113.食いつきよろしく好感触
こんな時間ですっかり日付も変わってしまいましたが、2話更新します。
なんかもう、雲の上のたっぷり情報量に私があっぷあっぷしてると、すっとヨーゼフが近づいて耳打ちしてくれた。
「ゲルトルードお嬢さま、そろそろ次のおやつはいかがでしょうか?」
うわーん、ありがとうヨーゼフ、ホンットにこういうときこそ美味しいおやつよね。
私は笑顔で言った。
「そうですね、リドフリートさまも、ユベールハイスさまも、お会いできる日を楽しみにお待ちしていますね」
そんでもってさらに笑顔を盛っちゃう。「皆さま、そろそろお茶のお代わりはいかがでしょうか? サンドイッチを召し上がっていただいた後ですので、少し軽めのおやつもご用意しております」
「あら、まだほかのおやつもあるのね? ぜひお願いするわ」
「うむ、ぜひお願いしよう」
食いしん坊姉弟がさっそく反応されています。
もちろんメルさまも嬉しそうです。
「次はどんなおやつをいただけるのかしら? またルーディちゃんが考えたおやつなのかしら?」
「はい。ちょっと変わったおやつです。本当に、ちょっとつまんで食べる程度のものなのですが」
我が家の優秀な使用人たちが、すみやかにお茶のお代わりを用意してくれる。
今度はアデルリーナも一緒に、お母さまのとなりに席を用意した。リーナも一緒にお茶できるということで、とってもとっても嬉しそうだ。私もめちゃめちゃ癒される。本当に、私の妹はどうしてこんなにかわいくてかわいくてかわいい(以下略)。
新しいお茶が配られ、そして各テーブルにかわいらしいボンボニエールが置かれていく。全員に行き渡ったところで、私はボンボニエールのふたを開けた。
中身はもちろん、メレンゲクッキー。ぎっしり詰まった白い小さなクッキーに、お母さまもアデルリーナも顔が緩んじゃってる。
私はお母さまと一緒にお茶を一口飲み、そしてメレンゲクッキーをひとつつまみ出して口に入れた。
うーん、サクッシュワーだ。
「では皆さまも、お召し上がりください」
やっぱり最初に口にしちゃうのはレオさまだ。ホントに食べることにためらいがないわ、この人。
「えっ、なにこれ! お口の中で消えちゃったわ!」
はちみつ色の目を丸くして、レオさまが口元を手で押さえちゃってる。
メルさまもすみれ色の目が真ん丸になってるし。
「本当に噛んだとたん、お口の中で消えちゃうわ。なんて不思議なおやつなの」
「美味しいでしょう、甘酸っぱくて」
お母さまも嬉しそうにメレンゲクッキーをつまんでる。「なんだか、手が止まらなくなってしまうのよね。とっても軽い食感だから、次々食べてしまって」
「わかるわ。本当に止まらなくなってしまうわ」
レオさまが妙に納得顔で、またメレンゲクッキーをつまんでお口に入れた。
男性陣はどうかとようすを窺うと、公爵さまもあの不思議な藍色の目を丸くしてる。そんでもって、確認するようにまたひとつつまんで口に入れた。で、やっぱり止まらなくなったみたいで、次々口に入れちゃってる。
近侍アーティバルトさんも全然遠慮してなくて、公爵さまと競うようにボンボニエールに手を入れてるのが笑える。
それに、嵐のように登場したレオさまメルさまにすっかり押されて、ただひたすら静かに席についてるエグムンドさんたちも、黙々と食べてる。てか、エグムンドさんの眼鏡がまたキラーンしちゃってるような……絶対、このメレンゲクッキーも商会のお店で売ろうって算段してるんだろうな。
そう言えば、ヒューバルトさんは貴族だけど、エグムンドさんとクラウスと一緒の席についてる。商会員っていう括りだといいのかな? 侍女は侍女っていう括りだと同じテーブルでもいいっていうのと同じ扱い? なんかもう、その辺のルールが私にはいまだによくわからない。
「ゲルトルード嬢」
なんかもう勢いよく食べきっちゃった公爵さまが言い出した。「こちらのおやつも、商会の店舗で販売できるのではないだろうか?」
うん、エグムンドさんだけじゃなく公爵さまもそう算段してるだろうとは思ってたわ。
「そうですね、プリンと同じようにカップか何か、容器に入れて布でふたをすれば販売できると思います」
「店舗で販売って、レシピではなく? このおやつをそのまま、ルーディちゃんの商会で売るつもりなのかしら?」
私が答えたとたん、レオさまが秒で反応してくれちゃう。
そんでもってやっぱりどや顔で、公爵さまが答えてくれちゃってます。
「その予定です、レオ姉上。ゲルトルード商会の店舗を、王宮前大広場から少し下ったところに予定しておりますので」
「開店はいつのご予定かしら? ぜひ購入させていただくわ」
「ええ、その噂の『ぷりん』というおやつも、ぜひ。ルーディちゃんが考えたおやつなら、もう間違いなく美味しいでしょうから」
なんかもう、レオさまもメルさまも目がマジです。決してお愛想で言ってるのではなく、本気で買い占めにやってきてくれてしまいそうな勢いです。
「開店はまだ少し先になると思います。なにしろ、これから建物の改装について話し合うような状況で」
公爵さまがそう答えると、レオさまはまた速攻で言い出しちゃった。
「改装の何に手間取っているのかしら? 業者の選定? 人手? ヴォルフがついているのなら資金の心配はないと思うけれど、必要な援助はなんでもするわ」
レオさま、鼻息荒いです。
いや、しかし、何に手間取っているのかというより、今日その改装の話し合いをするために我が家にメンバーが集まったのに、レオさまメルさまのご登場で、いまんとこ全部吹っ飛んじゃってるっていうのがいちばんの問題かもしれません。
「店舗の改装についてですが」
公爵さまがおもむろに言い出した。「少し変わった趣向を考えております」
そう言って、公爵さまの視線が私に向く。
わかりました、私が自分で説明いたしますとも。
「変わった趣向ですって?」
問いかけるレオさまに、私は言った。
「はい。店頭でおやつを販売するだけでなく、店内でお茶と一緒におやつも召し上がっていただける、飲食店にしようと考えています」
えっ? という感じで、レオさまとメルさまの眉が上がった。
どうやらやっぱり、お茶とおやつの飲食店というのは珍しすぎるらしい。
「それは……自宅でお茶会を開くのではなく、お店でお茶会を開くような感じなのかしら?」
「いえ、もっと気軽に楽しんでいただけるような雰囲気にしたいと考えています」
レオさまの問いかけに私は答える。「お買い物の途中に寄っていただいたり、学院の生徒に下校途中に寄っていただいたり、気軽にちょっとお茶とおやつを楽しんでいただけるような、そんなお店を考えているのですが」
「それは、貴族専門の飲食店ということかしら?」
今度はメルさまからの問いかけだ。
「いえ、平民の人たちにも利用してもらいたいと考えています。貴族のかた向けには個室をご用意する予定にしております」
「個室はいいわね。女性だけでも気兼ねなく利用できそうですもの」
すぐにレオさまがうなずいてくれた。
メルさまもうなずいてくれる。
「ええ、とてもいいと思うわ。自宅でお茶会を開催するのって、結構面倒ですものね。招待された場合も、やはり気を遣いますし。気の置けないお友だち同士で気軽にお茶とおやつを楽しみたいのであれば、お店を利用するという選択肢もあっていいわよね」
そこでレオさまが、自分の侍女に顔を向けて言い出した。
「ザビーネ、もしそういうお店があれば、わたくしたちよりも貴女たちのほうが使い勝手がよいのではなくて?」
声をかけられた侍女さんがうなずく。
「発言をお許しくださいませ、ゲルトルードお嬢さま。わたくし、レオポルディーネさまの侍女を務めさせていただいております、ザビーネ・フェルシャーと申します」
「フェルシャーさん、そのようなお店に関してご意見がお有りでしたら、ぜひお願いします」
私がそう言って促すと、ザビーネさんはにっこりと笑った。
「はい。わたくしのような、爵位も領地もない貴族にとっては、そのような気軽にお茶とおやつを楽しめるお店があるのでしたら大変ありがたく、ぜひご利用させていただきたく存じます」
うおう、好感触じゃないですかっ。