138.参加者1名追加
本日3話目の更新です。
「このパンにはさんであるお芋のサラダ、本当に美味しいですね」
リケ先生、すでに3つめのポテサラサンドである。そのスレンダーな体型からは想像できなかった食べっぷりである。
しかしおかげで私も、堂々と3つめのポテサラサンドを口にできたのである。
「お口に合ったようで、よかったです」
「このお芋のサラダに使われているソースは、ルーディが考案しましたのよ」
お母さまは2つめのポテサラサンドを口にしてる。「本当に美味しくて、わたくしもリーナも大好きですの」
「はい、わたくしも大好きです」
リーナまで2つめに手を出しそうな勢いなんですけど。
そんでもって、おじいちゃんゲンダッツさんもしっかりポテサラサンド2個をお腹に収めてから、にこやかに辞去されましたわ。いや、いいんだけどね。
リケ先生は、お茶の後というか、がっつりポテサラサンドを食べた後、少しの間アデルリーナと一緒に子ども部屋で過ごしてもらうことになった。
とりあえず今日はお母さまもそちらに同席してもらうけど、私は同席できないことをリケ先生にお詫びした。
その理由として、2日後にナゼだか盛大な栗拾いピクニックが開催されることになっていて、そのお弁当作りのために私は厨房にこもらなければならないことも説明した。
「あら、ガルシュタット公爵家のジオラディーネさまとハルトヴィッヒさまもご参加されるのですか?」
リケ先生は私の説明にちょっと首をかしげた。「では、ガルシュタット公爵家の家庭教師も間違いなく同行いたしますね」
「そうなのですか?」
ちょっとびっくりしてしまった私に、リケ先生がうなずく。
「はい。魔力が発現されていないお子さまが複数ご参加されるのであれば、お子さまがただけのお席を別にご用意されるはずです。通常、そちらの席には家庭教師と侍女が付きますから」
「え、では、あの……」
それって、リーナにも家庭教師のリケ先生に付いてもらったほうがいいいってことよね? もしよろしければ当日リケ先生も……と、私がみなまで言う前に、リケ先生は笑顔でうなずいてくれちゃった。
「2日後でございますね? よろしければ、わたくしもリーナさんの家庭教師として同行させていただければと思います」
「よろしいのですか?」
「もちろんです。引継ぎを1日繰り延べることに何も問題はありません」
リケ先生は満面の笑顔でうなずいてくれちゃう。「それに何より、ご当家がご用意されるお弁当ですもの、ご相伴にあずかれると思うと楽しみでしかたありませんわ」
うん、清々しいです、リケ先生。
しかしなんでこう、食いしん坊キャラばかり集まってくるんでしょうね、我が家には。
そうしてリケ先生とアデルリーナは、今日だけ付き添いのお母さまも一緒に、子ども部屋へと移動していった。それに、本来なら侍女はシエラが付くべきなんだけど、今日のシエラは蜜蝋布作りで大忙しなので、ナリッサに行ってもらった。
私はもちろん、厨房へと戻る。
「みんな、お待たせ。進み具合はどうかしら?」
と、言いながら私が自分で厨房の扉を開けたとたん、文字通りの熱気が噴き出してきた。
「順調でございますです、ゲルトルードお嬢さま」
そう答えてくれたマルゴは、天火から焼きあがったばかりのメレンゲクッキーがぎっしり載った天板を引き出している。その横の天火ではついさっきまで、シエラが蜜蝋布を焼いていたようだ。
そりゃもう、ふだんはひとつしか使ってなかったでっかい天火を4つフル稼働してるんだから、厨房の中に熱気がこもっちゃうに決まってるよ。
「厨房の中がとても暑いわ。少し窓を開けて換気したほうがいいわよ。それにみんな、ちゃんとお茶を飲んで休憩した? 頑張ってくれるのは嬉しいけれど、無理はしないでね」
私の声に、モリスがハッとしたように顔を上げた。
モリスはテーブルにずらっと並べたクッキーの上に、延々とバタークリームを絞り出してたようだ。
バタークリームサンドは、はさんでから少し時間をおいてなじませたほうが美味しいのよね。だから、私が不在で魔道具に収納できない間にどんどん作っておいてとは言ってあったんだけど。
「ああ、ありがとうございます、ゲルトルードお嬢さま」
マルゴも答えながら額の汗を拭う。「みんな、ちょっと休憩させてもらおうよ。切りのいいところで手を止めておくれ」
はい、はい、と厨房の中から返事が聞こえ、カールがさっと窓を開けに行く。カールは、モリスが絞り出したバタークリームの上に干し葡萄と干し杏を載せ、クッキーでふたをする作業をしてくれていたようだ。
シエラもいったん手を止め、お茶を淹れるためのお湯を沸かそうとし始めたんだけど、マルゴがすぐに声をかける。
「シエラ、お茶よりもすぐ飲める牛乳をいただこうよ。ゲルトルードお嬢さま、冷却箱の牛乳をいただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ。みんな、とりあえず一回座って休憩してちょうだい」
冷えた牛乳がなみなみと注がれたカップが、シエラとカールの手ですみやかに配られていく。
私は、一息ついてくれたマルゴに進捗状況を訊いた。
「このぶんでしたら、明日のお昼前にはご用意が整いそうでございます」
マルゴは自信を持って言ってくれた。「問題はプリンでございますが、本日中に容器が届くようであれば、夜までに作れるだけ作ってしまおうと考えておりますです」
そうなのよ、プリンは作ってすぐ収納魔道具に入れてしまうことができない。いったん冷やして固めないとダメだからね。
「そうね、容器が届き次第、マルゴはプリン作りに専念してちょうだい。我が家のお夕食は、あり合わせで済ませてもらっても大丈夫だから」
テーブルの上を見ると、私が席を外している間に作ってくれた蜜蝋布が積み上げられているし、バタークリームサンドもどっさりお皿に盛り上げられている。
それに、フリッツたちのお店からパンの第一弾が届いたようで、ホットドッグ用のコッペパンやハンバーガー用のバンズがぎっしりつまったかごがいくつも並んでいた。
マルゴが作ってくれたトマトソースもテーブルの上にあったので、私はコッペパンを手に取り、包丁ですっと切込みを入れた。
「ゲルトルードお嬢さま?」
「マルゴは休憩していてちょうだい。みんな、おやつも食べていないのでしょう?」
なんか、みんなすっごい恐縮しまくってくれちゃったんだけど、私はその場でパパっとホットドッグを作ってみんなにふるまった。
だって、パンに切込み入れてトマトソース塗ってソーセージはさむだけよ? 粒マスタードは各自好きなだけ塗ってね、にしちゃったし。
いやーしかし、時を止める収納魔道具って本当に感動モノよ。収納してあったソーセージ、本当に本当に焼き立てアツアツで出てくるんだもん。パンもまだほんのりあったかかったから、そのまんま美味しいホットドッグがあっという間に作れちゃった。
そんでもって、ホットドッグを初めて食べたモリスとロッタは目を丸くしてくれてる。
うんうん、美味しいよね、ホットドッグって、アツアツのソーセージをはさんだだけなのにね、なんでこんなに美味しいんだろうねー。
なんて、みんなで美味しくおやつ休憩をしていたら、ヒューバルトさんとクラウスが戻って来た。なんかもう、ヨーゼフもすっかりあきらめ顔で、ヒューバルトさんをそのまんま厨房に通してくれちゃうんだけど。
いやヒューバルトさんって、絶対おやつセンサーを持ってるんだと思う。お兄さんのアーティバルトさんの魔力レーダーみたいに。だってこの人、最初に我が家にやってきたのも、いまからおやつのプリンを食べます、ってまさにそのタイミングだったもんね。
「これが噂のホットドッグですか」
もうヒューバルトさんは満面の笑みだ。「本当にこんなに簡単な料理なのに、とんでもなく美味しいですね。これは確かに、軍の携行食糧にもぴったりです。片手で簡単に食べられるし、ソーセージが丸ごと1本というのは満足感も大きい」
ええもう、食べさせてあげないわけにはいかないからね。
ヒューバルトさんはちゃっかり席に着いて、私が作ってあげたホットドッグを頬張ってる。
クラウス、きみはそんなに申し訳なさそうな顔をしなくてもいいからね。
そうやって当たり前のようにおやつタイムに参加してくれちゃったヒューバルトさん、ちゃんと本来の用件も忘れずにいてくれた。
ただし、ただーし!
プリンの瓶、100個ってどうよ?
「年明けにゲルトルード商会の店舗でプリンの試験販売を行うときにも使えますし、とにかく用意できるだけ用意してまいりました」
にこやか~にそう言ってくれちゃうんだけど、なんかもうプリンは作れるだけ作って持っていってね、って言ってるも同然だよね、ヒューバルトさん?
いや、マルゴがやる気満々で腕まくりしてくれてるのは、ホンットにありがたいんだけどさ……。