153.ゲルトルード商会の新しい商品
長らく更新できておりませんで、本当に申し訳ありませんでした。
それなのに、PVは1000万超えてるし! ブックマークは14000超えてるし!
本当にありがとうございます!
本日は5話更新します。
まずは1話目です。
「そうなのね、それならいっそう、我が家の料理人にも実際に調理の手順を見せてやってほしいわ」
「うむ、我が家もだ。先日以来、プリンの作り方について質問したいと言っていることだし」
なんかもう、レオさまも公爵さまもすっかりその気です。
でもね、こないだメルさまんチの料理人さんを招いてみてつくづく思ったんだけど、本当に指導1回で半日潰れちゃうんだよね。
レオさまんチと公爵さまんチはいいと思うのよ、でも、果たして両家にそれぞれ1回の実演指導で済むのか、またほかの貴族家でも手順を見せて欲しいって言い出したらどうなるのかっていうのがねえ。
うーん、レオさまメルさまの食いつきっぷりを見ていると、どうも私のレシピはかなり人気が出そうな感じだし、そしたら実演指導のほうも申込が殺到しちゃったりなんかしちゃわない? それはちょっとまずいんじゃないかと、私も認識を改めちゃったのよ。
こういうのってたぶん、我が家より上位の貴族家から実演指導の申込があったら、まず断れないでしょ。そしたら、そのたびにマルゴの半日が潰れる。
それがひんぱんに続くとなると我が家の食生活に影響が出そうだし、なによりマルゴの負担が大きすぎる。
ホント、お料理教室はお料理教室で、別に開いたほうが絶対いいよ。そう思って、私は言ってみた。
「あの、おうかがいしたいのですが……その、各家の料理人というのは、他家の料理人と交流して自分の知識や技術を伝え合うようなことは、しないものなのですか?」
言ったとたん、みなさんがいっせいに目を瞬いた。
「そういうことは……聞いたことがないわね」
レオさまがそう言って、メルさまもうなずいてる。
「わたくしも、聞いたことがないわ」
そんでもって、メルさまはちょっと考えこんじゃう。
「でも、確かに我が家の料理人があれほど勉強になった、刺激を受けたと言っているのだから、レシピの購入以外にもそういった交流があってもいいのかもしれないわ。ただ、問題は」
そこでメルさまはため息を吐いた。「素性のはっきりしない他家の料理人を、自家の厨房へ入れたくないということよね」
あー、やっぱりソコですか。
なんかこう、貴族って本当に日常的に毒の存在を意識してるんだね。しかも、実際問題として毒殺の危険がある、ってことになると、どうしてもその辺は慎重にならざるを得ないよね。
でも、それだったらやっぱり。
「あの、これは提案なのですけれど」
言い出した私に、また注目が集まった。
「各家の厨房ではなく、専用の厨房を用意するのはどうでしょうか」
「専用の厨房、とは?」
公爵さまの眉が寄る。
私はうなずいて、さらに説明した。
「レシピの販売を始めると、おそらく実際に手順を見せてほしいという貴族家が出てこられるのではないかと思います。そのすべてに、我が家の料理人が対応するのは、かなり厳しいと思うのです。ですから、たとえばゲルトルード商会の店舗内の厨房で、レシピの講習会を開催するというのはどうでしょうか?」
えっ? とばかりに、その場の全員の眉が上がっちゃった。
これはまたもや、私の常識知らずが発動しちゃったのかもしれない。でも、店舗の厨房でお料理教室って、かなり合理的だよね?
「レシピを購入していただいたかたに、あの、追加料金をお支払いいただけば、店舗の厨房で実際の手順をお見せするとご案内するのです。そうすれば、その場で料理人自身にお料理の試食もしてもらえますし、同時に料理人同士で意見を交わしたりするなどの交流もできるのではと思うのです」
「閣下、発言してもよろしいでしょうか?」
口を開いたのは、私の後ろに近侍として控えていたヒューバルトさんだった。
「構わぬ」
許可した公爵さまにうなずいて、ヒューバルトさんは続けた。
「私はゲルトルード商会の商会員として、このご提案に賛成いたします。レシピそのものだけでなく、レシピの手順を実際に見せる講習会も、間違いなく我が商会の人気商品になるものと思います。商会の商品となるわけですから、商会店舗の厨房を使用するということについても、理にかなったご提案だと存じます」
「ふむ」
公爵さまはあごに手を遣って思案する。「では、商会店舗の厨房で、ご当家の料理人が講習会を行うということだろうか?」
「いえ、そこは商会の料理人にさせるべきです」
ヒューバルトさんは即座に言ってくれた。「ゲルトルードお嬢さまの料理人は、本当に優秀です。それだけに、講習会で教えるなどの時間を割かせるよりも、ゲルトルードお嬢さまとともに新たなお料理の試作に取り組んでもらうほうが、商会にとって有益だと存じます。もちろん、商会の料理人は、最初はご当家の厨房で学ばせますので、そこで一定の水準に達したと判断できた者のみ、講習会を担当させましょう」
「そのような講習会が開催されるのであれば、我が家の料理人にも受講させますわ」
メルさまがきっぱりと言ってくれちゃう。「我が家の料理人は、口頭の説明だけでは『まよねーず』を美味しく作ることはできなかったと思うと、正直に申告してくれました。我が家の料理人は、決して無能ではありません。それでもそのように言うのですから、実際に手順を見せてもらうことが本当に大切なのだと、わたくしもそれで理解したのです」
「確かに」
公爵さまが重々しくうなずいた。「我が家の料理人も、記述されたレシピをもとにプリンの製作に取り組んでいるのだが、いくつ試作してもあのなめらかな口当たりにはならないのだ。料理人も、何が問題なのか、どうすれば改善されるのかがわからないと、頭を抱えている」
いや、まあ、あのなめらかさを実現できるのはマルゴならでは、だと思うけど。
それでも、実際にマルゴがすごくていねいに卵液を何度も濾してるところとかを見せてあげれば、だいぶ改善されると思うわ。
「そうね、それに店舗の厨房であれば、料理人自身も他家の厨房におじゃまするより気軽に受講できるのではないかしら」
レオさまもうなずいてくれちゃった。
そこでメルさまが笑った。
「ええ、我が家の料理人は、ゲルトルードお嬢さまが厨房にいらしてご挨拶までしてくださったと、ずいぶん恐縮していたわ」
はい、ええもう、すみません、やっぱり私は常識知らずのようです。
「閣下、ここはやはり、その料理講習会の開催も視野に入れた上で、商会店舗の改装を行いましょう」
ヒューバルトさんの言葉に、公爵さまはうなずいた。
「うむ、そうだな。いずれにせよ、店舗内の厨房を拡張する予定なのだから、1階は厨房を中心に改装するようにしよう」
よし、これでマルゴの負担はだいぶ減らせたわ。
今後は商会の料理人を順に受け入れて教育する必要が出てきたわけだけど、教育期間中は我が家の厨房で働いてくれるんだし、それ自体は悪い話じゃないと思う。
それに見習第1号のモリスは、研究熱心で勘もいいようだから、たぶんすぐに講師をするくらいになってくれると思うわ。そうすると、モリスが新人の指導をするっていうこともできると思うのよね。
「ではゲルトルード嬢、そのように商会の建物を改装するとして……」
言いながら公爵さまが私に顔を向けたんだけど、その視線がいきなり私を飛び越えた。
「……リド、それは何個目だ?」
「2個目です、閣下」
ん?
私は、自分のとなりに座っているリドフリートさまを見た。その手には蜜蝋布に包まれたハンバーガーが1個……あっ、いま侍従さんが蜜蝋布を1枚片づけた。
ってことは、ハンバーガーが2個目ってことですか、リドフリートさま?
いや、さっきホットドッグ食べてたよね、それでハンバーガーが2個目? 私たちが話している間に、さくっと1個食べちゃってたの?
リドフリートさまはにこにこ笑いながら、2個目のハンバーガーを開けようとしてる。
「これ、本当に美味しいですね。『はんばーがー』でしたか? 先ほどの『ほっとどっぐ』も大変美味しかったのですが、こちらはまた格別ですね」
えーと、なんていうか、かなりマイペースなおかたのようです。
って、ヒューバルトさんは、リドフリートさまはあんまり食べないって言ってなかったっけ? なんだろう、このダークホース感。気が付くと食べつくされちゃってる恐れあり?
そう思っちゃったのは私だけではなかったようで、レオさまが慌てたように言った。
「そうだわ、とにかくまずお料理をいただいて、感想などは後で話しましょう」
そんでもって、レオさまは手にしていたハンバーガーに再びかぶりついた。
メルさまもまた食べ始めたんだけど、ユベールくんはいつの間にかちゃっかり食べ終えちゃっててポテサラサンドに手を伸ばしてる。
って、何気にお母さまはポテサラサンドを食べ終えて、ハンバーガーも半分くらい食べちゃってる? アーティバルトさんは、ホットドッグに続いて食べ終えたらしきハンバーガーの蜜蝋布をたたんでるし。
公爵さまも危機感を覚えたのか、無言でハンバーガーにかぶりつきましたよ。
なんだか、争奪戦のような様相を呈してきてしまいました。うーん、どれもかなり多めに用意してきたんだけどな、足りるかな(ドキドキ)?
ずーっと更新できていなくて、でも待っててくださるって感想もたくさん書き込んでいただいて、DMまでいただいてしまって、本当に本当にありがとうございます!