123.時を止める収納魔道具と欲しかったアレ
週末まったく更新できなかったので、今日は4話まとめて更新します。
チェックしながらの更新なのでちょっと時間かかるかもです。
私が心新たにがっつり稼ごうと誓っていると、ヒューバルトさんが実に何気なく言ってきた。
「ああ、閣下はこころよく貸してくださいましたよ」
何を、と一瞬思ってから、私はバッとヒューバルトさんに向き直った。
にんまりと笑ったヒューバルトさんが、着ているジャケットの裾をまくり、腰に下げていた小さな袋を取り外し、私に差し出してくれた。
「時を止める収納魔道具です」
これが!
ウワサの!
本当に、私が片手を広げたよりちょっと大きいくらいの、袋というかポーチのようなモノだ。薄茶色で四角い形をしていて、手触りはスェードのように柔らかくてなめらか。ふたになっているフラップにはボタンも金具も付いていないけど、フラップの横に短い紐がループ状に取り付けられていて、そこにベルトを通してひっかけておくらしい。
ちなみに重さは、本当にただの革袋くらいの重さしか感じない。
恐る恐るフラップを持ち上げて、私は中を覗き込んでみた。
中は真っ暗で、本当に真っ暗というか漆黒の闇になっていて、底なんかまったく見えない。なんかもう、この辺がファンタジー感満載だわ。
「これをお借りしてからクラウスたちと合流できたので、とりあえず買い出してきたものを収納しておきました」
ヒューバルトさんが手を差し出してきたので、私は手にしていた魔道具を返した。
受け取ったヒューバルトさんは、フラップを上げた魔道具をテーブルの上へ向けた。
次の瞬間、なんだか『にゅるん』という感じで、テーブルの上に卵がいっぱい入ったかごが出てきた。
もちろん、そんな卵がいっぱい入ったかごが入るような大きさは、その袋にはない。
それどころか、ヒューバルトさんが何も言わないのに、袋からは次々にゅるんにゅるんとモノがあふれだしてきた。
ひき肉がいっぱい入った大きなボウルが5個、レタスが10個、玉ねぎも20個くらい出てきた。焼き立てほかほかのバンズも20個ほどある。牛乳がなみなみと入った壺や、バターがたっぷり入った大きな容器、削る前の丸いチーズもごろんごろんとテーブルの上に並ぶ。
フ、ファンタジー!
これぞファンタジーだわ。本当に、物理的に絶対おかしいやん! なのに、ちゃんと収納してしまえるチートなマジックアイテムそのものだわ。
たぶん、収納魔道具を見てる私の目がキラキラしてたんだと思う。
ヒューバルトさんが、にっこり笑って言ってくれちゃった。
「申し訳ありませんが、いまこの場で、この魔道具が使えるのは、私だけです」
「はい?」
思わず間抜けな声を出しちゃった私に、ヒューバルトさんは説明した。
「この魔道具は、公爵閣下の所有物として契約魔術が施されています。そのため、閣下ご本人か、閣下に追加登録していただいた者にしか、使えないようになっているのです。私はこれをお借りしたとき追加登録していただきましたので、使えるのです」
えー! ナニソレ?
私には使えないの? せっかくこんなファンタジーなチートアイテムが目の前にあるのに!
がっくりと、うなだれてしまいそうになっちゃった私に、ヒューバルトさんがにんまり笑って言ってくれた。
「後から閣下がご来邸になりますから、そのときゲルトルードお嬢さまも追加登録していただけると思いますよ」
それは!
それはもちろん、追加登録してもらいたいが!
でもそれはつまり、がっつり試食させろと、公爵さまはおっしゃってるわけですね?
しかも、間違いなく、厨房に乗り込む気満々ですね?
なんだかものすごーくビミョーな気分になっちゃった私に、ヒューバルトさんがまた何気なく言い出した。
「それから、ガルシュタット公爵家、というかレオポルディーネさまからご伝言を預かっております」
「レオさまから?」
「はい。栗拾い当日の設営は、ガルシュタット公爵家で準備するとのことです。クルゼライヒ伯爵家では当日のお食事のみご準備いただければよいとのことです」
私は目を瞬いた。
「えっと、それはつまり、我が家は本当に食べるものだけ用意すればいい、ということかしら?」
「はい。ガルシュタット公爵家では、西の森に設置してある四阿を利用したいとお考えのようです。そこで必要な茶器やカトラリーなど食品以外のものは、すべてご用意いただけるとのことです。あとで詳しい内容の書簡をご当家にお届けすると承ってまいりました」
おおおお、レオさまもなんてお気遣いを!
そうなのよ、実はそれも悩んでたの。我が家だけのピクニックだったら、敷布になるものを持って行って、地面に敷いて座ればいいと思ってたんだけど、さすがに公爵家や侯爵家のかたがたを地面に座らせちゃっていいものなの? と。
でもそうなると、テーブルや椅子まで運ばないとダメ? いくら収納魔道具を借りたとしても、そんな20名にもなりそうな人数でアウトドアなセットを準備するとか、どう考えても無理ゲーじゃない? と……よかった、ホントによかった、レオさま、ありがとうございます!
ああでもホント、なりゆきで我が家に全員分のお弁当を押し付けられちゃったって気分だったけど、メルさまはさり気なく費用負担をしてくださったわけだし、レオさまは当日の会場の準備を引き受けてくださったわけだし。
なんていうか、ホントにさすが奥さまがた、よくわかってくださってますね、って感じよ。
まったく、言いたくないけど、時を止める収納魔道具を貸し出してくれたはいいけど、試食となると当然のように乗り込んできちゃう誰かさんとはだいぶ違う気が……いや、ホントに言いたくないけど!
レオさまメルさまのお心遣いに感謝しつつ、同時にやっぱりまたなんかちょっとビミョーな気分になっちゃった私に、ヒューバルトさんもまたもや何気なく言い出した。
「ああ、そうでした、これもありました。昨日ゲルトルードお嬢さまから頼まれた品ですが、これでどうでしょうか?」
収納魔道具の中から、ヒューバルトさんが細長い棒のようなものと、白っぽい三角形でぺらっとした薄いものを出してきた。
ヒューバルトさんは、細長い棒のようなものを私に差し出す。
「星抜き草の茎を乾燥させたものです。中が空洞になっているので、おっしゃっていたものに使用できるのではないかと」
受け取って確認して、私はびっくりした。
本当に中が空洞になったストロー状なんだけど、茎の形がくっきり六角形の星型になってるの! まるでオクラの断面みたいな感じなんだけど、オクラと違うのは五角形ではなく六角形で、もっと細くて薄くて硬い。星の尖り方も鋭角だ。
「こちらは、露集め草の花弁を乾燥させたものです」
次にヒューバルトさんが渡してくれた白っぽい三角形のものは、高さが20センチくらいで幅が15センチくらい、しかもくるりと巻いた円錐形の袋状になっている。
「この花は、この花弁の中に露を溜めるのですよ。革袋ほどの丈夫さはないのですが、森の中で水を運ぶときに簡易な水袋として使うことができます」
なんだか、レジ袋のような手触りでしゃかしゃかしてる。レジ袋に比べると少し厚みがあるけど、それでもかなり薄い。
すごい。
この世界にはこんな植物があるんだ。
これ、めっちゃ使えそうな気がする!
私はすぐに言った。
「マルゴ、これを使ってメレンゲクッキーを作りましょう!」