162.やっぱり包囲網?
本日は4話+登場人物紹介ページを更新します。
まずは本日1話目の更新です。
それから王妃さまは、アデルリーナの後ろに控えていたリケ先生にも声をかけた。
「リケ、其方はアデルリーナの家庭教師になったのだったな。アデルリーナは、我もよく知るリアのかわいい娘だ。しっかり面倒をみてやっておくれ」
「もちろんでございます、王妃殿下」
そうだった、リケ先生は王妃殿下付き女官見習だったんだっけ。そりゃ王妃さまとも面識あるよね。
そして王妃さまはなぜか、さっきの女官さんに声をかけた。
「リゼ、其方も挨拶しておきなさい」
声をかけられた女官さんは、すっと頭を下げた。
「はい、ありがとう存じます、王妃殿下」
そして彼女は、私とお母さまに向き直った。
「クルゼライヒ伯爵家ご令嬢ゲルトルードさま、ならびに未亡人コーデリアさま。初めてお目にかかります。わたくしはキッテンバウム宮廷伯爵家長女でトルデリーゼと申します」
って、あの、キッテンバウム宮廷伯爵家って……。
思わずリケ先生に目を遣ると、先生はにこにこ笑ってる。
女官さんは言葉を続けた。
「このたびは我が家の次女フレデリーケをご当家ご令嬢の家庭教師としてお迎えくださいましたこと、まことにありがとうございます。愚妹には至らぬことも多々ございましょうが、なにとぞよろしくお願い申し上げます」
なんと、リケ先生のお姉さまでいらっしゃいましたか!
そう言われてみれば、すらっとしたモデル体型で目の色も同じスモーキークォーツだし……って、雰囲気は全然似てないよ、このご姉妹は。いつもにこにこしてるリケ先生と比べて、このトルデリーゼさんは本当にきりっと引き締まった表情で、いかにもデキるお姉さまって感じだもん。
と、いうところで、にこやかにご挨拶を返しながら、私は気がついた。気がついて、しまった。
リケ先生のお姉さんが王妃さまの女官さん……ってことは、我が家の情報はリケ先生からお姉さん、そして王妃さまへと筒抜けになっちゃうのでは……?
えええええ、ちょっ、ちょっと待って、リケ先生の立ち位置ってナニ?
だって、幼なじみで仲良しのファビー先生はレオさまんチのジオちゃんの家庭教師で、お姉さまのトルデリーゼさんは王妃さまの女官?
当然お姉さまのトルデリーゼさんとリケ先生は、王宮内の宮廷伯邸で一緒に暮らしてるのよね? しかも、ファビー先生も同じく王宮暮らしだし……つまり、ほとんど毎日顔を合わせてる間柄ってことで……。
なんか、なんか、すっごい包囲網の要にリケ先生が居る気が……い、いや、確かにリケ先生を選んだのは私たちで、リケ先生にはリーナもすでになついていて、間違いなくいい先生だと思うんだけど。
でも、でもどうしても拭いきれないこの『嵌められた』感は、いったい……?
リケ先生はやっぱりにこにこしてて、リーナに自分のお姉さまのトルデリーゼさんを紹介してる。
「リケ先生から、先生にもお姉さまがいらっしゃると聞いていたのです。そのうち、お会いできるかもとお話ししていました」
リーナがちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうに言うと、きりっとしたトルデリーゼさんの口元がちょっと緩んだ。
「そうでしたか。アデルリーナさまにも素敵なお姉さまがいらっしゃいますものね」
「そうなのです! でも、リケ先生のお姉さまもすてきです!」
「まあ、ありがとうございます、アデルリーナさま」
あああああああ、やっぱりアデルリーナは本当にかわいくてかわいくてかわいくてかわ(以下略)。ええもうすっかりリケ先生になついちゃってるし、それにトルデリーゼさんともとってもいい雰囲気でお話ししちゃってるし。
うん、いや、間違いなくリケ先生はいい先生だと思うの。
ただホント、その立ち位置っていうか、包囲網的にすっごく重要なポジションになっちゃってるっていうか。
いや、でも、王妃さまは我が家のこと、お母さまのことを、ずっと心配してくださっていたようなので、なんかこう、ご自分の女官見習だったリケ先生を気持ちよく我が家の家庭教師へと送り出してくださった、その結果とか……?
ちらりと私が視線を送った先では、王妃さまがジオちゃんハルトくんとお話しされていた。
ジオちゃんは、なんかものすごく真剣な顔で王妃さまに訴えてる。
「ベル伯母さま、あの、『ぷりん』が、『ぷりん』が本当に美味しくて……!」
「おお、我も先ほど味わった。本当に美味であったな」
「そうなのです、とっても美味しいとリーナちゃんから聞いていたのですけれど、思っていたよりもずっと、ずーっと美味しくて!」
ハルトくんも熱心に訴えかけてる。
「ベル伯母さま、おいものサラダをはさんだパンも、本当においしかったです! 『まよねーず』というソースを使っていて、たまごやベーコンに合わせてもとってもおいしいって、リーナちゃんがおしえてくれました!」
うん、見事なまでに、本日食べたものの話ばかりのようです。
ジオちゃんはさらに訴えてます。
「あの、レイアお姉さまもきっと大好きになると思うのです! ルーディお姉さまのお店ができたら買ってきてもらって、いっしょに食べたいのです!」
「うむ、そうだな。レイアもリークも気に入るだろう」
王妃さまが満足そうにうなずいてる。「デマールはおそらく『はんばーがー』や『ほっとどっぐ』のほうが気に入るだろうが」
ええ、レイアディーネ王女殿下もギュスタリーク王子殿下も、きっとプリンやポテサラサンドはお好きだと思いますとも。それに、17歳高校生男子なヴォルデマール王太子殿下ならハンバーガーはマストアイテムでしょう。
私は、ヒューバルトさんにちらっと視線を送る。
ヒューバルトさんはすぐに私の意図を察してくれて、はっきりうなずいてくれた。
いけそうね?
ってことで、私はまず公爵さまにそっと問いかけてみた。
「公爵さま、王妃殿下にお土産をお渡しすることは、失礼にはあたりませんでしょうか?」
公爵さまが口の端を上げ、少し身をかがめて小声で答えてくれた。
「いや、すでにこの場で毒見も済んでいる。お渡しして大丈夫だ」
さすがに、王妃さまへのお土産を渋るようなことは、公爵さまもしないらしい。公爵さまは、すぐに王妃さまに声をかけてくれた。
「ベル姉上、よろしければ本日の料理を少々、土産としてお渡ししたいのですが。ギュスト義兄上やデマール、レイアやリークにもぜひ味わっていただきたいです」
「おお、それはありがたい」
王妃さまもパッと反応してくれた。それも、めっちゃ嬉しそうに。
「では、すぐにご用意いたします」
私も笑顔で応え、ヒューバルトさんにうなずいてみせる。ヒューバルトさんとアーティバルトさんはそろってかごを取り出し、プリンやらハンバーガーやらを詰め始めてくれた。
しかし、ヴェルギュスト国王陛下がギュスト義兄上ですか。ヴォルデマール王太子殿下もデマール呼びなのね?
今更ながら、公爵さまってやっぱり公爵さまだったのね、我が国の最高位貴族のお1人なのね、と思わずにいられない。なんかもう、私の中ではすっかり、食いしん坊過ぎて図々しい残念系キャラで確立しちゃってるんだけど。
でも、そう言えば公爵さまって、10歳から17歳まで、王妃さまであるベルお姉さまに引き取られて王城で育ったって言ってたっけ。だったら、国王陛下との距離感が近いのもうなずけるわ。
ヴェルギュスト国王陛下は側妃をお持ちではないし、王妃さまとの夫婦仲はとってもいいって聞いてるし。だったら、王妃さまの弟である公爵さまのことも、陛下はかわいがっておられるのかもしれない。
まあ、引き取られたときは10歳だもんね、そりゃそれなりにかわいかっただろうね、公爵さまも。いまは、こんなにでっかくなっちゃってるけど。
なんかある意味、ベルお姉さまの王家は、公爵さまにとってはいちばん家族らしい存在なのかもしれないな。
などと私が思っている間に、イケメン兄弟はソツなくお土産をそろえてくれた。
そして王妃さまは、プリンやらハンバーガーやらホットドッグやらフルーツサンドやらがみっちり詰まったお土産のかごを受け取り、笑顔で言ってくださいました。
「ゲルトルード、其方の考案する料理は、話に聞いていた通りいずれも本当に美味であった。其方の商会店舗の開店が実に待ち遠しい」
「過分なお言葉、ありがとう存じます」
と、私も笑顔でお応えしちゃったんだけど……話に聞いていた通り?
王妃さまはさらに言ってくれちゃいました。
「ああ、そうだな、店舗の開店の前に『新年の夜会』でも、其方の料理を供してくれるのであったな。しかも、さらに新しい料理を考案中だとか。そちらも楽しみにしている」
って、やっぱすでに筒抜けじゃん!
私は顔を引きつらせないよう、なんとか笑顔で応えたんだけど。
本日初対面だよね、王妃さまと私って? それって公爵さまからの情報? それともレオさま? なんかやっぱり、リケ先生が居ても居なくてもすでに我が家は、王妃さまからもきっちり包囲されちゃってるってこと?
いや、いいんだけどさ、王妃さまはお母さまのこともずっと気にかけてくださってたようだし。
いいんだけど。
いいんだけど、やっぱどっか、してやられちゃってる感が残っちゃうの、どうすればいいのよー!