112.雲の上に連れていかれる?
今日も1話だけの更新になりそうです。
初レビューいただきました! ありがとうございます! めっちゃ嬉しい!
「大人の話はちょっと難しかったかしらね」
レオさまがそう言いながら、膝の上に抱っこしているアデルリーナの髪をなでてくれている。
アデルリーナは、少し不安そうな表情でレオさまを見て、それから私とお母さまを見た。
私は思わず言った。
「リーナ、わたくしたちの暮らしは、大きく変わったの。そのほとんどが、いいほうへ変わったのよ。でも、その変わったことに慣れるのに、わたくしもお母さまも、まだちょっと時間がかかりそうなの。いまは、そういうお話をしていたのよ」
こくん、とアデルリーナがうなずく。
うなずきながら、アデルリーナが一生懸命考えているのがわかる。自分なりに、いろいろなことを理解して受け止めようとしてるんだと思う。本当に、本当に私の妹は賢くてかわいくて賢くてかわいくてかわいくてかわ(以下略)。
そんなアデルリーナに、メルさまがやさしく声をかけてくれた。
「リーナちゃんは、ルーディお姉さまが大好きなのよね」
「はい!」
私を含め、みんなちょっとびっくりしちゃうくらいの勢いで、リーナが返事をしてくれた。
「まあ! 本当にいい子ね、リーナちゃん。ルーディお姉さまもお母さまも大好きなのね」
「はい、大好きです!」
レオさまの問いかけにも、リーナは即答だ。
はわわわ、どうしよう、顔が緩んじゃう。もうこの状況で、デレデレにならずにいられようか!
「ああ、リアが自慢するの、とってもよくわかるわ。2人とも、本当にすてきなお嬢さんね」
メルさまはそう言いながら、リーナの髪をなでてる。
レオさまもリーナをぎゅっと抱きしめて頬ずりなんかしちゃってるし。
「きょうだいで仲良しなのは、とってもいいことよ。わたくしも、自分の姉が大好きなの。本当にすてきなお姉さまで、いまもずっと仲良しなのよ」
「レオさまにも、お姉さまがいらっしゃるのですか?」
リーナの問いかけに、レオさまは笑顔で答えてる。
「ええ、とってもすてきなお姉さまよ。そのうち、リーナちゃんにもご紹介したいわ」
って、レオさま!
き、気軽にご紹介とかおっしゃってますけど、レオさまのお姉さまって……ベルゼルディーネ王妃殿下ですよね!
私が内心、震えあがっちゃってるのに、レオさまは平然と言ってる。
「わたくしのお姉さまにも娘がいるの。いま12歳だから、リーナちゃんより2つ年上ね。その子も、そのうちリーナちゃんにご紹介するわ。仲良くしてくれると嬉しいのだけれど」
「はい。わたくしも仲良しになりたいです!」
リリリリーナ! 簡単に言っちゃダメ!
だって、だって、その12歳の女の子って……レイアディーネ王女殿下なのよぉーーー!
「いいわねえ、女の子同士は」
メルさまがちょっとむくれたように言い出した。「わたくし、自分の息子には何の不満もないのだけれど、こういうときは娘が欲しかったって思っちゃうわ」
「そうね、男の子同士はねえ……」
レオさまがちょっと視線を泳がせた。「でも、ベルお姉さまのところの一番上がいま学院の2年生だから、メルのユベールくんが入学したら1年は一緒に通えるじゃない?」
「もう、ベルお姉さまの一番上なんて、気軽に言わないで」
メルさまが口をとがらせる。「王太子殿下にご学友扱いしてもらうなんて、側近として取り立ててもらわない限り無理じゃないの」
「まあ、それはそうね。でも、ユベールくんはすでにホーフェンベルツ侯爵家当主なんだから、大丈夫じゃない?」
「じゃあ、本人にその気があるか、訊いておくわ」
な、なんか、ちょっと、雲の上のほうのお話が展開されているような……。
お、王太子殿下の側近とか……そうよね、なんかもう結構忘れちゃってるけど、レオさまは公爵家夫人でメルさまは侯爵家夫人なのよね?
そんでもって、ちょっと食が細くてメルさまが心配されているご子息は、すでに侯爵家のご当主なのよね? それだったら、王太子殿下の側近でもまったく問題ないわけで……。
メルさまは、王妃殿下のことをベルお姉さまなんて呼んじゃっていらっしゃるし、そういう、雲の上の世界のかたたちなのよね……?
「そういえばルーディちゃん」
レオさまの顔が私に向いた。「そもそも貴女は在学中なのだから、わたくしたちの甥のヴォルデマールとも会っているのではなくて?」
私はぶんぶんと首を振ってしまった。
「あの、遠くからお見かけしたことがあるくらいです」
だから、レオさまと公爵さまにとっては甥っこのヴォルデマールくんでも、私にとってはヴォルデマール王太子殿下なんだってば!
なのに、レオさまはやっぱり平然としてる。
「そうなの? じゃあ今度ご紹介するわ。まあ、確かに男の子だし、あんまり愛想のいい子じゃないし、おしゃべりしてても楽しくはないけれどねえ」
だから、楽しいとか楽しくないとか、そういうレベルのお話じゃないんですー!
「あら、でもそれなら、我が家の息子もルーディちゃんに紹介しておかなきゃ」
メルさまも言い出した。「我が家の息子はユベールハイスっていうの。ずっと領地で育っていて同じ年ごろのお友だちが全然いないのよ。ルーディちゃんより1つ年下だけれど、仲良くしてくれると嬉しいわ。ユベールは男の子だといっても結構おしゃべりだし、楽しいと思うわよ」
だから楽しいとか楽しくないとか(以下略)。
だけど私に拒否権なんかあるわけないし。年下とはいえ相手は侯爵さまなのよ?
「ええ、メルさま。学年が違うのが残念ですが、ぜひ仲良くさせていただきたいです」
笑顔をひきつらせずに言えてるだろうか、私。
「レオ姉上、それならばリドも、ゲルトルード嬢に紹介すべきでしょう」
姉弟の仲良し張り合いっこ以降は会話から遠ざかってた公爵さまが、おもむろに口を開いた。
「リドのヴェントリー領は、ゲルトルード嬢のクルゼライヒ領と少しだけですが接しています。ゲルトルード嬢はこれから、近隣の領主と顔を合わせておく必要がありますので」
「あら、そうだったわ、ヴェントリー領ってクルゼライヒ領のおとなりだったわね」
うなずいたレオさまに、公爵さまがうなずき返す。
「街道が通っているような領境ではないですが、魔物討伐など協力は必要ですから」
ま、魔物討伐?
えっと、あの、領境に、魔物とか出ちゃったりする、んですか……?
なんかぎょっとしちゃった私をよそに、レオさまはさくっと教えてくれた。
「ルーディちゃん、リドっていうのは、わたくしの義理の息子よ。現在、伯爵位を継いでヴェントリー領の領主をしているの」
は、い?
レオさまの義理の息子さん? 伯爵位を継いでって、あの、レオさまんチは公爵家ですよね? なんで伯爵位? ガルシュタット領じゃなくて、ヴェントリー領?
思いっきりクエスチョンマークを頭の上に跳び散らかしちゃった私に、レオさまはさらに説明をしてくれた。
「わたくし、ガルシュタット公爵家の後妻なのよ。夫は14歳年上で、結婚と同時に8歳の息子ができちゃったの」
レオさまはけらけら笑いながら言ってるんだけど、なんかこっちはちょっと本気でびっくりだわ。レオさま、後妻さんだったんですか。
「その、当時8歳だった先妻の息子がリド、リドフリートよ。いまは22歳になってるわ。もちろん夫の、ガルシュタット公の嫡男なのだけれど、ちょっと事情があって、公爵家は継がないって言い張ってるの。それで、夫は予備爵の伯爵位を与えて、ガルシュタット領からは飛び地領になっていたヴェントリー領も与えて、領主にしちゃったのよね」
ちょっと待ってください、情報量が多すぎます。
ええと、リドフリートさん? 22歳で、おとなりヴェントリー領のご領主で伯爵? でも、ガルシュタット公爵家の嫡男なのよね?
いや、なんかもう、公爵家とか侯爵家とか、王家とか!
いきなりふつうに雲の上へ、私を連れて行かないでほしいですー!
これからまた新しいキャラがどしどし登場しますw