181.方向性を変えてみる?
なんと連日更新です(;^ω^)
今日は3話いっちゃいます。
まずは1話目です。
でも本当に、冗談抜きで、この国の貴族社会ってめちゃくちゃ狭そうよね。
だいたい、国中の貴族家子女が全員進学することになってる王都中央学院だって、一学年が100人から200人くらいだもんね。王太子や王子、王女が在学する時期は生徒数が増えるらしいんだけど、それでもいまの3学年全校生徒合わせても500人に届かない。
レクスガルゼ王国って、この大陸の中でも有数の大国……の、はず。それなのに、支配者階級の貴族はそれだけしかいない。領地を持たない名誉貴族の子女や、一代限りの騎士爵家の子女も、すべて集めてそれだけ。その500人ほどの同世代の人たちと、貴族社会っていうコミュニティの中で一生付き合っていかなきゃいけないんだ。
ホンットに、文字通り、学生時代の交友関係がそのまんま一生続くんだわ。
その事実に気がついてしまって、私はちょっと、いや、かなり、遠い目になっちゃった。
私、その大事なコミュニティの中で、初手から思いっきり失敗しまくってるからね……。
お母さまの言うような、本当に仲のいいお友だちなんて、できる気が全然しないんですけど。それでも、たとえばおとなりさんの領地のご令嬢がたと今後まったくお付き合いせずに過ごしていけるとは、到底思えないし。
ここはやっぱり、おやつで懐柔するしかないのかなああああ。
などと、私が遠い目をしながら考えていると、同じく『おやつで懐柔』について考えていた人がいたらしい。
「閣下、商会店舗のお茶会についてなのですが」
言い出したのはリドさまだ。「ルーディ嬢のお茶会とは別に、私にもゲルトルード商会店舗をお貸しいただくことはできませんでしょうか? もちろん、相応のお礼はさせていただきます」
「ふむ、いずれ商会店舗で正式に飲食ができるよう改装するつもりにしているのだが」
公爵さまがわずかに首をかしげると、リドさまはさらに言った。
「お話では、貴族女性が個室で気軽にお茶会を楽しめる店舗にされるご予定だとか。そこを、私のような家を持たない貴族男性にも利用させていただけないかと思いまして」
家を持たない、って?
どういう意味だろうと、私は耳を傾けちゃった。
「なるほど、確かに其方はまだ家を構えておらぬから、茶会も招かれるばかりなのだな」
公爵さまはすぐ意味がわかったらしい。
リドさまがうなずく。
「そうなのです。私はこれでも一応ヴェントリー領の領主ですから、近隣の領主や取引のある領主との会合が必要です。けれど、未婚の私は家を構えておりませんので、相手方に招かれるばかりなのです。やはり交渉を有利に進めるには、自分で相手を招くことが必要なのですが……」
そういうものなんだ?
てか、えっと、リドさまはガルシュタット公爵家の嫡男だけど、公爵家は継がないって言ってて、予備爵の伯爵位とヴェントリー領を継承してるんだよね?
でもそうか、貴族家って結婚して初めて独立した一家として認められるから、独身のリドさまは領主ではあるんだけど、まだ自分の『家』がない状態なんだ。そしてヴェントリー領主としては、ガルシュタット公爵家の邸宅は使えない、ってことか。
それに、交渉を有利に進めるって……あー……まあ、他所で出される飲みもの食べものに毒の心配をするような世界だもんね、招かれるのではなく自分が招くっていうだけで、緊張感は全然違うよね。
リドさまは続けてる。
「どうしてもの場合は、王宮内の離宮をお借りすることも考えますが、そこまで大ごとにしなくても自分で交渉相手を招くことができないだろうかと。それを考えたとき、貴族家のお茶会を開催できる体裁が整っていて、なおかつ美味しいおやつが確保できる場所があるのだとしたら、ぜひ利用させていただきたく存じまして」
なんか、そういう領主が集まって交渉を行うことができるお店にするっていったら、気軽なカフェって感じじゃなくなっちゃう気がするけど。でも、リドさまが言うようなニーズもあるんだ?
って、公爵さまも考えこんじゃってます。
「確かに……私も、必要に応じて商会店舗を自分の交渉の場に利用するつもりではあったが……」
公爵さまもそういうの、考えてたのね?
まあ、公爵さまはゲルトルード商会の顧問なんだから、自分トコの店舗をどう使ってもらってもいいんだけど。それに公爵さまは私にも以前、今後誰かと会うときはできるだけ商会店舗を使うようにって言ってくれてたしね。
公爵さまの言葉に、リドさまが身を乗り出してきた。
「私のように家を持たぬ領主というのは、たとえば王都にタウンハウスを構えていない子爵家や地方男爵家なども含まれるとお考えください。自領まで交渉相手を招くのは本当に大変なのです。けれど、料金さえ支払えば自らはなんの準備も必要なくお茶会が開催でき、それでいてとびきり美味しいおやつや軽食が提供される、そのような場所が王都にあるのだとしたら? それはもう皆、喜んで利用すると思います」
うん、リドさまはやっぱり美味しいおやつや軽食に対するウェイト高そうです。
でもまあ、確かにちょっとめずらしくて美味しいおやつがあれば、何か話し合いをするにもとっかかりとしてはいいよね。
そこで、レオさまが口を開きました。
「もし、そのような交渉事でルーディちゃんの店舗をお使いになるのなら、そのときはそちらで貸し切りにしていただきたいわ」
「そうね、たとえ個室で分けていただくのだとしても、殿方がそのような目的でお茶会をされている横で、わたくしたち女性が気の置けないお友だちと楽しくお茶をいただくのは難しいですもの」
メルさまもうなずいています。
そしてお2人そろって、私に顔を向けてくれちゃいました。
「ルーディちゃんは、どう思っていて?」
「あ、はい」
って、なんかもう、そんな会合に利用していただくとか……学校帰りや買い物帰りに女子が気軽に立ち寄れるカフェって感じでは全然なくなってきちゃってるんですけど。
返事をしてから、私は考えこんじゃった。
うーん、どうしよう?
そりゃあね、とってもありがたいことなんだけど、レオさまやメルさまのような上位貴族家のご夫人がこぞってご利用くださるようなお店になっちゃうと、どう考えても平民女性には敷居が高くなっちゃうよね?
それに、リドさまが言ってたように貴族男性にもニーズがあるのだとしたら、どのみちそういう貴族向けの高級路線になっていっちゃうような気がするなあ……。
ここはもう潔く、貴族向け高級ティールームにしちゃう?
と、考えをまとめたところで、私は答えてみた。
「そうですね、それでしたらもう最初から、1日に1組か2組だけがご利用できる完全予約制のお茶会用店舗にしてしまったほうが、いいかもしれませんね」
「ふむ……」
公爵さまもあごに手をやって考えこんじゃってます。
ホントに私としてはまず、ここまで貴族のみなさんが私の作るお料理に反応してくださるとは思ってなかった、ってことなんだよね。
プリンだのサンドイッチだのホットドッグだの、やっぱり私の前世の感覚としてはごくごく庶民的な食べものばっかりなんだもん。それなのに、公爵さま始め上位貴族のみなさんがここまで食いついてくれちゃうとは、でしょ?
なんかもう本当に、気軽に誰でもさくっと味わえるおやつや軽食って感じじゃないんだもん。
それだったらここはもう、ニーズに合わせてこちらのスタイルを変えたほうがいいと思うのよね。エグムンドさんが言ってたけど、それこそ上から下へと流行を広げていけばいいんじゃないかなあ。貴族から始めて徐々に平民にも外食文化が広がっていく、そのタイミングを見計らって、カフェとかファーストフードのお店を展開する、っていうやり方がいいんじゃないかと思うよねえ。
って私、そこまで商売を広げることになっちゃうんだろうか?