110.仲良しにもほどがある
本日は1話だけの更新です。
「このレシピ、購入させていただくわ」
サンドイッチをがっつりお召し上がりになったレオさまが、優雅に口元をナプキンで拭いながら言い出した。
「この『さんどいっち』とソースは別々のレシピになるのかしら? その場合はもちろん両方購入させていただくわよ」
「わたくしもお願いしますわ」
メルさまもにこやかに言う。「もちろん、わたくしも両方で。わたくしの息子は少々食が細いのですけれど、これなら喜んで食べてくれそうですもの」
「レオ姉上、それにメルグレーテどの」
公爵さまが澄ました顔で応えちゃった。「これらのレシピの販売は年明けを予定しております。現在はご予約という形になりますが、よろしいでしょうか?」
「年明けですって?」
レオさまの眉間にシワが寄る。
なんか、その表情が公爵さまとすごくよく似てる。ホントに姉弟なんだわ、このお2人。目の色は全然違うんだけど。
「もう少し早く、口頭で伝えてもらうことはできないのかしら? もちろん、絵巻物に仕立てるというレシピも個別に購入するわ」
公爵さまの視線が、私に向いた。
「と、ご希望のようだがどうする、ゲルトルード嬢?」
えー私に投げるんですかあ?
私は思わず目をすがめちゃいそうになったけど我慢した。だって、レオさまもメルさまも期待いっぱいのまなざしで私を見てるんだもん。
ここはもう、にこやか~に言っておくべきよね?
「レオさまもメルさまも商会の顧問になってくださるのですから、もちろん先に口頭でお伝えいたします」
「ありがとう、ルーディちゃん!」
「嬉しいわ! すぐに我が家の料理人をこちらへ寄こしますね!」
レオさまもメルさまも、また私に抱きついてくれちゃいそうな勢いです。
一方、公爵さまは明らかに不服そう。なんですか、その眉間のシワとへの字口は。公爵さまには昨日、プリンのレシピだってあげたでしょ? 私がその場で書いた、箇条書きのレシピを。
なんかもう、面倒くさいなと思いつつ、私はフォローを入れちゃった。
「メルさまにはお料理の絵を描いていただくために、必然的にレシピはお伝えすることになりますしね」
「ええ、もちろんそうね」
メルさまがうなずいてくれる。「でも、実際に我が家でそのお料理を作っていいかは別でしょう? 料理人に伝えてもらえるということは、実際に作って食べてもいいということになりますものね」
なるほど、そういうものなのですか。
「もちろん、実際に作って召し上がっていただいて結構です」
私はにこやかにうなずいておいた。
「では、明日にでも我が家の料理人をこちらへ伺わせてもいいかしら?」
レオさまがノリノリです。もちろんメルさまも。
「そうね、もしよければ、我が家の料理人も。そうすれば、一度で済みますものね」
なんで皆さん、そんなに仕事が早いんでしょう。
私は、明日の予定ってどうなってたっけ、と思いつつ答えた。
「では、念のため我が家の料理人に確認を取らせていただきますね」
そんでもって、まだちょっとむくれてるっぽい公爵さまにも声をかける。
「公爵さまはどうなさいますか? もし、公爵家の料理人さんもご一緒していただけるのであれば、とても助かります」
「我が家の料理人も?」
公爵さまが眉を上げちゃった。
やだわ、この人、忘れてるのかしらね。
「もちろんです。公爵家から『新年の夜会』のご祝儀として、このサンドイッチもお届けになるのでしたら、早めにレシピはお伝えしておいたほうがよろしいかと思いますので」
「ああ、そうであったな」
公爵さま、嬉しそうなのが隠しきれてません。そしてなんだか、ちょっと勝ち誇ったように言い出しちゃったよ。
「では、『ぷりん』の作り方について、ご当家の料理人に質問させてほしいと我が家の料理人が言っているので、申し訳ないがそちらも頼めるだろうか?」
「あら、『ぷりん』って何かしら? ほかのお料理なの、ルーディちゃん? それに『新年の夜会』のご祝儀って?」
当然のごとくレオさまが食いついてこられました。
でもって、私が答える前に公爵さまはやっぱり勝ち誇ったように答えちゃってます。
「『ぷりん』もゲルトルード嬢が考案した新しいおやつです、レオ姉上。それはもう不思議な食感で、すばらしく美味しいおやつですよ」
「新しいおやつなの? 不思議な食感って? ルーディちゃん、わたくしたちにもその『ぷりん』とやらを、味わわせていただくことはできるかしら?」
公爵さま、お姉さまを煽らないでください。
さすがに今日はもう、マルゴもプリン作ってないよ。どうすんのよ、コレ?
私が頭を抱えそうになってるのに、公爵さまはさらに言っちゃうし。
「そもそも、ゲルトルード嬢が考案した『さんどいっち』はこれだけではありませんよ、レオ姉上。細長いパンを使った『さんどいっち』もありますし、具材をクリームと果実にしたものも大変美味です」
「ええっ、そんなにいろいろ種類があるの? どうしましょう、それらすべて、レシピの正式な販売前に購入させていただけるかしら?」
「さすがに種類が多いので、すべて口頭ではご当家の料理人の負担が大きいでしょう。レオ姉上はいくつか種類を絞られては? ああ、もちろん我が家は」
公爵さま、思いっきりどや顔で言っちゃった。「『新年の夜会』のご祝儀用に、すべてのレシピを伝えてもらう予定にしておりますが」
って、さっきまでソレ、忘れてなかったですか、公爵さま?
そんでもってアナタたちご姉弟、いいトシしてなんでそんなに仲がいいんですか?
弟公爵さまの煽りに、姉レオさまは完全に色めきたっちゃってます。
「すべてのレシピですって? その『新年の夜会』のご祝儀って……もしかして、この『さんどいっち』を『新年の夜会』の軽食に出すつもりなの? えっ、ちょっと待って、我が家からもご祝儀として出していいかしら?」
「レオ姉上のところには、いま在学しているお子はおられませんでしょう」
「何言ってるのヴォルフ、それこそ貴方だって」
「私はこの度、ゲルトルード嬢の後見人となりましたので」
公爵さま、最高にどや顔です。
だからなんで、そんなに楽しそうに張り合いまくっちゃってるんですか。仲良し姉弟にもほどがありますよ、もう。
「ではルーディちゃん、わたくしにはとりあえず、本日の『さんどいっち』とこのソースのレシピだけ、先に教えてもらえるかしら?」
メルさまが、何事もなかったかのように、さくっと笑顔で言い出されました。やんごとなきご姉弟の張り合いは完無視です。メルさまムテキ、いえステキすぎます。
「先ほども言いましたけれど、わたくしの息子は食が細くて……体も弱かったの。最近になってようやく丈夫になってくれたのだけれど、わたくしとしてはもっと食べてもらいたいの。このソースなら、きっとあの子も喜んで食べてくれると思うのよ」
「ええ、メル。このソースなら貴女のご子息も絶対気に入ってくれると思うわ」
お母さまも何事もなかったように会話しちゃいます。「我が家のアデルリーナも食が細いのだけれど、このソースを使ったお料理は本当によく食べてくれるの」
ね? と、お母さまに笑顔を向けられ、私は大きくうなずいてしまった。
「そうなのです、我が家のアデルリーナも、このソースを使ったお料理、特にお芋のサラダは本当にお気に入りで。苦手だった人参が入っていても、まったく気にせずにたくさん食べてくれるようになりました」
「まあ、それはよかったこと」
メルさまは嬉しそうに言い出してくれちゃった。「ねえリア、もしよければアデルリーナちゃんも、わたくしたちに紹介してくれないかしら? まだ魔力が発現していないといっても、わたくしたちとお話ししたりおやつを食べたりすることに、なんのさわりもないでしょう?」
「そうよ、お願いするわ、リア」
なんかレオさまも何事もなかったように言い出されました。「わたくしの娘も10歳なのよ。魔力の発現はまだなのだけれど、今度紹介するわ。貴女のアデルリーナちゃんが、わたくしのジオラディーネのお友だちになってくれたら、本当に嬉しいわ」
おおおお、レオさまのお嬢さま、アデルリーナと同い年ですか!
それはもうぜひぜひ、ご紹介くださいませ!
続きが全然書けてない(´;ω;`)
うう、がんばります……。