173.これに関しては協力を惜しまない
本日4話目の更新です。
しばらくして、ヒューバルトさんが戻ってきた。公爵さまとレオさまとメルさまのお返事を携えて。
お三方のお返事を要約すると、明後日まず我が家で新作おやつを試食し、それから新居の下見へ行き、その後商会店舗で面接と顔合わせをしよう、ということだった。
もちろん、リドさまとユベールくんも参加をご希望。
みなさまの、とにかくまずおやつ! という強固な意志を感じます。
特にリドさまは、おやつの試食をした後は新居の下見に同行されることなくお帰りになるそうです。もはや清々しいです。
「新居の下見が、かなりの人数になってしまいますね」
だけど私は思わず言ってしまった。
だって、レオさまメルさまにはそれぞれ侍女さんがいて、ユベールくんにも近侍さんが付いてくるよね? それに公爵さまにアーティバルトさんでしょ?
と、私が指を折って数えそうになったとき、お母さまが言ってくれた。
「もし公爵さまがいいとおっしゃってくだされば、貴女と公爵さまは下見なしで商会店舗へ向かってもいいのではなくて、ルーディ?」
「そうさせていただけるのであれば、それがいいとわたくしも思います」
うん、即うなずいちゃうよ。だってね、公爵さまはすでに下見をしてくださってるし、改装についてはもうお母さまにお任せすることで私たちは話し合いが済んでるし。
ヒューバルトさんもうなずいてくれた。
「それでは、面接を希望している者は、早めのお時間になっても大丈夫なように呼んでおきます」
「場合によっては待たせてしまうかもしれないけれど、いいかしら?」
「大丈夫ですよ」
軽くヒューバルトさんは笑ってくれた。「彼は、ゲルトルード商会店舗の中へ入ってみたくてしょうがないようで、すでに何度か店舗へ来ているのですよ。そのたびにエグムンドさんに門前払いをくらっていますので、早く来いと言われてたら喜んでやってきますよ」
おや、まあ。ずいぶん意欲的な入社希望者なのね。
「それなら、早めに来てもらっていても大丈夫そうですね」
「ええ、ご心配なく。あと、シエラ嬢の弟に声をかけておく必要がありますね。私が帰るときに、門に居るハンスに伝えれば大丈夫でしょうか?」
「はい、わたくしからシエラとハンスにも伝えますが、ヒューバルトさんもハンスに声をかけていただけると助かります」
「わかりました」
それから、明々後日に子どものお茶会を開催することについても、レオさまからOKが出ました。
っていうか、ジオちゃんもハルトくんも大喜びだったらしい。居合わせたファビー先生も感激のあまり目を潤ませていたとかいないとか……ファビー先生、マジでゲルトルード商会の超お得意さまになってくれちゃいそうです。
なお、リケ先生にはファビー先生から伝えてもらえるそうです。って、やっぱあの先生方、ぜんぶ筒抜け状態ってことじゃんね……。
まあ、でも、これで予定が立ったわ。
明日は1日栗の料理に使える。あ、お昼過ぎにツェルニック商会が来てくれるけど。明後日のお茶会に着られるドレスを届けてくれるんだから、これはもう大歓迎ね。
その明後日は、またもや盛大なお茶会というか試食会に。
ええと、公爵さまとアーティバルトさん、レオさまにリドさま、レオさまのところは侍女さん付きね。それにメルさまとユベールくんで、侍女さんと近侍さん付き。合計9名?
しかもその後、商会店舗へ行ってまた試食会するんだよね……エグムンドさんとヒューバルトさんとクラウスと……公爵さまは絶対2回食べるだろうし、いったい何人分用意しておけばいいだろう……。
さらに明々後日は、子どものお茶会。こっちは、ジオちゃんハルトくんにファビー先生、ジオちゃんの侍女さんとハルトくんの侍従さんでいいかな? あ、もちろんリケ先生もカウント。
やっぱ、明後日のぶんをかなり多めに作っておいて、残ったら明々後日に回すくらいでいいかも。いやー、冗談抜きであの大量の栗がすぐになくなっちゃうわ。
あと、明々後日の遅い時間にヨアンナ一家が到着予定。
そうよね、やっぱり栗はもう全部使っちゃおう。ヨアンナ一家は小さい子ども連れで長旅をしてきてくれるんだもん、美味しいおやつで歓迎してあげたい。遅い時間の到着なら、おやつを食べてすぐ夕飯になっちゃうから、夕飯は軽めにサンドイッチでいいかな?
その辺も、しっかりマルゴと相談しておかなくちゃ。
などと思いつつ、退出するヒューバルトさんを見送った私は厨房へ……戻る、その前に、子ども部屋よ!
お母さまと一緒に子ども部屋を訪れると、アデルリーナがお行儀よく本を読んでいた。
私はすぐに声をかけた。
「リーナ、明々後日にジオさまとハルトさまをご招待することができたわ」
「えっ?」
目を見張ったリーナに、お母さまもにこにこ顔で言ってあげる。
「子どものお茶会を、我が家で開くことになったの。もちろん、リケ先生とファビー先生もご一緒よ」
「本当ですか!」
椅子から飛び降りちゃったアデルリーナが、私たちのところへ駆けてくる。
「あの、本当に、ジオちゃんとハルトくんが……」
「もちろん本当よ、ジオさまとハルトさまにも、新作のおやつを召し上がっていただきましょうね」
私の言葉に、リーナの頬がパーッと赤く染まる。
「ありがとうございます、ルーディお姉さま!」
ああああああああもう、ホンットに、ホンットーーに、アデルリーナのこんなに嬉しそうな顔が見られるのなら、お姉さまはいっくらでもがんばっちゃいますからね!
もう、私に飛びついてきたリーナが本当にどうしようもなくかわいくてかわいくてかわいくてかわい(以下略)。
「よかったわね、リーナ。またお友だちと一緒におやつを食べられるわね」
「はい、うれしいです、ありがとうございます、お母さま!」
私とお母さまとでかわるがわるリーナを抱きしめちゃう。
アデルリーナも、こんなバカでかいタウンハウスの中でずっと大人だけに囲まれて、しかもその大人たちも決して親身になってくれるような人たちじゃなくて、そういう意味ではずっと独りぼっちだったのよね。
本当に、ジオちゃん、それにハルトくんとお友だちになれてよかった。これからもずっと仲良しでいられるように、お姉さまはいくらでも協力しますとも!
それから、子ども部屋でアデルリーナに付き添ってくれていたシエラに、シエラとハンスの弟をゲルトルード商会の下働きとして雇うという話も伝えた。
シエラは大喜びして、何度も何度もお礼を言ってくれた。
「ありがとうございます、ゲルトルードお嬢さま! あの、2番目の弟のイェンスは姉の私が言うのもなんですが、計算が得意でなかなか賢い子です、きっとゲルトルードお嬢さまのお役に立てると思います! なんでも言いつけてやってくださいませ!」
そう言って何度も頭を下げているシエラのようすを、アデルリーナがちょっと不思議そうに見ていた。
「シエラは、ハンスだけじゃなくて、ほかにも弟がいるの?」
「はい、アデルリーナお嬢さま」
笑顔でシエラが答える。「我が家は5人きょうだいなのです。私が1番上で、2番目がハンス、3番目がイェンス、4番目がデニス、そして5番目の末っ子が妹でタラといいます」
「5人もきょうだいがいるの? すごいわ! シエラって、とってもお姉さんなのね!」
目を丸くしているリーナに、シエラはやっぱり嬉しそうに笑った。
「はい、とってもにぎやかですよ。ときどきケンカもしますけど、仲良くやっています」
うふふふ、『とってもお姉さん』はいいわねー。
でも本当に、シエラがアデルリーナの身の回りの世話も上手にしてくれてるのは、小さい弟や妹の面倒をずっとみてきたからなんだろうな、と思わせられちゃう。ハンスと仲良しなのは見ていてもわかるし、シエラってほかの弟や妹もかわいがってるんだろうな。
そのシエラの、それにハンスの弟なんだから、きっといい子よね、イェンスくんも。
アデルリーナは大喜びでちょっと興奮しちゃったので、お母さまが子ども部屋に残ってくれた。シエラもちょっと興奮しちゃってるしね。
私はナリッサと一緒に厨房へ戻った。
そんでもって、すぐにマルゴと明日以降の相談よ。
「今回もまた、けっこうな数のお客さまになりそうでございますね、ゲルトルードお嬢さま」
私の説明を一通り聞いたマルゴが目を見張ってる。
「そうなの。本当に立て続けで申し訳ないわ」
「とんでもないことでございます。それに、今回は品数が少なくてございますし」
「本当に、それが救いよね」
思わず私は苦笑しちゃったんだけど、マルゴは頼もしく請け負ってくれる。
「大丈夫でございますよ、ゲルトルードお嬢さま。まずは『ぱうんどけーき』から焼いてまいりましょう。そして明日は、栗のお料理でございますね」
「ええ、よろしくお願いするわね」
でも、そのパウンドケーキなんだけど、焼き型に使える鉄鍋が2つしかないのよね……うーん、今回はモンブランを優先してドライフルーツ入りは諦めるかなと思ったんだけど、カールが言い出してくれた。
「これと同じ鉄鍋を、鋳物屋で見たことがあります。ひとっ走り行って買ってきましょうか?」
おおう、頼りになるわ、カール!
カールは本当にひとっ走りで、同じ鉄鍋を4つも買ってきてくれた。それにカールは小麦粉や卵、バターも追加で注文してきてくれて、どんどん配達されてくる。
うむ、準備万端、今回もみんなで力を合わせておやつを作りまくるわよー!