108.嵐のようなご挨拶
本日も2話投稿できそうです。
と、いうわけで、私たちは我が家へと向かっております。
私たちの乗った公爵家の紋章入り馬車の後ろには、エグムンドさんとヒューバルトさんとクラウスの乗った馬車も続いております。
ええもう、こうなることはわかってたわよ。全員、我が家のおやつが目的です。
いや、一応お題目は、商会用物件の改装について話し合うためなんだけどね。
まだ家具もろくに置いていない建物の中で、立ったまま公爵さまや私に長時間お話ししていただくわけにはいきませんので、とかなんとか丸め込まれて、結局我が家に向かっております。
マルゴ、今日もたくさんおやつが必要だわ。頼りにしてるわよ。
そんなこんなで戻ってきた我が家、なぜか門が開いてる。
なんだか嫌な予感がしたのは私だけじゃなかったようで、公爵さまも近侍さんもすぐに馬車の窓から顔を出して玄関のほうを確認してくれた。
そして窓から顔を戻した公爵さまは、思わず緊張を走らせてしまった私とナリッサの前で……あれ? なんで頭を抱えちゃったんですか、公爵さま?
公爵さまの横では、近侍アーティバルトさんもちょっと頭を抱えてるし、私はナリッサと顔を見合わせてしまった。
公爵さまは何も言ってくれず、わけが分からないまま、玄関前の車寄せに馬車が到着する。
そこには、すでに馬車が2台停まっていた。どちらも、紋章入りの立派な箱馬車だ。
いったい誰が我が家に来てるの?
本当にわけがわからずどきどきしながら、私は公爵さまに手を取ってもらって馬車から降りた。降りて、開いちゃってる玄関の扉に向かおうとして……お母さまの歓声が聞こえた。
か、歓声だよね? 悲鳴じゃないよね?
慌てて玄関の中へ駆け込んだ私が目にしたのは、お母さまが2人の女性と抱き合っている姿だった。
「リア! 貴女って本当にまったく変わってないのね!」
「何を言っているの、レオもメルもまったく変わってないわ!」
「ああもう、またこうしてわたくしたち、3人で会えるなんて!」
「本当に、どれほどこの日を待ちわびていたことか!」
「しかも、わたくしもリアも、ようやく解放されたのよ!」
3人で抱き合ってきゃあきゃあと大騒ぎしているお母さま。
はい、わかりました。
ついにご登場です、レオポルディーネお姉さまです。
しかも、侯爵家夫人にして凄腕絵師だというメルグレーテさまもご一緒のようです。
なんというか、びっくりと安堵で脱力しちゃった私の後ろから入ってきた公爵さまは、一瞬遠い目をしてから、わざとらしく咳ばらいなんかしてくれちゃった。
「あーレオ姉上、感動の再会おめでとうございます。せっかくですから、ご当家の客間に招いていただきませんか?」
そう言われてパッと振り向いたのがレオポルディーネさまで間違いなし。
「あらヴォルフ、貴方どうしてご当家に……って、ゲルトルードちゃんね! 貴女がリアの自慢のお嬢さん、ゲルトルードちゃんなのね!」
いきなり、大迫力の美女が私に抱きついてこられました。
いやもうマジで、ゴージャスでグラマラスでファビュラスなご夫人です。背が高くてボンキュッボン! なダイナマイトバディで、波打つ豊かな黒髪に真っ赤なドレスがめちゃくちゃ似合っておられます。
「ずるいわレオ! リア、わたくしにも貴女の自慢のお嬢さんを紹介してちょうだい!」
そう言いながら駆け寄ってこられた、こちらは小柄で童顔で、まるでビスクドールのような愛らしいご夫人が、メルグレーテさまのようです。
私、ただいま、まったくタイプの違う美女お2人にもみくちゃにされております。
「待って待って、レオもメルも! ルーディがつぶれてしまうわ!」
お母さまがなんだか泣き笑いのように言いながら、私と妙齢の美女お2人の間に割ってはいってくれた。
「お帰りなさい、ルーディ」
私を抱きしめてくれたお母さまが本当に嬉しそうに言う。「わたくしのお友だちを紹介させてちょうだい。こちらがガルシュタット公爵家夫人のレオポルディーネさま、そしてこちらがホーフェンベルツ侯爵家夫人のメルグレーテさまよ」
「わたくしのことは、レオと呼んでちょうだい!」
「わたくしのことも、メルで!」
2人そろってまた私を抱きしめようとしてくれちゃう。
「だからわたくしたちにも、貴女のことはルーディと呼ばせてちょうだいね!」
「も、もちろんでございます」
私はやっと声を出すことができた。
いやもう、なんなんでしょう、この嵐のようなご挨拶は。
公爵家夫人と侯爵家夫人を前に、はじめましてもナニもあったもんじゃないんですけど。なんというか、公爵さまがちょっと遠い目をしてらっしゃる、その気持ちがわかった気がしちゃうわ……。
その公爵さまは、軽く頭を抱えたまま視線をそっと外してらっしゃいます。近侍アーティバルトさんはいつも通りうさん臭い笑顔だけど。
それに、ナリッサが笑顔を貼り付けたまま固まっちゃってる。そのナリッサの両サイドに見たことのない侍女がいて、ナリッサの脇を左右からがっちり押さえてるんですけど?
そうか、コレはアレだ、さっきレオポルディーネさまが私に抱きついてこられたとき、とっさにナリッサが飛び出そうとして押さえられたに違いない。ナリッサを押さえてるのは、おそらくレオポルディーネさまとメルグレーテさまの侍女さんね。ううむ、このナリッサを押さえられるとは、なんとも恐るべし。
そして、玄関の向こうではエグムンドさんとヒューバルトさんが、特に動揺したようすもなく気配を消すようにして立ってる。
でも、クラウスの顔はちょっとひきつってるね?
わかるよクラウス、私も中身は小市民だから、こんな迫力満点美女、しかも最上位貴族家夫人にいきなり迫られちゃったら、どう反応していいかわかんないよ。私、別に落ち着いてたワケでもなんでもなくて、あまりのことに完全にフリーズしてただけだからね。
いやーさんざんウワサは聞いてたけど、さすがです、レオポルディーネお姉さま。
それに、プリティ系美女メルグレーテさまもおそらく一癖ありそうです。
とりあえず、私は気を取り直して言った。
「お母さま、せっかくですから、レオポルディーネさまと」「レオ、よ。ルーディちゃん?」
速攻でレオさまからチェック入りました。
「はい、あの、レオさまと、メルさま、に、お茶を召し上がっていただきませんか?」
「ええ、そうね!」
お母さまは嬉しそうに手を打っちゃう。「レオ、メル、我が家のおやつは本当に美味しいの! ぜひ貴女たちにも味わっていただきたいわ」
えっと、公爵さまに近侍さんにエグムンドさんにヒューバルトさんにクラウスに、さらにレオさまとメルさまね。お2人の侍女さんたちはどうしよう? 近侍アーティバルトさんは当然席についておやつ食べるもんね? そうすると合計何人になっちゃう?
私はささっとその場に視線を走らせ、人数を確認する。
そして玄関ホールの隅にひそやかに立っていたヨーゼフに視線を送ると、ヨーゼフは確信をもってうなずいてくれた。
ええもう、我が家の優秀な使用人に任せるわ! みんな、マジでお手当、はずむからね!
ウワサのあの人が、ついに登場しましたw