161.これは本日のご褒美かも
本日4話目の更新です。
それから王妃さまは次々と、フルーツサンドもバタークリームサンドも、メレンゲクッキーもお召し上がりになった。
「この白いクッキーはおもしろい形をしていると思ったのだが、口に入れてみるとさらに驚かされるな」
「ええ、本当に軽い口当たりでとても美味しいですから、手が止まらなくなりますわ」
レオさまもにこにこで応えちゃってるし。
当然、公爵さまも負けてない。
「ベル姉上、この果実とクリームをはさんだサンドイッチも美味ですが、卵やベーコンなどをはさんで軽食にしたサンドイッチもたいへん美味です」
「ほう、具材を変えることでさまざまな味わいが楽しめるのだな」
そこで公爵さまが私を促してきた。
「ゲルトルード嬢、本日先ほど我らが食したハンバーガーなども、王妃殿下にご提供できるであろうか?」
ええもう、たぶんそうなると思ってましたよ。
私がチラッとヒューバルトさんに視線を送ると、ヒューバルトさんはしっかりうなずいてくれた。
「王妃殿下、本日は卵やベーコンのサンドイッチはご用意していないのですが、別の種類のサンドイッチがございます。よろしければ、ご試食いただけませんでしょうか?」
「ほう、それはぜひ、食させてもらおう」
すぐにアーティバルトさんとヒューバルトさんのイケメン兄弟が、ハンバーガーとホットドッグとポテサラサンドを用意してくれる。ホンット、かなり多めに準備してきておいて大正解だったわよ。
王妃さまのはちみつ色の目が、なんかもうすっごく楽し気にきらめいちゃってるし。
「これはまた、すばらしいな。パンに食材をはさむという料理で、このようにさまざまな種類が作れるものなのか」
「ベル姉上、この細長いパンのホットドッグは、軍の携行食糧に採用することとなりました」
「確かに、この形であれば片手で簡単に食べられるな。しかも、ソーセージがまるごと1本入っているのか。これは兵士も皆、喜ぶであろう」
そして、王妃さまが試食されている間にほかの人たちも発言を許され、口々に食後の感想を言ってくれた。
「王妃殿下、その『はんばーがー』は本当に驚くほど美味です。しっかりと食べ応えもありますのに、私は2ついただいてしまいました」
なんてリドさまが言えば、ユベールくんも言ってくれちゃう。
「王妃殿下、その芋のサラダに使用されている『まよねーず』というソースは、本当に美味しいです。芋のサラダだけでなく、さまざまな食材を美味しく食べることができます」
ユベールくんの発言を受けて、レオさまメルさまもすぐに言ってくれた。
「そうなのです、ベルお姉さま。この『まよねーず』ソースを使ったベーコンとレタスの『さんどいっち』も、とびきり美味しゅうございましたわ」
「ええ、本当に。王妃殿下、その『まよねーず』で、刻んだゆで卵を和えてはさんだ『さんどいっち』も、本当に美味しくて驚きました」
王妃さまは、みんなの感想にうむうむとうなずきながら、もりもりと食べてくださってます。
いやホント、まさか王妃さまが全種類完食してくださるとは。
なんかもうここまでくると、めっちゃ男前! としか言いようがないかも。
本当に満足げに、王妃さまが言ってくださっちゃいました。
「うむ、いずれも極めて美味であった」
ナプキンで口元を拭い、王妃さまは私に笑顔を向けてくれる。
「ゲルトルード、其方の商会店舗の開店が、実に待ち遠しい」
「もったいないお言葉にございます、王妃殿下。ありがとうございます」
ひゃー王妃さまのお墨付き、もらっちゃったかも。
いや、マジで『王城に納品してます』って、超プレミアだよね? 文字通り『王家御用達』だもんね?
なんかホントに、がっつり稼げる気がしてきた。これなら、我が家のメンバーだけでなく、商会のメンバーもちゃんと養っていけるかも!
思わず私も、イイ笑顔になっちゃったわよ。
そのとき、すっと1人の女性が王妃さまに近づいた。
あれ、このかたは侍女さんじゃなくて……女官さん? この黒い衣装は制服っぽい。しかも、スカートは乗馬の横鞍用だわ。女官さんって、すぐに馬に乗れるよう、制服が常に乗馬用なのかな?
その女官らしき女性は、王妃さまにそっと耳打ちした。
「殿下、ガルシュタット公爵家ご令嬢ジオラディーネさまとご令息ハルトヴィッヒさま、それにクルゼライヒ伯爵家ご令嬢アデルリーナさまが、よろしければご挨拶なさりたいとのことです」
「おお、ジオとハルトも来ているのか。それにリアの下の娘も?」
王妃さまはそう言いながら、お母さまと私の顔を見た。
お母さまは嬉しそうにうなずいて答えた。
「はい、王妃殿下。我が家の次女はいまだ魔力は発現しておりませんが、本日はみなさまのご厚意にて参加させていただきました」
「そうか、それはぜひ会いたいな。もちろん、ジオとハルトにも」
王妃さまが鷹揚にうなずき、女官さんは礼をして下がっていく。
あああああ、アデルリーナまで王妃さまにご挨拶することになっちゃった!
すぐに、お子ちゃまチーム3人が、先ほどの女官さんに連れられてやってきた。
ジオちゃんとハルトくんは、まったく緊張しているようすはない。そりゃそうよね、2人にとっては、王妃さまは母方の伯母さまだもの。王妃さまとレオさまの仲の良さから考えれば、もう赤ちゃんのときから数えきれないくらい会ってるんだと思う。
でもアデルリーナは……うん、緊張はしてるようだけど、ガチガチってほどでもないわ。もしかしたら、王妃さまっていう存在がまだよくわかってないのかもしれないけど。それでも、私の賢くてかわいいかわいいかわいいリーナなら、ちゃんとご挨拶できるはず!
一方で、リーナの後ろに控えているシエラがもう、ここから見ていても震えているのがわかる。深く頭を下げてるから見えないけど、たぶん顔も真っ青だと思うわ。
シエラにしてみれば、お針子から伯爵家の侍女になったというだけでもすごく大変なのに、いきなり公爵家と侯爵家が居並ぶお茶会に参加させられ、ついには王妃さままでいらしたんだからね、そりゃあもう恐ろしいどころじゃないでしょうよ。
もうちょっとだけ頑張って、シエラ!
明日以降お休みをあげるし、ボーナスも弾むからね!
「王妃殿下にはごきげんうるわしく、本日お目どおりできましたこと、光栄にぞんじます」
まずはジオちゃんが、澄ました顔でカーテシーを披露する。
そしてハルトくんも、ちょこんと片膝を突いて頭を下げた。
「王妃殿下にはごきげんうるわしく、本日お目どおりできましたこと、光栄にぞんじます」
うふふふ、口上もおんなじね。たぶん、ふだんからこの口上でご挨拶してるんだろうね。2人とも子どもらしいつたなさはあっても、すごく慣れてる感じだし。
で、次は我が家の賢くてかわいくてかわいくてかわいいアデルリーナだ。
「王妃殿下には初めてお目にかかります。クルゼライヒ伯爵家次女のアデルリーナともうします。どうぞ、よろしくお願いもうしあげます」
ああああああああああ、ホンットになんで私の妹はこんなにもかわいくて賢くてかわいくてかわいくてかわ(以下略)。
もう、カーテシーだって完璧よ、片足を引いて膝を折って、スカートを両手でちょこんとつまんで。ホンットにホンットに録画できる機材がないの悔し過ぎる! 非公式とはいえアデルリーナの、王妃さまへの初めてのお目見えなんて、録画できていたら私、無限に再生して観ちゃうのに!
とにかくいま、自分の脳内に焼き付けておくしかないわ!
へにょへにょににやけてしまいそうな顔に、ぐっと力を込めてそのようすを見ている私の前で、王妃さまも上機嫌で応えてくれた。
「うむ、みな上手に挨拶できたな。楽にしなさい」
ジオちゃんとハルトくんが、ぱーっと笑顔になった顔を上げる。
それにリーナも、素直にホッとした表情で顔を上げた。そしてすぐにその顔に、はにかんだ笑みを浮かべちゃう。うあああああ、ホントに、ホンットになんで私の妹はこんなにもかわいくてかわいくてかわいくてかわいい(以下略)。
そんでもって王妃さまは、アデルリーナに声をかけてくださった。
「初めまして、アデルリーナ。我がこの国の王妃だ」
目を見張って見上げているリーナに、王妃さまはやさしく続けてくれる。
「このジオラディーネとハルトヴィッヒは、我の姪と甥にあたる。特にジオラディーネは其方と同い年だ。学院でも同級生になる。仲良くしてやってほしい」
少し戸惑ったようすのリーナを、リケ先生がそっと促してくれる。
「はい、あの、王妃殿下」
頬を染めたリーナが答えた。「あの、ジオちゃ、ジオラディーネさまは、わたくしのお友だちになってくださいました。ずっと、なかよしでいたいと思います」
「そうか、それはよかった。ずっと仲良くしてやっておくれ」
うおおおおおーーーーーー!
私はもう脳内大絶叫で悶絶よ! だって、だってだって、王妃さまが! 王妃さまがあんなにやさしい笑顔でアデルリーナに!
そうです王妃さま、我が家のアデルリーナは本当に本当に賢くてかわいくてかわいくてかわいくてかわい(以下略)で、しかもとっても素直でやさしい性格で、明るく活発なジオちゃんとは相性バッチリです! これからも間違いなく、ずっと仲良しなお友だちでいられると思います!
なんかもう、ホントにへにょへにょのニヨニヨになっちゃいそうな自分の顔を、崩してしまわないようぐっと力を込めてるだけで必死だわ、私。いやもう、口元はちょっとぴくぴくしちゃってるかも。
今日は本当に、このアデルリーナが見られただけですべてOKです! 今日までの何もかもが、すべて報われました!
王妃さま、本当にありがとうございます! とびっきりのご褒美をいただいた気分ですわ!
なんだかもう、気がついたら前回更新から10日以上経ってしまっておりまして(´;ω;`)
まとめて数話更新ですから、そのぶんを2~3日に1回1話ずつ更新していければとも思うのですが、私の場合まとめて更新という形のほうが合っているようなのです。
読んでくださる皆さまには申し訳ないですが、当面このスタイルでいこうと思っていますので、なにとぞよろしくお願いいたします。