163.なんでみんな受けて立っちゃうの!
本日2話目の更新です。
かくして、王妃さまはさっそうと去っていかれました。
うーん、ご用意できたお土産は、女官のトルデリーゼさんや護衛の近衛さんたちのぶんまではさすがに足りなかったと思うけど、ご家族のぶんくらいはお渡しできたと思う。
って、そのご家族ってのが、国王陛下に王太子殿下に王女殿下に王子殿下なんだけど。私もちょっと麻痺してきたかも。
いやーでも、マルゴに感謝感謝だわ。
ホントにフラグ立っちゃってたけど、マルゴが言ってくれた通り、どのお料理もかなり多めに用意して持ってきてたの、大正解だったもん。
レオさまメルさまのところへのお持ち帰りだけでなく、王妃さまにもしっかりお土産を渡すことができたし。
まあ、そのぶん、公爵さまの取り分は減ったと思うけど、さすがに公爵さまも文句は言うまい。だって、自分の取り分を大好きなベルお姉さまに渡したようなものだものね。
ここは当然、マルゴを始め頑張って準備してくれた我が家のみんなに、しっかりボーナスを弾まなきゃ。
もちろん、今日すごく頑張ってくれてるシエラとナリッサにも、それになんだかんだ言ってもいろいろソツなくこなしてくれてるヒューバルトさんにも、ボーナス出さなきゃだわ。
王妃さまがお帰りになったことで、このお茶会もお開きムードになってきた。
とりあえず、用意したおやつも軽食も、みなさん一通り食べてもらったしね。
お母さまとレオさまメルさまは、新居へ一緒に内覧に行く日を取り決め、すぐに改装の手配をしましょうということでまとまったみたい。そっちはもう、お母さまに丸投げ、げふんげふん、えっと、全部お願いしちゃってよさそうな感じだわ。
いや、でも本当に、いままでずっと籠の鳥にされてたお母さまには、仲良しのレオさまメルさまとお話しできる機会が増えるのはとってもいいことだと思うし。
「では、本日はこの辺りで散会とさせていただこう」
公爵さまが立ち上がって挨拶してくれる。「皆にはゲルトルード商会の商品について、忌憚なき意見を述べてもらえたことに感謝する。ゲルトルード商会店舗の開店をぜひご期待のうえ、お待ち願いたい」
私も公爵さまに促され、立ち上がって挨拶した。
「本日はご参加いただき、まことにありがとうございました」
その後は、レオさまメルさまが私のところへやってきて、本当に美味しかったわ、開店したらすぐ購入させてもらうわね、レシピも全部購入するわ、と口々に言ってくれた。
そしたら、レオさまの言葉を横で聞いていたリドさまが言い出した。
「義母上、このさいですから、私たちも『新年の夜会』に参加しませんか?」
「あら、いいわね、リド!」
レオさまがパッと顔を明るくする。「そうよね、別に学院に在学している生徒とその保護者でなければ参加してはいけないというわけではないですものね! 貴方と2人で参加して、我が家からもご祝儀の軽食をお出ししましょう!」
「レオ姉上、祝儀の軽食については――」
「もちろん、ルーディちゃんのレシピを使わせていただくわよ!」
言いかけた公爵さまの言葉を、レオさまはぶった切ってくれちゃった。
「いいでしょう、ルーディちゃん?」
「もちろんです、レオさま」
と、にこやかに答える以外、私にナニが言えるだろう。
公爵さまも、ちょっと拗ねちゃったみたいだけど、それでもちゃんと言ってくれた。
「では、どちらの家からどの料理を出すかは、また改めて相談しましょう」
「そうね、それがいいわね」
うなずいたレオさまに、公爵さまはちょっとばかりどや顔でさらに言う。
「ゲルトルード嬢はこれからまた新しい料理を試作すると言っていますから、その新しい料理ができてから相談したほうがいいでしょうし」
「ルーディちゃん」
にこやかなレオさまの顔が私に向く。「新しいお料理の試作には、ぜひわたくしも呼んでちょうだいね? わたくし、ゲルトルード商会の顧問にもなったことですしね?」
「え、ええ、そうですね。ぜひレオさまにもご試食をお願いいたしますわ」
と、やっぱりにこやかに答える以外、私に言えることなどない。
だからもう、仲良し姉弟で張り合わないでくださいまし。
そんでもって、メルさまもちゃっかり便乗してこられました。
「ルーディちゃん、試作のさいにはぜひわたくしも呼んでいただきたいわ」
同じくにこやかにメルさまは言う。「レシピの絵を描くことについても、詳しく相談させていただきたいことですしね」
「ええ、もちろんです、メルさま」
と、やっぱりやっぱりにこやかに答える以外、私にはナニも言えるわけがない。
そう、ナニも言えない私に、ユベールくんまでさり気なく詰め寄ってきた。
「ルーディお姉さま、僕は残念ながら『新年の夜会』には参加できませんけれど」
まだ学院に入学していないため、どう頑張っても『新年の夜会』に出席できない美少年侯爵さまは、その天使のような顔面圧を最高にして言ってくれちゃった。
「でも、来年春の『新入生歓迎舞踏会』では、最初に僕と踊ってくださいね」
ひいぃぃぃーーーー!
『新入生歓迎舞踏会』!
そ、そんなものが、確かにあったよ! 私は、自分が新入生である今年は華麗にスルーしたけど!
笑顔を貼り付けたまま固まっちゃった私に、美少年侯爵さまはにっこりと笑い、やっぱりさり気なく私の左手を取った。
「約束ですからね、ルーディお姉さま」
そう言って、ユベールくんは私の手の甲に、ちょんっと自分の鼻を……だから、上目遣いでにんまり笑ってないでよ、この腹黒美少年め! しかもその上目状態でチラッとリドさまを見るのを止めて!
ってリドさまも、にこやかに受けて立ってくれちゃうし!
「そうですね、私も『新年の夜会』では、ぜひルーディ嬢に踊っていただかなければ」
だから、リドさまも挑発に乗るのは……。
「リド、ゲルトルード嬢と最初に踊るのは私だからな」
って、公爵さままで受けて立たないでください!
いやもう、お願いします、本当にマジでお願いします、私はいったい何回、残念ダンスを披露しなきゃいけないの?
それも、王妃殿下の実弟エクシュタイン公爵さまがお相手っていうだけですでに拷問状態なのに、ガルシュタット公爵家嫡男で伯爵位をお持ちのリドさまと、仮とはいえすでに侯爵位を継いでいて王太子殿下の側近にも内定しているユベールくんだよ! どれだけ私のHPをゴリゴリ削れば気が済むんだよー!
ああもう、どうしよう、『新年の夜会』は公爵さまが私の後見人になってくださったことのお披露目と、さらにコード刺繍のお披露目を兼ねてるから、どうしても逃げるわけにはいかない。でも、『新入生歓迎舞踏会』は……。
いや、冗談抜きで『新入生歓迎舞踏会』は危険すぎるわ。そんな場でユベールくんの最初のダンスの相手なんかしちゃったら、それから先ずっと、学院内で私は『あのホーフェンベルツ侯爵さまのお相手』って目で見られちゃうこと間違いナシだもん。
無理無理、絶対無理!
なんかもう、ようやく、やっとこさ、栗拾いイベントを乗り切れたかってところまでたどり着いたのに、次々と新たなる案件が……ホントに本気で泣きそうよ……。
いやもう、春までにユベールくんの気が変わることを期待しつつ、本気で逃げ切る方法を考えなければ。
そもそも、ユベールくんだって、私の残念ダンスを見ちゃったら愛想をつかすと思うのよ。いや、でも、その残念ダンスの披露の場が『新年の夜会』だっていうのは……さすがに公爵さまに恥をかかせるわけには……いやもう間違いなく、恥をかかせちゃうだろうけどさ。
うう、とりあえず、ダンスの練習はリケ先生に相談すればいいかな。
せめて、なんとかごまかしがきくくらいまでは、練習しておかなきゃ。
あとは乗馬かな。私の残念っぷりを、いかんなく発揮できるのは。
だってね、もう自慢できるくらいだもん、ホンットに馬に鼻であしらわれちゃうレベルだから、私の乗馬スキルって。
とにかくユベールくんのほうから、愛想をつかしてもらえるようにしないと。
だって、メルさまとの関係を考えたら、今後ユベールくんとの付き合いを完全に断っちゃうことはできないでしょ。お母さまとメルさまの関係に、問題を生じさせるようなことは絶対にできないもの。
ここはやっぱり、ユベールくんのほうからそっと目を逸らしてもらえるようにもっていくのよ! どれだけマヨネーズを気に入ってくれていようが、ね!
などなど、真剣に私が考えているうちに撤収作業が始まってました。
そして私は公爵さまの馬車に積み込まれ、いや乗せていただいて、帰路についたのでした。