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11.新居をゲット

評価ありがとうございます!

「これは、なかなかの掘り出しものだと思いますな」

 ゲンダッツさんは感心したように言ってくれた。

 購入予定のタウンハウスを実際に確認したいということで、私とお母さまに同行して内覧に来てくれたんだ。

「契約書も問題ございません。この内容でご契約されることをお勧めいたします」


 このタウンハウスは、もともととある地方男爵家が社交シーズンである冬の間、王都で過ごすために用意したものだったらしい。けれどその男爵家は事情があって爵位を返上したため、このタウンハウスも売りに出されていたんだ。


 だから小さいとはいえ貴族家の邸宅、それも爵位持ち貴族家の邸宅としての格式が整っている。場所は貴族街のはずれのほうなのだけど、私たちにはそのほうが静かに暮らせそうで都合がいい。

 その上、建物自体も比較的新しいからリフォームの必要がなく、家具やカーテン、一通りの什器なども備え付けになっていることが正直にありがたかった。


 お母さまは、その場で契約書にサインした。

 支払いのための手形は、ケーニッヒ銀行が発行してくれる手はずになっている。

 それらの手続きはゲンダッツさんではなく、ゲンダッツさんの跡継ぎさんが行ってくれることになった。


 ゲンダッツさんは弁護士業を引退し、いまはマールロウ男爵領で娘さんご一家と悠々自適の老後を送っている。唯一残っている仕事が、前マールロウ男爵から委託されているお母さまの信託金の管理だけという状況だ。

 ゲンダッツさんの弁護士業については、もともと彼が事務所で雇っていた若い弁護士を養子にして跡を継いでもらったのだそうだ。

 私たちはこれを機会に、その養子である若いほうのゲンダッツさんに顧問弁護士になってもらえるよう、お願いした。


「名門クルゼライヒ伯爵家の御用を仰せつかれるとは、まことに光栄でございます」

 若いといってもたぶんもう三十代半ばかと思われる、いかにも生真面目そうな若いほうのゲンダッツさんはそう言って引き受けてくれた。

 いやー我が家はもう没落確定なんで、なんか申し訳ないんですけど。


 それでも、若いほうのゲンダッツさんはこの王都に事務所を構えているし、それにクラウスがこっそり教えてくれたところによるとなかなか評判のいい弁護士さんだということだし、さらにはお母さまの実家である男爵家の元顧問弁護士の後継弁護士なんだから条件的にもまったく問題がない。

 申し訳ないながらも、こちらこそよろしくお願いします、という感じだったりする。


 ちなみに、若いほうのゲンダッツさんは、マールロウ男爵家の顧問はしていないそうだ。やはり、代替わりしたときに関係が切れてしまったらしい。

 だから今回、おじいちゃんのほうのゲンダッツさんがいきなり王都にやってきて、お母さまの信託金の話をされたときは本当にびっくりしたということだった。



 はあ、でも本当によかった。

 帰路の馬車の中で、私はしみじみと息を吐いてしまった。

「お母さま、これでもう明日にもお引越しできますね」

「ええ、本当に」

 四人乗り箱馬車の中には、私とお母さまのほか、ナリッサとクラウスも乗り込んでいる。おじいちゃんと若いほうのゲンダッツさんズは別の馬車だ。


 となりに座っているお母さまが私の顔を覗き込み、そして膝においていた私の手をそっと取った。

「ルーディ、本当にありがとう」

「お母さま?」

「貴女がこんな不甲斐ない母親であるわたくしの娘でいてくれて、本当に感謝しているのよ」

「お母さま!」

 思わず馬車のシートから体を浮かしてしまった私に、お母さまはほほ笑みを浮かべてる。

「これからは、わたくしも頑張らなければ。こうして母娘3人、寄り添って暮らしていけるようになったのですものね」


 感、無量である。


 私も、本当にあんなゲス野郎が父親だなんてどうしようと思ったことはもう数えきれないほどあるんだけど、お母さまが私のお母さまであることには、ずっと感謝してきた。


 お母さまにとっては決して望んだ結婚ではなかっただろうし、子どもだって決して望んでいなかっただろう。それなのに、お母さまはあのゲス野郎になんと言われようと、頑として私を乳母の手には渡さなかった。本当に自らの手で私を育ててくれたんだ。


 そりゃあね、ゲス野郎にしてみれば娘なんて息子と違って自分の跡継ぎにはならないし、おまけに見た目もお母さまとは程遠い地味子だったし、どうでもいいと思ってたところはあると思うよ。それにあのドケチは、乳母を雇うより安上がりだ、くらいは思ってたかもしれない。


 でもお母さまは、娘であれば跡継ぎの息子と違って自分の手から取り上げられることはないからと、娘の私が生まれたことが本当に嬉しかったって、絶対自分の手で大事に大事にかわいがって育てるって決めたんだって、ずっと言ってくれているの。


 私、愛されてるんだなあ、って……本当に、それを日々実感できるっていうだけでもう、この世界に転生してきてよかったって、心から思ってる。

 私、妹愛も半端ないけど、お母さま愛も半端ないからね!



 お母さまはそれから、私たちの前に座っているナリッサとクラウスに顔を向けた。

「ナリッサ、それにクラウス、あなたたちにも本当に感謝しています」

「もったいないお言葉にございます、奥さま」

 すぐにナリッサが答え、クラウスも一緒に頭を下げた。

 それからお母さまは少しためらうように片手を自分の口元に当てたんだけど、でもナリッサに向き合って言ったんだ。

「ナリッサ、これからはもう、邸内で貴女の身に危害が及ぶおそれはなくなりました」

 ハッとナリッサの目が見開く。


 驚いたのは私も同じだった。

 お母さま、やっぱり気が付いていらしたんだ。ナリッサが、あのゲス野郎に狙われてたってことに。

 いや、そりゃそうだわ、お母さまの固有魔力を考えれば、あのバカでかい邸内といえども隠し事なんかできるわけがない。


 そう、下働きとして我が家にやってきたナリッサを私が自分の侍女にしたのは、あのゲス野郎から守るためだった。私の侍女になれば、私の寝室の続きにある侍女のための控室で寝起きができるから。

 さすがにあのゲス野郎でも、娘の寝室にまでは踏み込んでこなかった。


 ナリッサのほかにも私が知る限り2人、あのゲス野郎に目をつけられていて、私はなんとかその身を守ろうとしたんだけど、2人とも怖がって我が家を辞めてしまった。

 そりゃそうだよね、令嬢だとはいえ私はまだほんの子どもだったし、彼女たちは当主であるゲス野郎の命令には逆らえない。

 だから、ナリッサが私の侍女として残ってくれたことに、私は本当に感謝している。


 その思いは、どうやらお母さまも同じだったみたい。

「どうかこれからもずっと、ルーディを助けてあげてちょうだ」「もちろんでございます、奥さま」

 お母さまの言葉にナリッサはがっつり食い気味に答えてくれた。

「私は生涯、ゲルトルードお嬢さまにお仕えする所存です」


 お、おう、ナリッサ、これからもよろしくね。


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