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154.なんか思ってたのと違う

本日2話目の更新です。

「ゲルトルード嬢のお料理は、どれも本当に美味しいですね」

 リドフリートさまは2個目のハンバーガーをペロリと平らげ、さらにポテサラサンドも1個食べ終えて、なんとさらに3個目のハンバーガーに手を伸ばした。

 いや、食べすぎ食べすぎ、なんなのこの見かけとギャップありすぎの爆食さんは?

 リドフリートさまって体つきも細めだし、なんかずっとにこにこしてて、ジオちゃんやハルトくんの面倒もみてあげてて、見るからに草食系って感じなのに。


「リド、まだ前半戦だぞ?」

 ハンバーガーに続いてホットドッグを食べ終えた公爵さまが、ナプキンで口を拭いながら言ってくれた。

「この後、さらにおやつが出てくる。プリンはもちろんだが、ほかのおやつもまた格別に美味だからな」

 言いながら、公爵さまは私に視線を送ってきた。

「はい、この後お出しする予定にしておりますのは、プリンのほかに、果実とクリームのサンドイッチが2種、それにバタークリームサンドが2種とメレンゲクッキーになります」

 笑顔で応えた私に、公爵さまは満足げにうなずき、リドフリートさまは口の端を上げた。

「おや、それは楽しみですね。では後半戦に向けて、少し控えておきましょうか」


 ええもう、ぜひそうしてください。

 私なんてね、後半戦もすべての品に口をつけなきゃいけないんで、ハンバーガー以外は全部食べかけのままで持ち帰りにしましたからね。ホットドッグもポテサラサンドも、ひと口食べただけで蜜蝋布に包んでヒューバルトさんに渡しましたからね。

 いやもう、フルーツサンドはかなりボリュームあるし、バタークリームサンドもサイズのわりにはかなりずっしりくるおやつだもんで。

 ホント、こっそり【筋力強化】してお腹を減らしておけばよかったかも、って思ってるくらいだから。


「後半戦もたくさんご用意いただいたのね」

 レオさまが、ホットドッグに伸ばしかけていた手を止めちゃった。

 そんでもって、なんかもう真剣に考えこんじゃってる。

「ヴォルフがあれほど自慢している『ぷりん』は、必ずいただくものとして……果実とクリームの『さんどいっち』も味わってみたいわね」

「わたくしも、ぜんぶいただけるかどうか怪しいわ」

 メルさまも、ハンバーガーとポテサラサンドを1個ずつ召し上がったところで考えこんじゃった。

「こんなに美味しいお料理を、こんなに何種類もいただける機会なんて、滅多にないですのに」


「あの、レオさまもメルさまも、お召し上がりきれなかったぶんは、お土産としてお持ちくださって結構ですので」

 私がそう言うと、レオさまもメルさまもバッとばかりに私に顔を向けてきちゃった。

「お言葉に甘えるわ、ルーディちゃん!」

「ええ、本当にありがとう! ぜひ、いただいて帰るわね」

「はい、どうぞお持ちください」


 笑顔でうなずく私の横から、公爵さまも言い出した。

「レオ姉上、ジオとハルトも食べきれなかったぶんを持ち帰らせてもらえるよう、先ほどゲルトルード嬢に頼んでいました」

「あら、あの子たちも考えることは同じだったのね。さすがはわたくしの子どもたち」

 レオさまが明るい声で笑い、メルさまもお母さまも口元を押さえてちょっと笑いを堪えてる。

 私も笑っちゃいそうになったけど、そこはさすがに我慢した。

「はい、ハンバーガーやホットドッグは、お子さまがおやつとして召し上がるには少し食べ応えがあり過ぎるかと思いますので、お夕食にでもどうかと公爵さまもおっしゃってくださって」

「うむ、ジオもハルトも、持ち帰ってもいいと聞いて大喜びしていたな」

「そうね、子どもたちのお夕食にさせていただくわ。ありがとう、ルーディちゃん」

 やっぱりレオさまは明るい声で笑ってくれた。


 すぐに、レオさまとメルさまの侍女さんたちが、ヒューバルトさんのところへ行って小声で話してる。ヒューバルトさんのことだから、ちゃんと多めに包んでくれるだろう。

 ぜひ、お家でゆっくり召し上がってくださいませ。


「では、お茶のおかわりをいただこうか」

 公爵さまが、自分も心置きなく持ち帰りができると思ったのか、機嫌よく言い出した。

 って、要するに早くプリンを出せ、ってことなんだと思うけど。

 すぐにヒューバルトさんが指示を出して、お茶のおかわりが粛々と配られていく。同時に、後半戦のおやつもテーブルの上に並べられた。


「ほう。これはなかなかにいいではないか」

 瓶入りプリンに、公爵さまの眉間のシワがちょっと開いちゃった。蜜蝋布でふたをしたプリンの瓶をひとつ手に取り、目の高さに持ち上げて検分してくれちゃう。

「これならば、このままの形で店頭販売ができそうだ」


「これが『ぷりん』?」

 レオさまも好奇心に輝いた目で、プリンの瓶を手に取ってる。

 同じようにメルさまもひとつ手に取った。

「このふたにしてある布は、先ほど『はんばーがー』を包んでいた布ね? 本当に不思議、ぴったりと瓶に貼りついてるわ」

「あちらの、果実とクリームの『さんどいっち』も同じ布で包んでありますね」

 なんかもう、ユベールくんもリドフリートさまも、不思議そうにプリンの瓶を手に取っちゃった。


「この布は、先ほどのハンバーガーでも使用していましたが、こうやって手で少し温めれば簡単に外せます」

 私も瓶入りプリンをひとつ手に取り、蜜蝋布を外してみせた。

 そして、また瓶に蜜蝋布をかぶせて手できゅっきゅっとふたをしてみせる。

「そしてこうやって形を整えると、また簡単に封をすることができます」


「不思議ねえ。この布、魔力付与もしていないようなのに」

 感嘆の声がレオさまから漏れた。

 そこでやっぱり公爵さまが、どや顔で言い出すんだ。

「レオ姉上、この布に関しても現在、魔法省魔道具部と加工の権利について契約を結ぶ準備をしています」

「魔法省魔道具部ですって?」

 見開かれたレオさまの目が、アーティバルトさんに向いた。

「もしかして、ヴィーかしら?」

「さようにございます、レオポルディーネさま」

 アーティバルトさんがにこやかにうなずく。「ヴィールバルトが現在研究している、軽くて耐久性のある梱包資材に、この布を利用したいと申しております」


 どうやら、レオさまもアーティバルトさんチの末っ子さんをよくご存じらしい。なんか家族ぐるみのお付き合いっぽいことを、公爵さまも言ってたもんねえ。

 で、末っ子の精霊ちゃん、ヴィールバルトさんっていうのね。


「この布自体は、魔力付与などはいっさいされておらず、平民の家庭でも簡単に作ることができるとゲルトルードお嬢さまはおっしゃっておられます」

 アーティバルトさんの説明に、私はうなずいた。

「その通りです。平民の家庭にもふつうにある材料と道具を使い、簡単に加工できます」

「そうなのですね。魔力付与をしていないのに、こんなふうに簡単に形を変えられて、瓶にもぴったり貼り付けることができるとは」

 リドフリートさまも本当に不思議そうに蜜蝋布を触っている。


 そのリドフリートさまの手元を何気なく見て、私は気がついた。

 両手の中指に、それぞれ指輪をしてらっしゃるんだけど……その指輪に魔石が付いてる。あれって、魔力制御の魔石だよね?

 両手に魔力制御の魔石を装着してないといけないって、いったいどんな固有魔力をお持ちなんだろう?


 思わずしっかりと見てしまった私の視線に、リドフリートさまが気づいちゃったらしい。

「気になりますか、ゲルトルード嬢?」

 にこやかに言って、リドフリートさまはその両手を広げ、私のほうへ向ける。

「申し訳ございません、無作法な真似をいたしまして」

 ひぇーっ、とばかりに私が頭を下げると、リドフリートさまはやっぱりにこにこと言うんだ。

「構いませんよ。たいていの貴族なら知っていることです。私は固有魔力を持たぬのに魔力量はやたらと多く、制御がとんでもなく下手だということについては」


 は、い?

 私はきょとんと、本当にきょとんと顔を上げてリドフリートさまを見ちゃった。


 リドフリートさまは、あくまでにこやかな笑顔で言う。

「私には固有魔力がないのです。それなのに魔力量だけは多いものですから、こうやって制御をかけておかないと、すぐに魔道具を壊してしまうのですよ。学院でもさまざまな魔道具を壊してしまい、級友や先生がたにもずいぶんご迷惑をかけてきましたから」

 そう言ったリドフリートさまの口の端が、わずかにゆがんだ。

「本当に灯の魔石ですら、私が不用意に触ると、あっという間に壊れてしまうのです」

 私は、本当にただきょとんとしたまま、目を瞬いてしまった。

「え、あの……それは、何かとご不便でしょうね」


 そう、私が言ったとたん、リドフリートさまもその茜色の目を瞬いた。

 それからクッと喉を鳴らしたリドフリートさまが、いきなり笑い出した。

「ゲルトルード嬢、貴女は本当に稀有なご令嬢ですね」


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