100.今日もずっしり長かった
本日3話目の更新です。
「ゲルトルード嬢、きみはとりあえず、いくつくらいレシピが書けそうだ?」
公爵さまに問われて、私は指を折ってしまった。
えーと、サンドイッチはマヨネーズなしとマヨネーズありの2種類にする? それにフルーツサンドは別にして……ホットドッグってレシピの需要あるのかな?
「公爵さま、ホットドッグ……ええと、細長いパンのサンドイッチはどうしましょう? 個別にレシピは書くべきでしょうか?」
「うむ、あったほうがよいと思う」
公爵さまがうなずいたので、ホットドッグもカウントする。いや、ホットドッグなんて本当に、パンに切込み入れてソーセージ挟むだけなんだけどねえ。
あとは、プリンとメレンゲクッキーでしょ? あ、思い付きでマルゴに頼んだアレも入れてもいいかも。それから、試作さえ間に合えば唐揚げ……塩唐揚げかフライドチキンになりそうだけど、それに天ぷら、コロッケ、フライドポテトにポテチあたり? なんか、おイモばっかだな。あ、ドーナッツとかいいかも。
「とりあえず、10種類くらいならすぐ書けると思います」
私がそう答えると、公爵さまが眉を上げた。
「すぐにそれほど書けそうなのか?」
「はい。おやつや軽食など、種類もいろいろありますので」
公爵さまはエグムンドさんが視線を交わし、うなずきあう。
「それでは、とりあえず書けるレシピから書き出してくれるか。ただ、挿絵についてはメルグレーテどのが王都に到着されてからの話になるのだし、それほど急ぐ必要はない」
「わかりました」
私がうなずくと、エグムンドさんが言ってくれた。
「ゲルトルードお嬢さま、実際にレシピの販売を始めるのは、おそらく年明けになると思います。『新年の夜会』にて『さんどいっち』など、ゲルトルードお嬢さまが考案されたお料理をご披露し、その後レシピの販売を始めるという流れにすべきだと思いますので」
公爵さまも言い出した。
「そうだな、今月で学院の自由登校期間が終わるのだし、きみは学業を優先させなさい。レシピは、時間があるときに書き溜めてくれればよい」
「もしよろしければ、『新年の夜会』でご披露されるお料理のレシピを、優先的に書いていただければと存じます」
「なるほど。確かにそのほうがよさそうだな」
2人の話に、私はうなずく。
「わかりました。そのようにいたします」
でもって、確認である。
「『新年の夜会』では、どのような形でお食事が供されるのでしょうか? その形式にあわせたメニューを考えたいと思いますので」
「ホールとは別に休憩室が用意され、そこで食事が供される」
公爵さまが答えてくれた。「椅子は用意されるが、着席して食べるような食事ではない。基本的に立食だな。各々、好きな料理を皿にとって食べる。軽くつまめるような料理が好まれるので、さっと手でつかんで食べられる『さんどいっち』は最適だろう」
あ、じゃあやっぱ、立食パーティをイメージすればよさそうだね。
うーん、でもそうすると、唐揚げとフライドポテトくらいは出したいなあ。学生メインの夜会なんだし、男子にはめちゃくちゃ受けると思うのよね。女子向けにはプリンと、ほかにも何かおやつを考えるかな? あ、メレンゲクッキーをボンボニエールみたいな容器に入れて出してもいいかも。プリンやマヨネーズを作ればどうせ卵白が余るんだし。
そんでもって、やっぱり確認である。
「では、軽食用のハムや卵を使ったサンドイッチと、おやつとして食べられる果実とクリームのサンドイッチの2種類は確実に出すということで、よろしいでしょうか?」
「そうだな。それにあの細長い『さんどいっち』も出すべきだろう。軍で採用した料理だといえば、興味を持つ者も多いはずだ」
公爵さまに続いてエグムンドさんも言ってくれる。
「それに、この『ぷりん』も、可能であれば出していただければと存じます」
うん、エグムンドさん、ホントにプリンが気に入っちゃったのね。
「わかりました。では、そのほかにもお出しできそうなメニューがあれば、試作してみてご報告します」
「ほかにも出せそうなメニューがあるのか?」
私の言葉に、公爵さまが即反応してくれちゃった。
「はい。ほかに2、3点考えています。ただ、まだ思い付きの段階ですので、試作してみないことにはなんとも申し上げられないのですが」
「ふむ、試作はすぐにできそうなのか?」
公爵さま、試作品を食べにくる気、満々ですね?
厨房にまで乗り込んでこられちゃうことを思えば、ちゃんと客間にご招待して食べてもらうほうがずっとマシだとは思うけどね。
うん、とりあえず、笑顔で言っとくわ。
「そうですね、わたくしもできるだけ早く試作してみたいのですけれど、引越し作業もまだ途中ですし、まずは身の回りを落ち着かせてからと考えております」
私だって早く唐揚げ食べたいんだよ!
笑顔の私に、公爵さまはうなずいた。
「そうであったな。では、引越しを急ぐ必要があるな」
って、さっき『急ぐ必要はない』とかおっしゃってませんでしたかね? そんなに試食したいんですか、そうですか。
「それでは、ご当家の新居の確認にこれか」「まだ灯の魔石すら整えておりませんし、日中の明るいうちでなければ、ご確認いただくのは難しいと思います」
この流れは経験済みだからね、これからすぐ行こうって言われても困るの! 私はもう今日はクタクタなんだから!
笑顔でぶった切った私に、案の定公爵さまは言った。
「では、明日の午前中に確認に行こう。ゲルトルード嬢、きみも同行できるな?」
「かしこまりました」
できるもナニも、行くしかないでしょーが。
しかも明日の午前中だよ、大急ぎだよ、そんなに試食したいですか、そうですか。ええもう、がっつり唐揚げ食べさせて差し上げますわよ、美味しさに驚くがいいわ!
「閣下、明日はもし可能であれば、ゲルトルードお嬢さまとご一緒に商会用の物件の確認もお願いできますでしょうか」
エグムンドさんが言い出した。
公爵さまは鷹揚にうなずいてる。
「そうだな、そちらもすぐに確認したほうがいいだろう」
「では明日、よろしくお願いいたします」
「うむ、ではまた明日に」
そんなこんなで、今日のめちゃくちゃ濃くて長い長いお話し合いが、ようやくお開きになりました。
って、明日もまた、とっても長くなりそうなんだけどね。はぁ……。