115.懸案がひとつ片付いたようです
本日1話更新です。
って、夜中に2話更新してるから、もしかして今日3話目かな?w
大きな息を吐きだして、少しばかり姿勢を崩していた公爵さまが、よっこらしょとばかりに姿勢を戻した。ちょっとおっさんくさい、げふんげふん、いやさすがにいろいろ、お疲れのようです。
「それではエグムンド、先ほど言ったように、ガルシュタット公爵家夫人レオポルディーネ・クラムズウェルと、ホーフェンベルツ侯爵家当主ユベールハイス・ワーズブレナーの2名を、ゲルトルード商会顧問に加えておいてくれ」
「かしこまりました」
なんかさすがのエグムンドさんも、ちょっとホッとしたように答えてる。
いや、クラウスなんかもう本気でホッとしてるわ。そりゃあもう、公爵家夫人と侯爵家夫人が目の前に並んでたんだもんね、緊張するなっていうほうが無理だよね。
そんでもって、公爵さまはまたひとつ息を吐きだした。
「店舗の改装についてまったく話を進められなかったが、それでもまあ、上位貴族の顧問が2名増えたのは喜ばしいことだろう」
「さようにございます」
エグムンドさんもうなずいている。「それに、飲食店を開店するにあたり、複数の貴族女性のご意見を直接お伺いできたことも、非常によかったと存じます」
あ、それは私も、とってもよかったと思います。
特に侍女のザビーネさん、本気で嬉しそうだったし、あのようすなら、お店ができたら本当に積極的に利用してくれそうだったもん。
ヒューバルトさんが言ってた通りだよね、特に下位貴族の女性から支持されるんじゃないかって、ね。
公爵さまもそう思ったようで、すぐに言い出した。
「ヒューバルトの指摘通りのようだな。下位貴族女性の利用が、かなり見込めそうだ」
「はい、閣下。店舗の改装についても、また価格の設定についても、下位貴族女性を顧客の基準として考え進めていくのがよろしいかと」
ヒューバルトさんもにんまりしてる。
でも、すぐににんまり顔をひっこめたヒューバルトさんは続けて言った。
「ただ、当面はやはり、多くのお客さんをさばくのは難しいと思います。商会側としても初めての試みですし、1日にどの程度の販売が見込めるかもまだわかりません。それであればむしろ、1日の販売数や予約数を最初から限定しておくのも手ではないでしょうか」
「ふむ」
公爵さまがあごに手を遣って考えてる。「そうだな、確かに最初からすべてを準備して販売を始めることは難しいだろう。しかし、販売数や予約数を限定するとなると、ゲルトルード嬢のいう、気軽に立ち寄れる飲食店という形にはなりにくそうだな」
視線を向けられ、私も公爵さまに顔を向ける。
「そうですね。でも……ヒューバルトさんの言われることは、よくわかります。とりあえず最初は、販売数や予約数を限定しておいて、特別感を演出したほうが話題になっていいかもしれません」
「ええ、その特別感は大事だと思います」
ヒューバルトさんが嬉しそうに言った。「さすがゲルトルードお嬢さまは、わかっておられる。初めて立ち上げる商売は、手探りの期間が必ずあります。その手探りの期間を、どのように対処するかがその後の商売の発展に大きくかかわります。数が足りないのではなく、数の少ない特別な品だと客に思わせるのは、非常に有効な方法です」
「なるほど。そして一定の客が見込める状態になって初めて、流通量を増やしていくというわけか」
公爵さまもうなずいてくれた。
「ではその方向性で、具体的な店舗の計画を立ててみましょう」
エグムンドさんが、あの建物の見取り図を広げてくれた。
ヒューバルトさんはその図面を示しながら、慣れた感じで話し始める。
「まず、店内の席数を決めましょう。それによって、必要な厨房の大きさも決まってきます。個室はいくつ設置しますか? その個室に入れる人数は、4~5人程度でよろしいでしょうか?」
「ええと、6人用の大きめの個室が1つと、4人用の個室が1つか2つくらいでどうでしょう」
私は自分なりに、店内のようすをイメージしてみた。
「では、ここに6人用個室、こちらに4人用の個室で」
ヒューバルトさんが示してくれたスペースに、私は異議を唱える。
「いえ、ここだと壁で囲ってしまうとかなり圧迫感があると思います。できれば個室は窓際の明るいところがいいと思います」
「しかし窓際の場合、壁で仕切ってしまうと、その個室以外の場所が暗くなってしまうのではないか?」
公爵さまの意見にも、私は自分の考えを伝えた。
「壁は、天井まで完全に仕切る必要はないと思います。壁というよりは、本当に間仕切りのような感じがいいかもしれません」
だって、1フロアにがっつり個室を並べちゃうと、カラオケボックスか漫画喫茶かになっちゃうじゃんね。
そうやってなんだかんだ話し合っていると、お母さまとヨーゼフが戻って来た。
そういえば玄関へのお見送りだけだったはずなのにずいぶん時間がかかってるな、また玄関ホールで、3人で立ち話でもされてるのかしらと思ってたんだけど、お母さまは笑顔で客間に入ってくるなり言った。
「ルーディ、ヨアンナからお返事が来たわ!」
「えっ、ヨアンナから?」
私とお母さまは、公爵さまに断りを入れて、その場でヨアンナからの手紙を開封した。
手紙には、家族で迎えてもらえるなら、ぜひ我が家に戻りたいと書いてあった。
「ああよかった、ヨアンナが我が家に戻ってきてくれるわ!」
「ええ、本当によかったです! お母さま、すぐに貸馬車を手配して迎えを送りましょう」
クラウスに貸馬車の手配を、と言いそうになって、私ははたと気がついた。クラウス、商業ギルドを辞めちゃったんだった。
ええと、それでもクラウスに頼めば貸馬車の手配をしてくれるのかな、と迷っていると、公爵さまが私に問いかけてきた。
「ヨアンナとは誰のことだろうか? それに貸馬車の手配とは?」
「はい、あの、ヨアンナは以前我が家に勤めていた侍女です。現在、レットローク伯爵家の領主館に勤めているのですが、庭師の夫とともに我が家へ戻ってくれると連絡がきまして、迎えの馬車を送るつもりなのです」
「レットローク伯爵家の?」
公爵さまの眉が上がる。「では、きみが言っていた、侍女と庭師の夫婦者というのは……」
「そうです、新居の確認をしていただいていたとき、お話しした者たちです」
「それならば、我が家から馬車を出そう」
「はい?」
私は思わず間抜けな声を出しちゃったけど、でもそういう反応になるよね?
だって、我が家の使用人を迎えにいくために公爵さまが馬車を出してくれるって……後見人ってそこまでしてくれちゃうもんなの?
だけど公爵さまは、いたって真面目な顔で言ってくれた。
「我が家の侍女頭が、レットローク伯爵家の出身なのだ」
「えーっ!」
さすがにその発言には、私もお母さまもびっくりして声をあげちゃったわよ。
「えっ、あの、公爵家の侍女頭さんが?」
「そうだ。我が家の侍女頭は、先年亡くなられたレットローク伯爵家の先代未亡人の妹にあたる。彼女は何度も領地へ帰って姉君とも会っていたので、そのヨアンナという侍女のことも知っているのではないかと思う」
「あの、ヨアンナは先代未亡人付きだったようです。大奥さまにかわいがっていただいていたと」
お母さまもびっくりしながら言って、公爵さまはうなずいてくれた。
「ならばやはり、我が家の侍女頭と面識がある可能性が高い。我が家の馬車で迎えを送っても問題ないだろう」
いや、なんかマジでびっくり。
そんなつながりがあったとは。
私はお母さまと顔を見合わせ、うなずきあった。
「それでは公爵さま、お願いできますでしょうか? あの、侍女のヨアンナと庭師の夫、それに4歳の息子もいるそうです」
「うむ、了解した。本日帰宅後にすぐ手配しよう」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
なんか、懸案がひとつパッと片付いちゃったような感じだ。
これで数日のうちに、ヨアンナが我が家に戻ってきてくれる。人手が足りないこの状況で、お母さまによく尽くしてくれていたヨアンナが戻ってきてくれるというのは、本当に心強いわ。
でもヨアンナ、公爵家の紋章入り馬車がお迎えに来たら、めちゃくちゃびっくりするだろうな。