95.いろんな意味ですごいのが来た
本日2話目の更新です。
いや、おかしいよね?
商会の設立が決定しましたら、って……それで、会ってほしいと言われたとたんに我が家に到着するって……なんかめちゃくちゃおかしいよね?
なんかもう頭がぜんぜん回らないんだけど、とにかくおかしいってことだけはわかるよね?
そこに、ヨーゼフが戻ってきた。玄関へお客さまをお迎えに出ていたヨーゼフが。
「お客さまをご案内してまいりました」
そう告げたヨーゼフの後ろから、すっと現れた人の顔を見て、私はぽかーんと口を開けちゃった。
ホントに、ホントにぽかーんと私は口を開けちゃって、そこから動き出せるまで2秒くらいかかったと思う。
そんでもって、動き出せたとたん、私は公爵さまの横を見た。
居るよね? 近侍さん、居るよね?
じゃあ、いまヨーゼフに案内されて客間に入ってきた、この人は誰?
もはや見慣れちゃった感があるあのうさんくさい笑顔……に、そっくりな笑顔を浮かべたその人が、私とお母さまの前に膝を突いた。
「クルゼライヒ伯爵家未亡人コーデリアさま、ならびにご令嬢ゲルトルードさま、お目通りをお許しいただきまして感謝いたします。ヒューバルト・フォイズナーと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」
口上が述べられたとたん、すっと近侍さんが立ち上がった。
そして近侍さんは、その人と並んで私たちの前に膝を突いた。
「今更ながらではございますが、私も自己紹介させていただきます。私はゼルスターク子爵家次男アーティバルト・フォイズナーと申します。そして本日お目通り願いましたこの者は」
近侍さんはやや苦笑を浮かべて言った。「すでにおわかりだとは思いますが、私の弟にございます」
おわかりだとは思いますが、って……そっくり! マジでそっくり! なんでこの超イケメンが2人も存在してるの? ホンットに、マジで、冗談抜きで、そっくりさんなんですけど!
あの、ホントにもしかして、双子さん?
そう思ったのは、間違いなく私だけじゃないはず。
たぶん問われ慣れているんだろう、近侍さんことアーティバルトさんがまたちょっと苦笑気味に言ってくれた。
「双子ではございません。私が1つ上の年子でございます」
年子って……いや、ホンットにそっくりなんですけど。確かに髪型はちょっと違うけど、その髪の色や目の色はもちろん、顔立ちから体つきまで、瓜二つってこういうのを言うのねって感じで。おまけに、声まで似てるよね?
2人が顔をあげて、そのイケメン顔が並んだ状態で見ると、ヒューバルトさんのほうにだけ右目の下に小さな泣き黒子があった。でもホンットに、違いってそれくらい……って、いや、とんでもない違いがあるわ。
そうなのよ、このヒューバルトさんが客間に入ってきたとたん、キョーレツなアレを感じてしまった。
いやもう、アレとかそういうあいまいな表現はしないほうがいいと思う。
だって、ホントに、ホンットーーーに、なんなのこの人? フェロモンがダダ洩れなんですけど!
マジで、冗談抜きで、このヒューバルトさんが傍に来ただけで、女子は片っ端から酔いそうなレベルよ?
部屋の隅に控えてるシエラなんかもう、真っ赤な顔になっちゃってふらふらしてて、ヨーゼフがさりげなく支えてあげちゃってるくらい。いや、ナリッサは平常運転っていうかいつもの怖い笑顔でにらみつけて威嚇し、げふんげふん、私の後ろにべったり貼りついてヒューバルトさんに笑顔を向けてるんだけど。
それになんなら、ベルタ母までものすごく戸惑ったようすで、自分の頬をさかんに撫でてる。
でも、さすがにお母さまは……って、お母さま!
な、なんなんですか、そのキラキラの瞳は!
ちょっと本気で私はうろたえてしまった。だって、だってお母さまのようすがおかしい! なんかもう、お母さまってばすっごく嬉しそうに頬をうっすら染めちゃって、両手で口もとを押さえながらホントにキラキラの目でヒューバルトさんを……いや、ヒューバルトさんとアーティバルトさん、両方を見てる?
え? え? なんで、あの、お母さま、いままでアーティバルトさんに何の興味も示してなかったですよね? ものすっごい、ふつうの態度でしたよね? なんで? イケメン倍増になっちゃったから?
混乱しまくってる私の前で、アーティバルトさんが小声で弟のヒューバルトさんをたしなめた。
「ヒュー、今日は仕事の話をさせてもらうのだろう?」
「ええ、そのつもりです、アーティ兄上」
にっこりとうさんくさい笑顔を浮かべてヒューバルトさんが答えたとたん、何かがきゅっと締まった感じがした。
いや、ホントにきゅっと締まったのよ。
締まったっていうか、閉まった?
ええ、閉まったのよ、本当に! ヒューバルトさんの、ダダ洩れフェロモンの栓が!
だって、シエラは夢から覚めたような顔をしてきょろきょろしちゃってるし、ベルタ母は大きな息を吐いて自分の胸元を押さえてる。
お母さま、は……なんかいっそう、キラキラ状態なのはナゼ?
いや、だけど、ホントになんなの、この人?
えっと、固有魔力で『魅了』っていうのがあるって本で読んだことがあるんだけど、もしかしてソレ? 近づいてきた人を片っ端から自分のとりこにして、思い通りに人を操っちゃうとかって恐ろしい固有魔力らしいけど、それの対象者限定版?
なんか……なんか、このヒューバルトさんの登場で、いろいろ吹っ飛んじゃったんですけど……ホンットにインパクトあり過ぎ。
「よろしいでしょうか、ゲルトルードお嬢さま?」
エグムンドさんが声をかけてきた。「このヒューバルトどのは、これまでもさまざまな産物や情報を商業ギルドにもたらしてくれた、非常に優秀なかたです」
って、あれ?
「あの、魔法省にお勤めの弟さんでは……?」
「ああ、それは下の弟です」
近侍アーティバルトさんが答えてくれた。「ヒューバルトは上の弟になります。我が家は、男ばかりの4人兄弟なのです」
もう1人、弟さんがいるのか。
うーん、この2人がこれだけそっくりなイケメンさんだってことは、その魔法省にお勤めの弟さんはどんなルックスなんだか。それに、アーティバルトさんの上にお兄さんが1人いるってことだよね? こんなイケメンが4人も家の中にいたら、ある意味うっとおしいかも……。
などと、結構失礼なことを私が考えてると、アーティバルトさんがさらに説明してくれた。
「このヒューバルトはどうも放浪癖があるのか、とにかく腰が据わらず、国内外をふらふら歩き回っておりまして」
「ヒューバルトどのは、さまざまな地方を訪れては多くの知識や情報を集めてこられ、非常に博識でいらっしゃいます」
エグムンドさんがさらりとフォローする。「しかも、ご自分がお持ちの情報や知識を有効に活用することをよくご存じです。たとえば、我が国でも南方の温暖な地方でしか栽培できない葡萄柚を、この王都でも新鮮な状態で味わえるようになったのは、ヒューバルトどのが販路を確立してくださったおかげです」
マジですか?
なんかちょっと、私のヒューバルトさんを見る目が変わっちゃう。
だって葡萄柚ことグレープフルーツは、フルーツサンドにぴったりなんだもん。
私の前で膝を突いたままのヒューバルトさんは、イケメン圧力最大の笑顔で言ってくれた。
「私は、私が得てきた知識や情報をもっとも有意義に役立てることができる場を、ずっと探し求めてまいりました。ゲルトルードお嬢さまの類まれなる発想力に添わせていただくことができますれば、必ずやお役に立てると自負しております」
そして実にさり気なく、ヒューバルトさんは私の手を取った。
「ベゼルバッハ氏よりゲルトルードお嬢さまの商会設立の可能性をうかがい、ぜひ私もその末席に加えていただきたく、こうしてはせ参じた次第でございます」
うん、アナタ、お兄さんよりさらにうさんくさいね。
ついに登場、近侍さんチの弟その1さんw
しかし今週はほとんど書き溜めることができず、今週末はあまり更新できないかもしれません。とりあえず、北京オリンピックを横目で見ながら書けるだけ書いて更新していきますので、どうぞよろしくお願いします。