151.お茶会開始
本日2話目の更新です。
ようやくお茶会が始まりました。食テロ回ですw
お持ち帰りOKの確認ができたことで、すっかりご機嫌になったお子ちゃまたちと先生がたと一緒に、私たちは四阿へと向かった。
いやーもう、ハルトくんなんか公爵さまと手をつないでスキップしてるよ。なんなの、このたまらんかわいさは。
うん、弟っていうのもいいかもしんない、ホンットにリーナもジオちゃんもかわいくてかわいくてかわいいし、デレてしまわないように頬に力を入れてなきゃいけないのがツライとこだわ。
とか思ってたら、美少年侯爵さまがにこにこ顔で四阿のほうからやってきた。
「ルーディお姉さま、お茶にしましょう!」
ああ、うん、こっちのちょっと大きい弟はビミョー過ぎるな……。
年齢差がなさすぎるし、しかも相手は仮当主とはいえすでに侯爵さまだしねえ。
とりあえず、そういう思考は顔に出さないよう私が笑顔で応えると、美少年侯爵さまことユベールくんは、私と並んで歩きだした。
「さきほどヒューバルトから聞いたのですが、今日はあの黄色いソースを使ったお料理が何点かあるそうですね」
「ええ、ご用意しています」
と、答えてから私は訊いてしまう。「ユベールさまは、ヒューバルトをご存じなのですか?」
ヒューバルトさん、今日は私の近侍という立場なので、呼び捨てにするよう言われてんのよね。慣れないわー。
「ええ、会うのは初めてですが、僕の近侍から話は聞いていたので」
ユベールくんがそう答えてくれて、そのユベールくんに付き添っている近侍さんがにっこりと笑ってみせてくれた。
「このマクシミリアンは、ヒューバルトと学院の同級生だったそうです」
あー、そういうつながりでしたか。
確かにヒューバルトさんも、このホーフェンベルツ侯爵家の近侍さんを知ってるようだったもんね。てかもう、同級生ってほぼお友だち?
まあ、あのイケメン兄弟と一緒に肩をひくひくさせてたから、そうなんでしょうね。
四阿へ行くと、もうお茶の準備はばっちりだった。なんかもう、ここまできっちり設営しちゃうのか、ってくらい。
八角形の屋根の下、真ん中にある円卓には白いクロスがかけられて花まで飾られ、背もたれもクッションもある立派な椅子がぐるりと並べられているんだもの。
そんでもってヒューバルトさんをはじめ、侍従や侍女のみなさんがずらりと並んでお出迎えしてくれる。しかも、彼らの手元には茶器や食器を積んだワゴンまであるんだよね。
それに、少し離れたところには小さなテントが張られ、そこには低いテーブルと低いベンチが並べてある。どうやら、魔力がまだ発現していない子どもたち用の席らしい。
そっちの席にももちろん、シエラを含め侍女や侍従が並んでいて、ちゃんと茶器と食器が積まれたワゴンも用意されている。
なんかもう、こういう道具を全部、ふつうに運んで来たらとんでもないよね。
たぶん、レオさまも収納魔道具を使ったんだろうなあ。我が家にもあったくらいだもん、ガルシュタット公爵家にないはずがないよね。ホント、万能すぎるわ、収納魔道具。
アデルリーナたちお子ちゃまチームがそちらのテントへと向かい、私はそのまま四阿へ入ればいいのかなと思っていたら、ユベールくんがすっと私の傍を離れた。
あれ? と思ってたら、入れ替わるように公爵さまが私の横へやってきて、優雅に左の肘を出してくれる。
おおう、公爵さまが私をエスコートしてくれちゃうわけですね?
さすがに、ユベールくんもこの場では自分より爵位が上で今日の主賓格である公爵さまには従うらしい。うん、貴族って面倒くさい。
お母さまたちご夫人チーム3人は、四阿の端のほうでなんだか顔を寄せ合ってくすくす笑いあってたんだけど、いやもうすっごく楽しそうでウキウキしちゃってるのがこっちにも伝わってきちゃう。
仲良し3人、学生気分に戻ってたっぷりお話できたんだろうね。よかったわ、お母さまも本当に楽しそう。本当にこれからもっと、お母さまには楽しいことや嬉しいことをたっぷり味わってもらいたい。
そのお母さまのところへアーティバルトさんがすっと近づき、肘を差し出してお母さまをエスコートする。
エスコートされたお母さまがまず席に着き、続いてメルさまが息子のユベールくんにエスコートされて着席、そんでもってレオさまも義理息子のリドフリートさまにエスコートされて着席した。
アーティバルトさん、男女の人数が合わないからお母さまのエスコート役になったんだと思うけど、澄ましてるわりには役得でほくほくしてるのが隠しきれてないわ。公爵さまのお給仕をせずに、自分も席についてゆっくり食べられるもんね。
もちろん、近侍や侍従、侍女のみなさんも、交代しながら別席で食べてもらうようにはなってるはずなんだけど。四阿の横にお子ちゃまチームとは別のテントが張ってあってワゴンはそこから出してきてるようなので、たぶんそこにお給仕係の席が用意されてるんじゃないかな。
で、最後が私と公爵さまだ。
って、私はそこで初めて気がついた。
も、もしかして、私が主催者ってことは、私がなんかこう、お茶会開催の挨拶とかしないとダメ?
ちょっと引きつりそうになった顔を公爵さまに向けちゃうと、公爵さまは軽く眉を上げて私を促した。
うぅ、だいぶ慣れてはきたと思うけど、こんな上位貴族だらけのメンバーで私がご挨拶とか、マジで? ナニを言えばいいんだろ、とりあえず、美味しく召し上がってくださいとかそういうのでいいのかな?
内心イヤな汗をかきながら席へと向かうと、ヒューバルトさんがさっと椅子を引いてくれた。
あれ、座っちゃっていいの? と思いつつ腰を下ろすと、私のとなりに立っている公爵さまが口を開いた。
「本日は急な集いにもかかわらず、皆つつがなくご参加いただいたこと、感謝申し上げる」
あ、主賓格だから公爵さまがご挨拶?
それとも、一応主催者である私が未成年で、その私の後見人だからかな?
とりあえず、公爵さまに丸投げしてOKなようなので、私はそのままにこやかに座っておくことにする。
「まずは、クルゼライヒ伯爵家の長女ゲルトルード嬢がこの私、エクシュタインの被後見人となったことをお知らせしておこう」
公爵さまが堂々と続けてる。「また、ゲルトルード嬢を頭取としエクシュタインが顧問を務めるゲルトルード商会に、ガルシュタット公爵家ならびにホーフェンベルツ侯爵家も顧問として就任していただいたことに感謝申し上げる」
そこで公爵さまは、口の端をちょっと上げた。
「本日、ゲルトルード嬢が用意してくれた軽食やおやつに関しては、いずれゲルトルード商会でレシピの販売を行う予定だ。また、いくつかの料理に関しては、ゲルトルード商会の店舗での販売も考えている。本日の茶会は試食も兼ねているとご理解いただきたい。ぜひ忌憚なきご意見を、よろしくお願いする」
公爵さまが着席すると、すぐにお茶が配られ始めた。
そしてヒューバルトさんが、澄ました顔をしてハンバーガーやホットドッグ、それにポテサラサンドが盛り付けられたかごを、テーブルに配置していく。
ポテサラサンドはそのまんまかごに盛ってあるけど、ホットドッグはリールの皮で巻いてあるし、ハンバーガーは蜜蝋布で包んであるからね、初めて目にするみなさんは『なんだコレ?』って顔をされています。
「では、ゲルトルード嬢」
公爵さまに促されて、私はにこやかにハンバーガーをひとつ、手に取った。
「こちらの布は、少し加工がしてございます」
私はすっかり実演販売状態だ。「手で包んで少し温めると、形を整えることができる布です」
説明しながら、私は蜜蝋布をめくっていく。
私がめくった布が、めくったままの形で固まっていることに、みなさん目を見張っちゃってます。もちろん、中から出てきた丸いパンにも注目が集まっちゃってます。
「こちらは、ハンバーガーといいます。お肉やお野菜を、上下に切った丸いパンではさんでいます。こうやって手軽に食べることができますので、軽食にぴったりです」
そう言って、私はハンバーガーにひとくち、かぶりついた。
うん、美味しーーーーい!
ヒューバルトさん、ギリギリまで時を止める魔道具に入れておいてくれたんだわ。パティがほんのりあたたかくて、チーズも固まらずにやわらかくお肉に絡んでくれちゃう。
ハンバーガーは蜜蝋布で包むために、パティとバンズはちょっと冷ましてからはさんだんだよね。でもさすが時を止める魔道具、この絶妙な温度感。おかげでレタスはシャキッとしてるし、玉ねぎはシャリシャリ、トマトはとってもみずみずしい。ホンット、時を止める魔道具って優秀過ぎる!
そんでもって、私はひとくちだけ食べたハンバーガーを脇に置き、ホットドッグに手を伸ばす。
食べかけでお行儀悪いんだけどね、出したお料理はお毒見のために全部最初に口をつけておく必要があるって、公爵さまに言われてるんだよね。
「こちらはホットドッグといいます。このように、リールの皮を少しずらせば」
私はその通りに実演だ。「端から食べていけます。手を汚さず片手で簡単に食べることができるので、こちらも軽食にぴったりです」
「このホットドッグは現在、軍の携行食糧に採用すべく手続きを進めている」
公爵さまが説明をしてくれて、みなさんちょっと目を見張ってます。
私は公爵さまにうなずいて、ホットドッグにもまたかぶりついた。
うー、これまた美味しいよ! 焼き立てアツアツのソーセージがパンにはさまってるだけなのにね。もちろんマルゴのトマトソースも絶品だけど、シンプルイズベスト、だわ。
そして最後はポテサラサンドだ。
「こちらは、マヨネーズというソースを使用した、お芋のサラダをパンにはさんであります」
ホントにテレビショッピングだなーと思いつつ、私は笑顔でポテサラサンドにもかぶりついた。
もちろん、言うまでもなく美味しいです。ホンット、マルゴが作ってくれるマヨネーズって酸味とコクのバランスが最高なんだよね。それにお芋は微妙な粗さでつぶしてあって、なめらかでありながらほくほくした口当たりが美味しさを倍増してくれてるし。
ええもう、どれもこれもすべて、自信をもっておススメしちゃうからね!
「それでは、みなさまもどうぞお召し上がりくださいませ」