134.ほかにも魔道具があるらしい
本日も2話更新します。
「しかし、ご当家が収納魔道具を保有していたことはわかったが、実際のモノは見つからなかったな」
公爵さまが眉間のシワを深くした。「そうなるとやはり、ふたつとも前当主が身に着けておられた……そして、身に着けておられたものを検めたという、以前の執事を疑うしかないだろうな」
ええもう、それ以外、考えられないです。
私は大きくうなずいちゃう。
そこでまた公爵さまが言い出した。
「収納魔道具には、おそらく血族契約魔術が施されていると思うのだが」
「あっ、それは、そうですよね」
私は思わず目を見張っちゃった。
そうだよ、言われてみればその通りだとしか思えない。
「ゲルトルード嬢、前当主は、前の執事にも使用者の追加登録をしていたと思うか?」
「思いません」
即答だよ。
公爵さまに問われるまでもない、あの自分の所有物に対してとことん執着してたゲス野郎が、そんな大事な我が家の家宝といっていいような品を、自分以外の誰かに使われちゃうなんて絶対許せるわけがないもの。
しかも、人に見られたくないもの、知られたくないもの、なんでもかんでも突っ込んで常に持ち歩くことができるんだよ、収納魔道具って。
もう絶対、間違いなく、自分以外の誰にも触らせないようにしてたに決まってる。
でも、それなら。
「では、以前の執事が我が家の収納魔道具を持ち逃げしたとしても、おそらく使用することはできない、ということですよね?」
私は首をかしげてしまった。「その、血族契約魔術というのは、血族者以外でも解除できるものなのですか?」
「不可能ではないが、非常に難しいな」
公爵さまが教えてくれた。「血族契約魔術というのは、契約魔術の中でも最も高度な術式を使っている。血族者以外が解除しようとするなら、魔法省の専門家でなければまず無理だ」
「じゃあ、もし以前の執事が我が家の収納魔道具を使おうとするのであれば、魔法省に持ち込むしかない、ということですか?」
私の問いかけに、公爵さまはまた説明してくれた。
「違法に解除を行う闇業者もいるらしいが……そういう相手に依頼するのであれば、莫大な費用を要求される。魔法省で正規の手続きを踏んで血族契約の解除を依頼するとなると、その魔道具の来歴について必ず確認が行われるので、最初にご当家に問い合わせがくるはずだ」
あの役立たず執事は、たぶん収納魔道具の存在自体は知ってたと思う。その価値もわかっていたから、持ち逃げしたんだよね?
それでもし、あの収納魔道具に大金が入っていたのだとしたら、役立たず執事は闇業者に莫大な費用を支払ってでも解除してもらうだろうけど……あのゲス野郎、公爵さまに身ぐるみ剥がれた後だったんだよね? どう考えても、金目のモノはもうまったく入ってなかったと思う。クラバットのピンやシャツのカフスすらすでに身に着けてなかったくらいだもの、あの役立たず執事もそれは理解してるはず。
じゃあ、持ち逃げした後、いまもずっと使えないまま、役立たず執事は我が家の収納魔道具を持ってる?
「収納魔道具もそうだが、『失われた魔術』が施された魔道具については、ほぼすべての品の来歴、その記録が国に残っているはずだ」
公爵さまの説明に、私はやっぱり首をかしげた。
「では、我が家から正当に譲られた場合以外は、収納魔道具は持っていても使えないし、誰かに売りつけることもできないのではないですか?」
「可能性としては、解除しないまま異国の闇業者に売りつけるということぐらいだな」
異国の闇業者って!
そんな相手に売り払われちゃったら、到底取り返すことなんてできないよ。
なんかもう絶望的な気分になっちゃった私に、公爵さまは言ってくれた。
「とにかく、一度調べてみよう。その、以前の執事の名前を教えてくれるか」
私が役立たず執事の名前を告げると、公爵さまじゃなくアーティバルトさんが『あー……』という顔をした。
もしかして、あの役立たず執事のこと、知ってる?
「面識があるのか、アーティバルト?」
アーティバルトさんの反応を見た公爵さまが問いただしてくれたので、アーティバルトさんは苦笑しながら答えてくれた。
「いえ、直接の面識はないですが……その、子爵家つながりといいますか、ウワサはいろいろ聞いている子爵家のかたですね」
やっぱあの役立たず執事、貴族だったんだ。それも子爵家の出身だったのか。
ちょっと顔をしかめちゃった私に、アーティバルトさんはさらに言ってくれた。
「では、ヒューバルトに探らせてみましょう。少し時間はかかるかもしれませんが、足取りをつかむこと自体は難しくないと思いますよ」
「よろしくお願いします」
私は思わず頭を下げちゃった。
だって、収納魔道具が取り返せるかもしれないんだよ?
いや、もしかしたらもう、異国に売り払われちゃってるかもしれないけど。でも、できることなら取り返したい。先祖代々の品だっていうこともあるけど、何より収納魔道具ってめちゃくちゃ便利なんだもん! しかも、時を止められるタイプのもあるっていうし!
「なんとか、ご当家の収納魔道具を取り戻せるといいですね。ヒューバルトならきっと、探し出してくれますよ」
なんかアーティバルトさんの笑顔がうさん臭く見えないよ。ふつうにイケメンな笑顔に見えちゃうよ。
その笑顔をちょっと収めて、アーティバルトさんが言った。
「おそらく、ひとつの収納魔道具の中に、別の収納魔道具も収納してあるのだと思います。それに、もうひとつの『失われた魔術』の魔道具も、そちらに収納してあるのではないでしょうか」
「は、い?」
いま、なんと言われました、アーティバルトさん?
もうひとつの、『失われた魔術』の魔道具?
またもや間抜けな声をもらしちゃった私に、公爵さまが横から書類を差し出してくれた。
「こちらに書いてある」
差し出された書類に、私は目を見張っちゃった。
ナニコレ、魔剣?
えっ、ちょ、ちょま、ちょっと待って、我が家には魔剣もあったの?
収納魔道具の覚え書きのほかにもう1枚、覚え書きらしき書類があり、そこには『失われた魔術』によって創られた魔剣についての記載があった。
「所有者が魔力を通すと、その魔力に応じて剣の形が変化するようだな」
「そのようですね。魔力を通さなければ、片手ほどの大きさに収めることができると、ここに書いてありますね」
持ち主の魔力に応じて形が変わる魔剣って……なんか、めっちゃくちゃファンタジーなんですけど!
てか、魔剣なんかもらっちゃっても、いったい私にどうしろと?
いや、いやいや、我が家の先祖代々の家宝みたいなもんだから、実際に使うことなんかなくても飾っておけばOKじゃない? むしろ、魔道具としても貴重すぎて実戦になんか使えないでしょ。日本でも、名だたる刀剣は工芸品扱いだったもんね? ね?
っていうか、取り返せるかどうかもまだわかんないし。
魔剣はともかく、収納魔道具はどうしても取り返したいなああああ。
何かフラグ立っちゃったかな?w