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17.衣装と荷造りと侍女

 あのね、ほんの数日前まで、私たち所持金ゼロだったの。


 いや、家の中にお金はあったと思うのよ、書斎に金庫だってあるし。でもね、家じゅうのありとあらゆるものに差し押さえの札を貼られてるような状態なの、勝手に使うわけにいかないの。

 所持金ゼロで家からも立ち退きを迫られてて、本当に路頭に迷うしかないかもしれないって状態だったのよ?


 それなのになんで、私のドレスが増えていくの?


 なんかもうお母さまは大喜びで、そしてお母さま以上にナリッサもノリノリで、お母さまのドレスを私が着られるように、大量に仕立て直そうとしてる。

 もちろん、ツェルニック商会のリヒャルト弟も爆ノリ。400着以上あるお母さまの衣裳の中から、厳選に厳選を重ねたって言って30着以上を選び出してくれたんだけど、そんなにたくさんいらないって!


 とにかく、私はまだ成長期でこれから身長も体形も変わる可能性もあるしって説得しまくって、なんとかとりあえずドレスを3着、乗馬服を1着、コートを1着だけ仕立て直ししてもらうように話をまとめた。

 いや、今後も必要に応じて仕立て直しできるようにってことで、選び出してもらったドレスは買取には出さず、そのままお母さまがキープしておくことになっちゃったんだけどね……。


 これがアデルリーナのためにドレスを仕立て直すっていうなら、100着でもドーンと来い! 状態だったんだけど、さすがに10歳じゃまだ正式なドレスは必要ないってことで、今回は1着だけの仕立て直しになった。ううむ、残念。

 でもそれがあの青空色のドレスなので、私の紺青色のドレスとさり気なくおそろいにできるわけで……アデルリーナとおそろい……んふふふふふふふふふ(以下略)。


 まあそれでも200着以上買い取ってもらったし、靴やショールやボンネット(帽子)、日傘にレティキュール(手提げ袋)などなど小物も結構買い取ってもらえて、それなりの収入にはなったわ。

 一応、ツェルニック商会に来てもらう前に、クラウスの伝手で商業ギルドの服飾品部門の人に来てもらって、我が家の衣裳を買い取ってもらうならいくらくらいになるかって相談はしておいたの。

 ツェルニック商会の買取価格はそのとき予想してもらった価格と大きくは違わなかったので、健全経営の信頼できる商会認定でOKだな。兄弟そろってちょっとキャラは濃そうだけど。


 しかしお母さまにはまだ200着以上の衣裳があって、しかもそれがTシャツやデニムみたいな気軽な服じゃなく、フルオーダーのオールハンドメイドな衣裳ばかりなわけよ。それはもう日本人感覚で言えばとんでもない量と質なんだよね。なんかもう、服としての存在感が圧倒的に違う。

 それでも、伯爵家夫人として400着でも多いとは言えない量だし200着なんて少なすぎるって、リヒャルト弟は激しく主張してたんだけどね。


 うん、けどね……私は今回の3着をいれても自分のドレスって10着くらいだわ。学院に通っている間は、とりあえずどこへ行くにも制服さえ着ていればOKなので誤魔化せてるのよね。制服だけは、あのドケチのゲス野郎も外聞を案じたのか、ひとそろい買ってあてがわれてたんだよね。

 ナリッサが黙ってくれているので、お母さまは私のドレスの正確な数は把握できてないんだけど、でも知っちゃったらきっとお母さま泣いちゃうな……貴族令嬢にあるまじき数だって。

 うん、やっぱこれからも黙っておこう。



 そう思ってたのに、いきなり危機に直面してしまった。

 引越しの荷造りだ。

 これだけ衣裳が少ないと、引越し荷物も当然少ない。それはすごく楽ちんなことではあるんだけど、私の衣装箱がせいぜい2つとかしかなかったら、絶対お母さまにバレちゃうよね……。


 衣装箱っていうのは、ちょうど日本の長持みたいな感じの蓋付き箱で、畳1枚分くらいの大きさで高さは70~80㎝くらいかな。

 この箱に、装飾の多いイブニングドレスなら5~6着、シンプルなデイドレスなら10着くらいは入る。あれこれ合わせて200着以上まだ衣裳があるお母さまの場合、たぶん30箱以上必要になるはず。小物や靴なんかを合わせると、まあ40箱は超えると思う。


 私はねえ……たぶん2箱で余裕だな。

 仕立て直しの衣裳がいま届いたとしても、せいぜい3箱だ。


 うーん、とりあえず我が家にある衣装箱の数にも限りがある……ということにして、詰め込んだ箱からどんどん新居へ運び、空箱を持って帰ってきてまた詰める、という形にして誰の衣裳が何箱あるかわかりにくいようにしちゃおうか。

 いっぺんに全部運ぶとなると、すべての箱を並べることで一目瞭然になっちゃうからね。

 お母さまに訊かれたら、私の衣装箱はすでに何箱か運んでしまいました、とか言えばごまかせると思う。


 衣装箱を運ぶには荷馬車を商業ギルドから貸し出してもらうことになるんだけど、ナリッサは荷馬車も操れるって言ってるから、実際にナリッサと私で荷造りできた箱から運ぼう。そうしよう。


 しかし、荷馬車ってこのでっかい衣装箱をいくつ積めるんだろう。

 私の分はともかく、お母さまとアデルリーナの分だけで50箱は超えるよね。10箱積めたとしても6往復は必要ってことかな。


 はあ、貴族の引越しっていうか住み替えって、ふつうは何か月もかかる、場合によっては1年以上かかるって言われるの、本当にその通りだわ。我が家のように、本当に身の回りのものしか持ち出せない場合ですら、この状態だもの。

 まあ、そのおかげで、買ったばかりの新居に家具やカーテン、什器なんかが備え付けになってるんだけどね。運び出す手間と費用を考えれば、家ごとまとめて売っちゃうほうがよっぽど簡単だもんねえ。


 そして私は自分の衣裳や身の回りの品の荷造りを始めようとして、またちょっと問題に気が付いた。

 荷物の運び出しを私とナリッサがするとして……その運び出しをしてる間、お母さまとアデルリーナは荷造りができない。そう、侍女がいないから。


 うん、お母さまもアデルリーナも、自分で荷造りなんてできないと思う。

 とりあえず執事のヨーゼフは貴族女性の衣裳の扱いも多少は心得てるはず。でも、男性の執事に下着まで荷造りさせるのはどう考えても無理。当然、カールやハンスに手伝わせるわけにもいかない。


 でもじゃあ、ヨーゼフやカール、ハンスに荷物の運び出しをしてもらうっていうのは……デカくて重いのよ、衣装箱って。

 おじいちゃん執事のヨーゼフに無理をさせたくないし、カールとハンスも2人で1箱運べるかどうか。ハンスはともかく、カールはまだ本当に子ども体形だからちょっと厳しいよねえ。


 荷運びを私がする以上、荷馬車の御者をハンスにさせるわけにもいかない。

 いやもう、伯爵家の令嬢が荷馬車に乗るって時点でかなりアウトっぽいのに、子どもとはいえ男性の従者と2人きりで馬車に乗っちゃったりなんかしたら完全アウトなのよね。ホンット、貴族は面倒くさい。


 ああもう、ナリッサが2人欲しい。

 いや、ナリッサほど超有能でなくてもいいから、ふつうに真面目に働いてくれる侍女が大至急必要かも。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 見栄っ張りだったクズ父親の衣装も、相当数あるはずだから小物含めて全部売ればいいよ
[一言] 数十着かなと思っていたら400着もあって草 ひと財産だね
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