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117.厨房の人口密度が高いです

本日2話目の更新です。

 なんか、目を閉じて次に目を開けたらもう朝になってました、って感じ。

 こういうのって、熟睡っていうんじゃなくて、気絶っていうのよね……。

 などと私は前世のブラックな記憶を思い出しながら、ベッドの上に体を起こした。

「おはようございます、ゲルトルードお嬢さま」

 すぐにナリッサが洗面器と水差しを運んで来てくれる。しかし私がこのていたらくなのに、ナリッサってばいったいいつ寝てるのよ?


 同じ部屋にベッドがあるアデルリーナは、まだ眠っているようだ。

 私はそっとナリッサに訊く。

「お母さまは?」

「まだお休みになっておられます」

 ナリッサもそっと答えてくれた。「その、奥さまは昨夜、ずいぶん遅くまで起きておられたようです」

「お母さまが遅くまで?」

 ちょっとびっくりして問い返すと、ナリッサがうなずいた。

「はい。どうやら、書きものなどされていたようです」


 書きもの?

 お母さまが?

 なんだろう、昨日の感動の再会のあまり、お母さまってば日記でも大量に書いちゃったりしてたんだろうか?

 でも、お母さまが書きものって……本はよく読まれていたけれど、お母さまが熱心に書きものをされていたっていう記憶が、私にはない。


 なんだかよくわからないけど、私はナリッサにまたそっと言った。

「じゃあ、お疲れでしょうから、ゆっくりお休みさせてあげてちょうだい。あ、もちろんリーナも起こさなくていいわ」

「かしこまりました」

 ナリッサが、お母さまの寝室の控室にいるシエラにそのことを伝えに行く。

 アデルリーナも、なんだかんだ毎日お客さまが多くて、ずっと気を張っているんだと思う。できるだけ、ゆっくり眠らせてあげたい。

 私はナリッサに手伝ってもらって手早く着替え、寝室を出た。


 廊下に出たところで、ナリッサがひゅっと冷えた声で言ってきた。

「昨日ヒューバルトさまからお話がありました、料理人見習がすでに到着しております。ヒューバルトさまと、クラウスも同行しております」

 早っ!

 ナニソレ、見習さんってば、やる気満々なの? いや、でも、紹介してくれるヒューバルトさんだけじゃなく、クラウスまで来てるって?

 ナリッサによると、マルゴもすでに来ていて、しかも昨日話した下働きの女の子も連れてきてくれているらしい。

 なんかもう、みんなして仕事が早いです。


 厨房へ下りていき、ナリッサに扉を開けてもらって私が中に入ったとたん、いっせいに挨拶が飛んできた。

「おはようございます、ゲルトルードお嬢さま!」

「おはようございます」

 厨房の中にはマルゴとカールのほか、ヒューバルトさんとクラウス、さらに大柄でがっしりした体型の若い男性と、丸顔でおさげ髪という女の子がいた。うーん、めっちゃ人口密度高いよ。

 てか、ヒューバルトさんまで我が家の厨房に入ってきちゃうとは……なんか今後、試食とかねだられそうな気が、めっちゃするんですけど。


 私はそんなことを考えちゃったんだけど、ヒューバルトさんはいつもと違ってあんまりうさん臭くない笑顔で言った。

「ゲルトルードお嬢さま、この男が昨日お話ししました、料理人見習のモリスです」

「モリス・ゴルドーと申します。よろしくお願い申し上げます」

 20代前半だと思うけど、身なりもこざっぱりとしているし、物腰も落ち着いている。

「ええ、よろしくお願いしますね、モリス」

 私は笑顔で答えた。


 次はマルゴだ。

「ゲルトルードお嬢さま、この娘が下働き希望のロッタでございます」

「ロッタ・ドルツェと申します! よろしくお願い申し上げます、ゲルトルードお嬢さま!」

 ぴょこん、と頭を下げたとたん、ロッタのおさげ髪が跳ねる。17歳だってマルゴは言ってたけど、なんかホントに女の子って感じでかわいらしい。

「ええ、よろしくお願いしますね、ロッタ。マルゴを手伝ってあげてちょうだい」

「はい! 頑張ります!」

 私が声をかけると、ロッタは顔を上気させて嬉しそうに答えてくれた。


 挨拶が済んだところでヒューバルトさんが言い出した。

「ゲルトルードお嬢さま、恐縮ではございますが、本日はしばらく私とクラウスも、こちらの厨房で見学させていただいてよろしいでしょうか? モリスがご当家でやっていけそうなのか、見極める必要もございますし」

 あー、ヒューバルトさんの笑顔がうさん臭くなったよ。

 そうですか、わかりました、もう今日から試食する気満々なのね?


 なんかもう、クラウスは申し訳なさそうに視線を泳がせちゃってる。

 そうよね、ヒューバルトさん1人なら私は断るかもしれないけど、クラウスがいたら断らないだろうってことで、クラウスも連れてこられたってことね?

 そりゃそうよ、クラウスなら我が家の厨房でご飯を食べさせてあげるくらい、全然かまわないもの。むしろ、カールと一緒に食べていきなさいね、って感じだもん。

 だからナリッサ、ヒューバルトさんに絶対零度の笑顔を向けるのはいいけど、自分の弟にはあんまり圧をかけないでやって。クラウスはダシにされただけみたいだから。


 それにだいたい、私が朝食を摂ってる横で、こんなデカい連中がずらーっと並んでたらうっとうしいじゃない。とりあえず座らせて、何か食べさせといたほうがまだマシよ。いや、私がちゃんと朝食室へ行って食べればいいという点には誰も触れさせないわよ?


 と、いうことで、私は今日も厨房のテーブルに朝食をセッティングしてもらい、ヒューバルトさんもクラウスも、それに恐縮しまくってるモリスとロッタも座らせた。

 あ、でも、これって、貴族と同じテーブルに着いちゃうってことか?

 う、うーん、もうぶっちゃけ面倒くさいし、我が家のローカルルールでいいことにする!


 そんでもって、とりあえず彼らには、マルゴがたくさん作り置きしてくれていたポテトサラダをあてがっておくことにした。

「これは、昨日お出ししたサンドイッチにも使っていたソースで味付けしたサラダです」

 私はヒューバルトさんとクラウスにそう説明し、モリスとロッタにも説明をしてあげる。

「味付けに使っているソースのレシピは今後、わたくしの商会で販売する予定です。今日はホーフェンベルツ侯爵家の料理人さんがそのレシピを習いに来られるので、モリスとロッタも味を覚えておいてちょうだいね」


 それぞれの前に、ポテトサラダが配られる。

 ヒューバルトさんが最初にフォークを口に運んだ。

「これはまた! なるほど、こういう食べ方もできるのですね。実に美味しい」

 なんだかもうウキウキと楽しそうにポテトサラダを食べちゃうヒューバルトさんに、クラウスやモリス、ロッタもちょっとホッとしたような表情でフォークを手にした。


「えっ、なにこれ! ものすごく美味しい!」

 ロッタははしばみ色の目を真ん丸にして言うと、せわしなく次のひとすくいを口へ運ぶ。

 いっぽう、モリスは見開いた灰色の目をすぐに細め、ポテトサラダを含んだ口をゆっくりと動かしている。

 ふんふん、モリスくん、マヨネーズに何が使われているか確かめようとしてるのね? お皿に残ってるポテトサラダのほうも、すごい真剣な顔で見つめてるし。これはもしかして、研究熱心な料理人に当たったかな?

 モリスのそのようすを見てるマルゴも、なんだか満足げだわ。


 私はマルゴに言った。

「マルゴ、このパンに縦に切り目を入れてくれる? そこに、このお芋のサラダをはさんで食べたいの」

「おやまあ、それはまた美味しそうでございますね!」

 マルゴはすぐに私の意図を理解してくれた。

 パン切り包丁を手にしたマルゴが、目の前のかごに盛ってある丸っこいロールパンをひとつ取り出し、すっと縦に切り目を入れてくれる。マルゴはその切り目にちぎったレタスを敷いて、ポテトサラダを詰めてくれた。

 うふふーん、ポテサラサンドの完成であーる。ゆで卵入りのポテサラだから贅沢バージョンよん。


 ヒューバルトさんが、笑い出した。

「いや、本当にゲルトルードお嬢さまの発想はすごいです。そうやって、何でもさらに美味しく食べる方法を、簡単に思いついてしまわれるのですから」

 笑いながらヒューバルトさんがモリスに言う。「モリス、ここは本当にいい職場だろう? しっかり学べば、きみはとびきりの料理人になれるよ」

 言われたモリスは、ぐっとあごを引いてうなずいてる。

 うん、頑張ってくれ、モリスくん!


どんどん新しいキャラが増えているので、近いうちに登場人物一覧表をUPしようと思っています。

でも、キャラはまだまだ増える予定です(;^ω^)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回もホッコリしながら読んでます [気になる点] この時代の厨房は女性はゆたり?スカートですか? 厨房密度が高いと、、食中毒大丈夫ですかネ?今は冬時季、、 ルディ−ちゃんなら考えてますヨネ…
[気になる点] 当主で雇い主の主人公に対して、苦労をともにしてきた以前からのメンバーならともかく、公爵関係の人たちが平然と上司にたかる感覚がわかりません。 大人たちが主人公に対して後出しでしかも子供に…
[気になる点] 厨房に勝手に入る人がまたも…おそらく外からの靴をそのまま履いているいわゆる土足、ですよね…?マヨネーズに使う生卵は徹底的に洗浄されてるのかなとか、洗浄魔導具とかが大活躍してるなら安心で…
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