118.厨房会議
遅くなりましたが本日も2話更新できそうです。
そうこうしているうちに、お母さまとアデルリーナも起き出してきて厨房へ下りてきた。そんでもってやっぱり、なし崩し的に厨房で朝ごはんである。
いやもう、厨房の人口密度が高すぎるわ。
今日はさらに、メルさまの料理人が来られるのよね。
ホント、レオさまがどのレシピにするか決めかねて購入はいったん保留、公爵さまはレシピ数が多いので後日まとめて、にしてくれてよかった。これで他家の料理人がさらに追加の追加だったら、冗談抜きで収拾がつかなくなってたかも。
それにしてもお母さま、確かに目がちょっと赤い。睡眠不足なんだと思う。でも、すごくイキイキとした感じで、元気は元気なのよね。レオさまメルさまと再会できたことで、テンションが上がっちゃったままになってるのかな?
うーん、あんまりハイテンションが続いちゃうと急にばったり倒れたりすることもありそうだし、ナリッサやシエラにもお母さまのようすに気を付けてくれるよう、言っておいたほうがいいかも。
お母さまとアデルリーナにも、モリスとロッタが紹介された。
うんうん、我が家のすばらしく美人でとびきりかわいいお母さまと妹を初めて目にした人は、たいていそういう顔になるよ。キミたち、大変素直でよろしい。
そして、お母さまもアデルリーナも、マルゴにポテサラサンドを作ってもらってご満悦だ。特にリーナは本当に美味しそうに食べてくれてる。ポテサラ大好きだもんね。ああもう、私の妹は本当に本当にどうしてこんなにもかわいくてかわいくてかわいく(以下略)。
ここんとこ毎日サンドイッチばっかりな食事にはなってるけど、マルゴがいろんなバリエーションを作ってくれるおかげで、飽きずに食べられてるわ。
まあ、我が家の食事ってマルゴが来てくれる以前は、パンにスープにお肉料理にサラダが付きますの繰り返しだったしね。スープやお肉料理にもバリエーションはほとんどないし、しかも大して美味しくないっていう食事だったんだもの。サンドイッチ続きであろうが、とにかくどれを食べても美味しいっていうだけで私は大満足よ。
私たちが3人そろったところで、ナリッサが予定について話してくれた。
「本日はお昼前に、ホーフェンベルツ侯爵家の料理人さまが来邸されます。お2人のご予定で、『さんどいっち』と『まよねーず』のレシピをご希望です」
「メルのご子息も、きっと気に入ってくれるわよね。『まよねーず』は本当に美味しいのですもの」
お母さまの言葉に、リーナもにこにこだ。
「はい! 本当に美味しいです」
ああもう、お母さまとリーナがご機嫌でいてくれるだけで、私は本当に癒される。
「それからツェルニック商会から、本日お昼にゲルトルードお嬢さまのお衣裳を届けに来たいと連絡がございました」
「ああ、それは助かるわ」
私は思わず正直に言ってしまった。だって、ホンットーーーに着回しに苦労してるんだもの。とりあえず、栗拾いピクニックに着て行ける新着ドレスが欲しい! 仕事が早くて本当に助かるよ、ツェルニック商会!
ナリッサはカールに、ツェルニック商会へ訪問の了承を伝えにいくよう指示してる。
そしてさらにナリッサは言った。
「ガルシュタット公爵家からもご連絡をいただきまして、明日のお昼以降にアデルリーナお嬢さまの家庭教師の先生の、面接をお願いしたいとのことです」
おおう、レオさまも仕事が早いです。
お母さまはレオさまからのお手紙をナリッサから受け取って、内容を確認してる。
「とりあえず3名、よさそうな人がいるので面接してみて、と書いてあるわ。もし3名ともリーナに合わないようなら、またほかの人をご紹介してくださるようよ」
それもいきなり3名ですか!
お母さまは嬉しそうにアデルリーナに話している。
「よかったわね、リーナ。きっといい先生が来てくださるわ」
でもリーナはちょっと不安そうだ。
そりゃまあ、初めてのことだもんね、家庭教師の先生なんて。
「リーナが仲良くできそうな先生でなければ、お断りしてもいいのよ」
私も言ってあげた。「それで構わないって、レオさまもお手紙に書いてくださっていますからね」
「はい」
うなずくアデルリーナの顔には、まだ不安な表情が浮かんでるけど、こればっかりはしょうがない。本当に、いい先生に来てもらえることを祈るばかりだわ。
でも、レオさまのお気遣いも本当にありがたい。
ふつう、最上位貴族家である公爵家から家庭教師を、それも1人だけご紹介してもらっちゃったら、絶対に断れないもんね。たとえ、ちょっとヤダなって感じちゃうような先生であっても。
レオさまはそれがわかってるから、何人も同時に紹介して、こちらに選択肢を与えてくれてるんだもの。
朝食を終えたお母さまは、レオさまというかガルシュタット公爵家宛に、明日の面接OKですっていうお返事を書くために、リーナを連れていったん私室へと移動。
そして私は、早速ながらモリスとロッタに洗いものを頼み、マルゴと栗拾いピクニックのお弁当について相談することにした。
とりあえずまず、とんでもないメンバーで栗拾いピクニックに行くことになったこと、しかもそのメンバー全員のお弁当をなぜか我が家で用意することになってしまったことをマルゴに説明すると、案の定マルゴの目も丸くなった。
「エクシュタイン公爵さまだけでなく、ガルシュタット公爵家さまにホーフェンベルツ侯爵家さまでございますか!」
「そうなの。レオさまもメルさまも、ご家族をぜひわたくしたち姉妹にもご紹介したいとおっしゃってくださって」
言いながら、なんかもう私もほとんど頭を抱えたくなっちゃってるんだけど。
「では、総勢で何名ほどご参加されるのでございますか?」
「ええと、ちょっと待ってね」
マルゴの問いに、私は指を折って数えてみた。
まず公爵さまに近侍さんでしょ、それにレオさまんチが、レオさまに義理息子のリドフリートさまにご令嬢のジオラディーネさま。それにハルトさんって誰? まさか、宰相であるご当主まで参加されたりなんかしないよね……?
うー、そんでもって、メルさまんチはご子息のユベールハイスさまだけ?
いや、だけ、ってことはないわ、レオさまもメルさまも侍女を連れてこられるだろうし、レオさまのところはご令嬢も侍女付きよね。それに、リドフリートさまも伯爵なら、近侍を連れてるかもしれない。あー、ユベールハイスさまも未成年だけどご当主なんだから、近侍付きかな? それで、我が家の3人とナリッサとシエラも入れて……。
で、合計何人だー?
「……とりあえず、20名分くらいは、ご用意しておいたほうがいいみたい」
なんかもう、気軽なピクニックっていう規模と全然ちゃうやん……。
「20名でございますか……」
マルゴの眉間にもシワが寄っちゃう。「お昼間のお集まりでございますよね? では、おやつと軽食をご用意すればよろしいので?」
「そういうことね」
うなずく私に、またマルゴが問いかける。
「ご用意したお弁当は、どのように運ばれますでしょうか? 馬車に積み込むにしても結構な量になりますですよ。お茶のご用意も必要でございますし、食器やカトラリーなども運ぶとなりますと……」
「あ、それに関しては、公爵さまが時を止められる収納魔道具を貸してくださるそうよ」
「それはよろしゅうございました」
一気にホッとした表情をマルゴが浮かべた。「それでしたらもう、お料理もとにかくできたものからどんどん収納させていただけますね。もし前日から魔道具がお借りできるのであれば、前日からご用意にとりかかれますし」
「そうね、前日からお借りできるか、公爵さまに伺ってみるわ」
そうよそうよ、お料理を作る順番なんかも考えずに、とにかく作れるものから作ってどんどん収納魔道具に放り込んでいけばいいのよ。時を止めて、つまり出来立ての状態をキープしてくれるんだもの。めちゃめちゃ便利よね。
それに、食器やカトラリーだって前日から魔道具に詰め込んでおければ、当日の準備がとっても楽になるわ。
「それでは、メニューはどうなさいますですか?」
「ええと、とりあえずプリンと、それに果実とクリームのサンドイッチは用意したほうがよさそうなの」
レオさまもメルさまも、公爵さまの煽りにめっちゃ食いついてこられたからねえ。
「では『まよねーず』を使った『さんどいっち』は、いかがなさいます?」
「いまゲルトルードお嬢さまが指示を出して作られた、芋のサラダをはさんだロールパンの『さんどいっち』はどうでしょう?」
って、ヒューバルトさん?
なんでそんなにナチュラルに、我が家の厨房会議に参加してるんですか!