119.納得いかないけど利用はする
本日2話目の投稿です。
いつの間に私とマルゴの近くにまで移動してきたのか、ヒューバルトさんはイケメン圧全開の笑顔で言った。
「この芋のサラダも本当に美味しいですし、それをロールパンにはさむというのは、とてもいい食べ方だと思います。レタスを加えて、卵の黄色との色合いもよかったですし」
「さようにございますね。あたしも、ロールパンに芋のサラダは、目先が変わってよろしいかと思いますです」
って、マルゴまで!
なんかもう、マルゴの順応力も高すぎる気がするんですけど。
そんでもってヒューバルトさんってば、さらにイケメン圧を上げて言ってきちゃうんだ。
「あとは、ウワサの細長いパンにソーセージをはさんだ『さんどいっち』はどうでしょう。片手でも食べやすいというお話ですし、屋外での茶会にはもってこいではないですか? 私はまだ頂いたことがないので、ぜひお願いしたいです」
いや、いやいや、いや!
なんですかソレ、ヒューバルトさんも栗拾いピクニックに参加する気満々ですか?
公爵さまじゃないけど、私も眉間にシワ寄っちゃったよ。
そんな私の視線をモノともせず、やっぱりイケメン圧全開の笑顔でヒューバルトさんは言ってくれちゃった。
「屋外の茶会では設営にも男手が必要でしょう。ご当家には男手が足りていないようですから、商会員としてぜひ私も参加させていただきたいですね」
ええええ、ヒューバルトさんに頼むくらいならクラウスに頼むわよ。
と、私は思わず言いそうになっちゃったんだけど、それも想定済みだったらしいヒューバルトさんに先を越された。
「なにしろ今回は、公爵家と侯爵家のお集まりになりますからね。さすがにクラウスでは荷が重いでしょうし」
言われたクラウスは、申し訳なさそうに視線をそっと外している。
ぐぬぬぬ、反論できぬ。
確かに、最上位貴族家のお集まりになっちゃったから、平民のクラウスには荷が重いわ。クラウスは貴族家に勤めた経験もないし。その点、このヒューバルトさんは自身が子爵家の令息だし、しかもお兄さんが公爵さまの近侍だもん、いろんな意味で慣れてるだろうな、っていう。
その上、ゲルトルード商会の商会員としてお手伝いに来ましたって言えば、我が家に同行する不自然さもまったくないじゃないの。
ああもう、断る理由を思いつけないわ。
「……ヒューバルトさんは、エクシュタイン公爵さまとも親しくされているんですね?」
たとえ私がここで断っても、ヒューバルトさんは別口から手を回して絶対栗拾いに参加する気だよね、と思っちゃったので、なんかもう恨めし気に私は訊いちゃった。
そしたら案の定、にこやか~にヒューバルトさんは答えてくれた。
「ええまあ、そうですね。あの通り、兄が近侍をさせていただいておりますし、それに末の弟も学院入学から高等学院卒業までの間、エクシュタイン公爵家のタウンハウスに下宿させていただいておりましたので、私も当時から何度かおじゃまさせていただいておりました」
はあ?
ナニソレ、そんなに家族ぐるみのお付き合いなの?
じゃあもう最初からヒューバルトさんには、私のことなんて全部筒抜けだったってことよね?
いや、いいよもう。
いいんだけどさ。
実際ヒューバルトさんって優秀な人のようだし? 栗拾いピクニックにだってお手伝いに来てくれたら、実際我が家は助かるだろうし?
だけど、この納得のいかなさをどうしてくれよう、っていうねえええ。
ええい、もうこうなったら、とことんヒューバルトさんを利用してやるわ!
「じゃあ、ヒューバルトさんは、公爵さまのお姉さまであるレオポルディーネさまのご家族のことも、よくご存じなのですか?」
「ええまあ、それなりに」
「昨日、レオポルディーネさまが栗拾いにお連れになると言われていた、ハルトさま? がどのようなかたか、ご存じですか?」
私の問いかけに、ヒューバルトさんは笑ってうなずいた。
「はい、ハルトさまというのは、レオポルディーネさまの下のお子さまです。ガルシュタット公爵家のご次男で、ハルトヴィッヒさまとおっしゃいます。いま確か8歳でいらっしゃいますね」
ありゃ、ハルトさんはレオさまの息子さん、それも8歳のお子さんでしたか。
うーん、じゃあ、食べる量もそんなに多くないかな?
でもって、レオさまのご家族についてもう一点訊いておきたい。
「では、ご長男であるリドフリートさまのことも、ヒューバルトさんはご存じですか?」
「はい、何度かお会いしたことがあります」
「リドフリートさまは、どのようなかたなのでしょう」
私は誤解のないよう言い添える。「その、お弁当をご用意するにあたって、ふだんからたくさんお食事をお召し上がりになるようなかたでしたら、ご用意するお料理にも配慮が必要になるかと思いますので」
もし、がっつり肉食なおにーさんだったら、それ系のメニューも用意しといたほうがいいよね?
と、思って訊いてみたんだけど、ヒューバルトさんはやっぱり笑った。
「そうですね、リドフリートさまは物静かで穏やかなかたですから、特にお食事の量が多いということはないと思います」
うむ、どちらかというと草食系らしい。
私の質問の意図がちゃんと伝わったようで、ヒューバルトさんはさらに言ってくれた。
「当日ご参加される男性陣は、特に量の多いお食事を希望されるかたはいらっしゃらないと思います。ホーフェンベルツ侯爵家のユベールハイスさまにはお会いしたことがないのですが、食が細いとメルグレーテさまがおっしゃっていましたし。それにユベールハイスさまの近侍も、特に食事量が多いことはありませんから」
って、ヒューバルトさんってばユベールハイスさまの近侍さんまで知ってんの?
ちょっとびっくりしちゃった私に、ヒューバルトさんは続けて言う。
「ガルシュタット公爵家は、護衛を兼ねた侍従が帯同すると思いますが、彼もそれほどは食べないと思います。あとは侍女お2人と、もしかしたら女性の家庭教師が1名同行されるかもしれませんね。リドフリートさまは、通常近侍を帯同されません。ホーフェンベルツ侯爵家は近侍が護衛を兼ねていますので、あとは侍女さんが1名同行されるくらいでしょうか。西の森は王家の直轄地で入れる者が限られていますから、ご両家の護衛も最低限だと思いますよ」
おおう、詳しい情報をありがとう。
そうか、屋外だし護衛が必要なんだね。そういうご身分だもんね。
やっぱ使えるぢゃーん、ヒューバルトさんってば。納得は、いかないけど。
そう思ってたら、ヒューバルトさんはにんまりと笑った。
「ただ、ご当家のお料理はどれも本当に美味しいので、ふだんそれほど食べないかたでも、思わずたくさん食べてしまわれる可能性はありますね」
えー、それは褒めてんの? それとも脅してんの?
なんだか目をすがめちゃった私に、今度はマルゴが言い出した。
「ゲルトルードお嬢さま、やはりここは25名分をめどにご用意いたしましょう。30名分でもよろしいかもしれませんです」
マルゴはいたって真面目な顔で言う。
「ゲルトルードお嬢さまが考案なさいますお料理は、本当にどれもとんでもなく美味しゅうございます。ですから、そのウワサを聞きつけて、当日飛び入り参加されるかたも、いらっしゃるかもしれませんです」
いやマルゴ、当日飛び入り参加とか、何か変なフラグ立てないでほしいんだけど!
思わずヒューバルトさんの顔を見ちゃったんだけど、ヒューバルトさんは微妙な顔で笑った。
「うーん、いまのところ特に聞いてはいませんが……否定は、できませんね」
だーかーらー、変なフラグ立てないでってば!
だって、王宮の西の森は王家の直轄地だから入れる者が限られてる、って言ったばっかだよね?
それで、飛び入り参加って……いや、ダメだ、考えちゃダメだよ、私!