続のルールとか、銀行機能がしっかりしてたりとか、貴族だから馴染みの商人を使…
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