139.準備万端
本日4話目の更新です。
ずらりと並べられたプリンの瓶100個を前に、私がちょっと遠い目をしていると、またヨーゼフが厨房を訪れた。今度は、レオさまから当日の設営に関するお手紙が届いたとのことだった。
ヨーゼフに頼んでお母さまを呼んできてもらう。
お母さまはすぐに厨房へ下りてきてくれた。アデルリーナとリケ先生は、とってもいい雰囲気でお話しできているらしい。ナリッサも付いていてくれることだし、お母さまが席を外しても大丈夫そうだって。
「では、当日は私が先に現地へ行って、設営をお手伝いいたします」
もうホンットにナチュラルに我が家の厨房会議に参加しちゃってるヒューバルトさんが言ってくれた。
レオさまからのお手紙には、現地での準備のために各家から1名ずつ設営スタッフを出して欲しいって書いてあったのね。その設営スタッフに、ヒューバルトさんが行ってくれると。
なんでも、レオさまが設営を申し出てくださったんだけど、今回の集まりの主催者は一応我が家って扱いになるんだって。食べものを提供する家が、主催者ってことらしい。
その状況で設営をレオさまが全部してくれちゃうと、伯爵家である我が家が公爵家であるレオさまんチを『使った』形になってしまうので、参加する各家から人を出してもらい、全家で平等に準備しましたっていう体裁を整える必要があるらしい。
うーん、やっぱ貴族社会って面倒くさいよ……。
でも、伯爵家の我が家が公爵家のレオさまをまるであごで使ったようなイメージを、ほかの誰かに持たれてしまうのはものすごく困る。ウワサって絶対尾ひれが付くし、イメージって大事。そういうことを踏まえて、レオさまが気を遣ってくださったんだと思うし。
それでもう、ここは素直にヒューバルトさんにお願いすることにした。
だって、ほかに頼める人なんていないもんね。おじいちゃんヨーゼフを出すわけにはいかないし、カールやハンスを出すなんてもっとできない。クラウスを出すくらいなら、貴族でお茶会にも慣れているヒューバルトさんに頼むほうが、よっぽど安心なんだし。
まあ、うん、なんだかんだで、いろいろ役に立ってくれてるよ、ヒューバルトさんは。
さらに、当日は公爵さまが我が家に迎えにきてくれることも、レオさまのお手紙には書いてあった。なんか、姉弟で相談してくれたらしい。
公爵さまが御者さんを1人連れてきてくれるとのことで、公爵さまの馬車と我が家の馬車に分乗して現地に向かってね、っていうわけ。
いや、でもホント、言われてみて私もやっと気がついたよ。我が家には馬車はあるけど御者はいないし、1台の馬車に4人しか乗れないんだから、私とお母さまとリーナ、それにナリッサが乗ったら、シエラが乗れない。さらに、リケ先生も参加することになっちゃったから、そっちも相談しておかなきゃ。
なんかもう、お弁当作りでいっぱいいっぱいになっちゃってるから、いろいろ抜けてることがあるなあ……。
てかもう、なんでこんな大ごとになっちゃったんだろう。
ホンットに今更だけど、私はただちょっとこう、お母さまとリーナと3人でお出かけしたかっただけなのにー。
そんでもしょうがないから、それからさらにいろいろと細かい打ち合わせをした。
リケ先生にも当日のことを相談すると、やはり我が家の一員として現地に向かうほうがいいだろうということだった。リケ先生は当日の朝まず我が家にやって来て、アデルリーナと一緒に馬車に乗って現地に向かうことになった。
アデルリーナは、リケ先生と一緒に過ごしたのが本当に楽しかったようで、ずっとにこにこしてた。うん、いい先生に来ていただけることになって本当によかったわ。
お母さまがレオさま宛に書いた、当日の設営にヒューバルトさんを送りますっていうお手紙にも、リケ先生に決まりました、ありがとうございましたって報告とお礼を書き添えてもらったけど、明後日お会いしたときにもしっかりお礼を言わなきゃね。
そのお手紙をガルシュタット公爵家に届けるべく、ヒューバルトさんがまた厨房を出ていった。
再び厨房ではお弁当作りに邁進である。
クラウスは残ってくれたので、早速マルゴから指示され洗いものを始めてくれた。
いやもう、ホントに総力戦だよ。みんな、今日と明日、もうしばらく頑張ってね!
翌日も、当然朝からお弁当作りだ。
昨夜遅くまでマルゴが本当にがんばってくれて、プリンを大量生産してくれた。
我が家のでっかい冷却箱のうち1台が、完全にプリンのみで埋まってるんだから、壮観にもほどがある。さすがに100個は無理だったけど、70個くらいあるんじゃないだろうか。
でもたぶん、これだけあってもお土産とかお土産とかお土産とかで、すぐに全部なくなっちゃうんだろうな……。
もちろん、プリン以外も順調だ。
ハンバーガーも大量に出来上がり、シエラとロッタが手分けして1個1個蜜蝋布で包んでくれてる。ホットドッグにリールの皮を巻き付けるのは、カールとクラウスが担当。クラウス、なんかもう皆勤状態だわ。
マルゴは最後のフルーツサンドに取りかかってる。モリスも真剣な顔でマルゴを手伝ってる。
フルーツサンドは、完成してすぐに時を止める収納魔道具で保存するのではなく、固く絞った濡れ布巾で包んで落ち着かせる必要があるので、そのぶんちょっと手間なのよね。
でも、このようすなら本当にお昼ごろには、全部のお料理が準備できちゃうんじゃないかな。みんな、本当に頑張ってくれて素晴らし過ぎるわ。
いやでもホント、モリスとロッタに来てもらってなかったら、クラウスが皆勤してくれたとしても間に合わなかったかも。
特にモリスは見習って言ってたのにすでに立派な腕前で、ハンバーガーのパティだって本当に美味しく焼いてくれたし。ロッタもこまごまとした作業を積極的にこなしてくれて、本当に助かったわ。
いやもう、メルさまから軍資金もたっぷりいただいたことだし、みんなにしっかりボーナスはずんじゃうからね!
お昼前には、ツェルニック商会がドレスを届けに来てくれた。
ああああ、ベルタお母さんだけじゃなく、ロベルト兄もリヒャルト弟も、目の下にくっきりとくまが。ごめんよ、無理させちゃってるね、でもホントにホンットに助かるわ。
それでも3人ともミョーにイキイキしていて、通常運転のツェルニック商会挨拶のあとはすぐさま試着に。もちろん、栗拾いに着ていく予定の濃緑色のドレスである。
「まあ、ルーディ、新しく付けてもらった襟がとっても華やかでいいわ」
「レースの襟とお袖がすてきです、ルーディお姉さま」
お母さまもアデルリーナも大喜びしてくれてる。
私もちょっとびっくりなんだけど、ホントにレースの細い襟を付けて袖口にもちょっとレースを足してくれただけなのに、見た目の華やかさが全然違う。レースには真珠色の小さなビーズも散らしてあって、それが上品な光沢を放ってるっていうのもあるんだと思うんだけど。
それに、何気にペティコートのボリュームがアップしてるよね? 結構重い生地なのにスカートがすとんと落ちてしまわず、かといってふんわりしすぎず、広がり具合が絶妙だ。それでいて、足さばきはそれほど重くない。屋外の、栗林の中を歩くのにも問題ないと思う。こういう細かいところまで調整してくれたんだわ。
おまけに、髪を結うリボンにと、濃緑の共布にレースをあしらったものまで用意してくれてるんだから。本当に至れり尽くせりだわ。
ツェルニック商会はさらに、お母さまとアデルリーナの衣装もコーディネイトしてくれた。
お母さまは、内々での集まりとはいえお茶会に相当するということで、未亡人の黒を身に着けるしかないだろうと、リヒャルト弟はすっごく残念がってたんだけどね。昼間の集まりだし、お母さまにはもっと明るい色を着てもらいたかったんだって。
それでも、黒地にシルバーグレーのレースをあしらった上品なデザインのドレスを選び、靴やアクセサリーまで合わせてくれた。
それから、なんてったってアデルリーナよ。
私の妹は本当に本当に何を着ていてもかわいくてかわいくてかわい(以下略)んだけどね。リヒャルト弟はさすがに私のツボを心得ていて、わざわざ私の濃緑色のドレスに合わせるようにって、白いワンピースドレスに青緑色のボレロを、リーナにコーディネイトしてくれたのよー。
もちろん、白いワンピースドレスはレースもフリルもたっぷりで、めちゃくちゃかわいいデザイン。今回はある意味、リーナの子どもの社交デビューだからね、もうかわいすぎるくらいかわいくかわいくかわいくしてあげたいと思ってたから、ホントに嬉しい。
ああもう、これでツェルニック商会は代金を受け取らないなんて言うんだから、なんかもう申し訳なくてしかたがない。
後日、プリンとかプリンとかプリンとか差し入れに行こう。ツェルニック商会ってお針子さん含めて何人いるのかな、エグムンドさんに訊けば教えてくれるかな。
でもこれで、みんな衣装もバッチリだ。
うん、お弁当の準備もしっかりお昼までには整った。
今日の午後はみんなゆっくり休んで、明日は朝から出陣よー!
ようやく次話から栗拾い編突入です。
ホントになんでこんなに時間がかかってるんでしょうね?
とりあえず私の第一目標は、このゲルトルードのお話を最後まで書ききることなので、どうかみなさま気長にお付き合いくださいませ(自分では2年くらいかかるだろうと思ってます)(;^ω^)