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178.試食会じゃなくてお茶会を

本日3話目の更新です。

 私はもう真剣に、どうやって『新入生歓迎舞踏会』をパスするか改めて考え始めてたんだけど、メルさまが変なことを言い出した。

「問題は、来年春にユベールが入学するまでの、これからの半年間よね」

 へ?

 あの、問題って?

 きょとんとしちゃった私に、公爵さまが眉間のシワを深くして言った。

「そうだな。ゲルトルード嬢、当面茶会の誘いはすべて断りなさい。きみより上位の、侯爵家の令嬢や令息からの誘いであっても、私の名前を出して断ればよい」

「は、え、あの……はい」


 なんかすっごい間の抜けた返事をしちゃったわ。

 だって、私の場合もうすでにお茶会のお誘い自体がほぼないし、あったとしても全力でお断りしてるから。なんかいまさらっていうか、通常運転?

 それなのに、レオさまもメルさまも納得したように言うんだ。

「そうね、これからルーディちゃんが学院に戻ったら、それはもう山のようにお茶会のお誘いが来るでしょうからね」

「ええ、すべてのお誘いを確認していちいちお返事を出すだなんて、とてもではないけれどやっていられないと思うわ」


 いや、山のようにお茶会のお誘いが来るだとか……あ、でも、そう言えば自由登校期間に入る前に、どこか知らない子爵家のご令息からお茶会のお誘いがあったっけ。

 あのときは、我が家にはもう爵位以外、領地も財産も何もないと思ってたから、ご令息にその通り伝えたらさっさと退散してくれたけど。

 もしかして、学院に戻ったとたん、ああいうお誘いがドッと増えるってこと?

 私はなんていうか、ちょっとおっかなびっくりという感じでメルさまに訊いてみた。

「あの、メルさま。その、爵位持ち娘というのは、それほど注目を集めてしまうものなのですか?」


 私の問いかけにメルさまは目を見張り、それから片手で頭を抱えてしまった。

「ルーディちゃん、貴女、いまのご自分の立場がわかっていないのね」

 うぅ、はい、たぶん全然わかっていません。

 思わず身を縮めちゃった私の周りで、公爵さまもレオさまも、それにリドさまとユベールくんに至るまで全員が、頭を抱えちゃってるんですけど。

 ユベールくんまでもって、ちょっとひどくない?

 と、私は思っちゃったんだけど、そのユベールくんがすごく悔しそうに言うんだよね。

「ああもう、本当に僕がいますぐ学院に通うことができれば、ルーディお姉さまの盾になってさしあげることができるのに」


 盾? いや、あの、盾って?

 ええと、そりゃあこんな美少年侯爵さまが傍にいてくれちゃったら、私はすっかりかすんじゃって誰からも見えなくなるとは思うけど。


 なんかでも、みなさんめっちゃ真剣です。

「こればかりはしょうがないわ」

「四公家にはいま、学院に通っている子女はいないのよねえ。誰か1人でもいれば、ルーディちゃんに紹介できたのだけれど」

 メルさまがため息をこぼし、レオさまも唸るように言ってるし。

 公爵さまに至っては、とんでもなく恐ろしいことを言い出しちゃうし。

「ううむ、かと言って現状、デマールに頼むわけにもいかぬしな」

「ええ、いまデマールを引っ張り出すのは得策ではないわ」

 って、レオさままでチラッと私を見ながら首を振っちゃってるんだけど、デマールって……ヴォルデマール王太子殿下のことだよね?

 いや、いやいや、なんで王太子殿下がそこで出てくるの?


 えっと、その、また変なフラグが……?

 イヤな汗が湧いてきそうになっちゃった私に、レオさまはまた違う方向から冷汗モノの問いかけをしてくれてきちゃう。

「ルーディちゃん、貴女はこれまでに、どなたのお茶会に参加したことがあって?」

 うっ!

 あ、あの、えっと、その……。

 しどろもどろになりかけた私の斜め後ろから、すっとナリッサが出てきた。

「これまでゲルトルードお嬢さまがご招待をお受けになられましたのは、デルヴァローゼ侯爵家ご令嬢デズデモーナ・ヴィットマンさまのお茶会、それにゴートニール侯爵家ご令嬢デラマイア・ダンクェストさまのお茶会になります。ほかにこれまで正式にご招待状を6通、口頭でのお誘いを2件いただきましたが、いずれもゲルトルードお嬢さまのご都合が合わずお断りさせていただいております」


 さ、さすがスーパー有能侍女のナリッサ!

 さらっと、実にさらっと答えてくれちゃいました。

 でも、入学して半年以上経ってるのに、2回しかお茶会に参加してないって……それも、夏以降はすべてお断りしちゃってるのよね。

 またどんな突っ込みがくるのかと、私はまたちょっと身を縮めちゃったんだけど、意外な反応がレオさまからきた。

「あら、デルヴァローゼ侯爵家のご令嬢のお茶会に参加したのね」

 その声にはどこかホッとしたような響きがあって、私は思わず顔を上げちゃった。

 そして、公爵さままでやっぱりちょっとホッとしたような口調で言うんだ。

「ゲルトルード嬢、きみはデルヴァローゼ侯爵家の令嬢とすでに知己を得ていたのか」


 えっ、えと、あの、デルヴァローゼ侯爵家って……いや、いまナリッサが言ってくれたおかげで、私もすっかり思い出したけどね、どんなご令嬢で、どれだけ悲惨なお茶会になっちゃったか……でも、その、もしかして、すごい重要人物だったの?

 自分のやらかしを思い出して、ますますイヤな汗が湧いてきそうな私。

 その私に、公爵さまが眉を寄せてズバッと言ってくれちゃいました。


「しかし、先日私がデルヴァローゼ侯爵家の名を出したときのことを思うと、どうやらきみはわかっていないようだな」

 うううう、わかってません……。

 って、先日?

 先日っていつ? いつ公爵さまはその、デルヴァローゼ侯爵家の名前を……。

「あっ」

 思わず、私は声をもらしちゃった。

 だって……だって、思い出したよ! デルヴァローゼ侯爵家って、先日公爵さまがその名前を出したときって、アレだよ! おとなり領地の領主さんチだよーーーー!


 ああああ、確かに公爵さまが言ってた、新居の下見に行って領主の何たるかを話してくれたとき……我が家の、クルゼライヒ領のとなりにある領地のご令嬢が、学院の同じ学年にいるって。

 それがデルヴァローゼ侯爵家で……あともう1件、おとなり領地の子爵家のご令嬢も同学年にいるって公爵さまが言ってなかったっけ? もしかして、あのときのお茶会に参加してた、あの子爵家のご令嬢っていうのがそうだったり……?


「どうやら、私があのとき言ったことを思い出したようだな」

 公爵さまが、ちょっとため息をもらしながら言う。

 私は本気で涙目になりながら答えちゃった。

「はい……デルヴァローゼ侯爵家というのは、クルゼライヒ領のおとなりにある領地の領主家でいらっしゃいますね……」

 どうしよう……めちゃくちゃヤバいんですけど。

 私、あのお茶会で主催者のご令嬢、デルヴァローゼ侯爵家のご令嬢を、カンカンに怒らせちゃったんですけど。

 それがおとなり領地のご令嬢だったなんて……今後、おとなりさんとどう付き合っていけば……。


 本気の涙目でがっくり落ち込んでしまった私のようすに、みなさん察してくれちゃったようです。そのおとなり領地のご令嬢のお茶会で、私が何かやらかしちゃったんだな、ってことを。

 ええもう、やらかしましたよ、盛大に。

 だって、本当にどうしようもなかったんだもん。

 ナニをどう言われようと、どれだけ侯爵家からプレッシャーをかけられようと、あのときのあの要求は、断る以外に方法がなかったんだもん。

 うぅ、いまだったら大喜びでお受けするんだけどなあ。


 思わずチラッと公爵さまを見ちゃったんだけど、公爵さまはいかにも渋い顔をしてる。

 そりゃもう、おとなりさんだもんね。今後、まったくお付き合いナシなんてできないもんね。公爵さまとしては、どうやって取りなそうかって考えてくれてるのかもしれないけど。

 そんなことを思ってたら、メルさまがさくっと言ってくれた。

「では、折を見てルーディちゃんのほうから、デルヴァローゼ侯爵家のご令嬢をお茶会にご招待すればいいのではなくて?」


 そしたら、レオさまもパッと明るい声で言ってくれた。

「そうね、ルーディちゃんのほうで、お付き合いする相手を選んでご招待すればいいわ」

「そうですね、ルーディ嬢のおやつが味わえるとなれば、お断りされるご令嬢などおられませんよ」

 リドさまもにこにこしながら言ってくれちゃって、公爵さまもうなずいてくれちゃった。

「そうだな。そうしよう。当面、ゲルトルード嬢は茶会の招待をすべて断る。そしてしばらくようすをみたところで、相手を選んでゲルトルード嬢のほうから招待するようにしよう」


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