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16.プロの商売人でした

 私、お母さまには全ッ然、似てないのよ。

 ホントに、ホンットに、ホンッッットーーーに、言いたくないんだけど、私は髪の色も目の色も、父方譲りなの。


 お母さまは、お姑である私のお祖母さま(故人)に似てるって言ってくれるんだけど、髪はブロンドと言うには茶色味が強すぎて黄土色な上にド直毛、目も琥珀色といえば聞こえはいいけどはっきり言ってちょっとだけ赤みがある茶色。

 地味な色彩に平凡な顔立ち。ついでに体つきも16歳とは思えぬチビでツルペタ状態。本当に笑えるほど、明るい色もフリフリヒラヒラも似合わない。


 そりゃあもう、ふんわりと輝くばかりのプラチナブロンドに透き通ったアメジスト色の瞳のお母さまは、鮮やかな色も淡い色もなんでも似合う。体つきもほっそりとしていながら出るとこはしっかり出てるので、華やいだレースやフリルもものすごく似合うし。


 私は、私の袖をつかんで不思議そうに小首をかしげている妹のアデルリーナを見てしまった。今日も同席を許されて一緒に衣裳部屋に来ているんだ。

 髪も目もお母さまと同じ色で顔立ちも愛らしいアデルリーナなら、お母さまのドレスを仕立て直してもとっても似合うと思うんだけど……。


「それでしたら、こちらのお衣裳などいかがでしょう?」

 いつの間に動いたのか、リヒャルト弟が一着のドレスを手に満面の笑みを浮かべていた。

 しかもその手にしているドレスの色は深い紺青色。

「まだ年若くていらっしゃるご令嬢は淡い色をお召しになることが多いですが」

 リヒャルト弟は、失礼しますと言いながら私の後ろに回り、さっと広げたその紺青のドレスを私の体の前へ持ってきて軽く肩に当てた。

「こちらのお嬢さまでいらっしゃれば、このようなお色がよくお似合いです。特にお顔の近くにこのお色を足していただければ」

 これまたいつの間に動いたのかロベルト兄がさっとやってきて、その手にしていた金色のレースのストールをふぁさーっと私にかけてくれた。


「まあ!」

「すてき!」

 お母さまとアデルリーナが同時に声をあげた。

 リヒャルト弟はさっと一礼する。

「こちらのお嬢さまは、スカートのフリルをもう少し抑えてすっきりとした形に整えさせていただければ、さらにお似合いになると存じます。それに、襟元と袖口に金糸で刺繍などさせていただければ、華やかさもさらに添えられて完璧かと」


 なんかぽかんとしちゃってる私の体をリヒャルト弟は軽く押して回転させ、大きな姿見鏡が見えるようにしてくれた。

 そこで私はさらにぽかんとしちゃった。

 え、えっと……いや、いやいや、ホントに、マジで、私の地味顔が3割増しくらいでよく見えるんですけど? なんかこう、顔の雰囲気がパッと明るくなったような……私、こんな色が似合うんだ?


 いまリヒャルト弟が言ったように、学院に在籍している年ごろの貴族令嬢は、淡いピンクやブルー、クリーム色なんかが定番色で、こういう濃い色のドレスはまず見かけない。

 しかもそういった淡い色合いに、これでもかっていうほどレースやフリルを重ねるのが若い令嬢にふさわしい装いだと暗黙の了解になっちゃってて、そういう色もデザインもまったく似合わない私はかなり困ってたんだよね。


 リヒャルト弟はぽかんとしたままの私をナリッサに任せると、今度は明るい青空色のドレスを持ち出してきた。

「そちらのお嬢さまでしたら、このお色がよろしいかと思います」

 アデルリーナがそのドレスを当ててもらうと、本当によく似合っている。

 そしてリヒャルト弟はさらに白いレースの付け襟と紺青の幅広リボンを持ち出してくる。

「こちらの襟とリボンを合わせていただければさらにお似合いです」

 にこやかにリヒャルト弟が言った。「それにこうすれば、お姉さまとさり気ないおそろいになりますよ」


「すてき!」

 アデルリーナが頬を染めて嬉しそうに私を見上げる。「ルーディお姉さまとおそろいなんて!」

 うぉあぁぁーーー!

 なんなのリヒャルト弟! なんで私のツボをこう的確にも突いてくるの!

 こんなかわいいかわいいアデルリーナをこんなに喜ばせてくれちゃって、喜んでるアデルリーナがもうかわいくてかわいくてかわ(以下略)。


「では、こちらをお仕立て直しでよろしいでしょうか、奥さま?」

 そう言ったのは何故かナリッサだった。

 お母さまも嬉しそうに何度もうなずいている。

「もちろんよ! ルーディもリーナも本当によく似合っているわ。2人ともなんてかわいらしいんでしょう」


 そこからはもう、買取ではなくお仕立て直し商談会になってしまった。


 リヒャルト弟はお母さまの衣裳部屋を縦横無尽に駆け回り、私に似合うドレスとアデルリーナに似合うドレスを、スパパパーッと仕分けていく。そこにロベルト兄がふだん使いのアクセサリーや小物類を持ってきて、どんどんコーディネイトしてくれる。

 すごい。

 プロだ。

 プロの技を見せてもらった。

 だって本当に、この地味で平凡な私にちゃんと似合うスタイリングになってるんだもの。


「ゲルトルードお嬢さまは、深みのあるお色や少し抑えた色味がよくお似合いです。それに過度な装飾は避け、すっきりとした形がよろしいかと。お若い貴族令嬢という枠にとらわれず、ご自身にお似合いのお色や形のお衣裳をお召しになることを、ぜひお勧めいたします」

 し、商売人や。

 めっちゃ商売人やぞ、ツェルニック兄弟。


 結局今日1日ではお母さまの衣裳部屋は片付かず、明日以降もツェルニック商会に来てもらうことになってしまった……。


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― 新着の感想 ―
主人公が謙遜しすぎないのが良い。
ツェルニック兄弟って端役なのに生き生きしてて楽しく読めたわ
[良い点] プロって、、プロだからプロなんですね。。
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