仙崎さんとG'sと喧嘩と…
「ハァ…ハァ…」全力で走る自分。
「バーカ、バーカ。あははは!」一緒に走りながら楽しそうに後ろを馬鹿にする女の子
そして
「待てーゴラー!!」「ぶっ殺してやる!」「待だんがい!グゾガギ共ー!!!」自分達を追いかける怒り狂った男の人達が数人。
「ハァ…ハァ… 仙崎さん!。どうするの、これ?」
「えっ?。……とにかく逃げる。」
「…どこへ?」
「知らなーい。」
「……」
どうしてこうなったのだろう?
なんで自分は男共に追いかけられてるのだろう?
なぜこんなにも必死に走ってるのだろう?
「なぜ…なんで…どうしてこうなったー!!!?」
「あははは!」
4月4日(月)
自分の名前は屋内織。
中学2年の春に引っ越して転校し今日から新しい学校"菫ノ中学校"に通うことになった。
そして今日は初の登校日。
前の家はド田舎で山と川しか近所になかった。
それが新しい家はすぐ近くになんでもかんでもお店がある。
環境が全然違いすぎる。
全く知らない土地で全く知らない人達と一緒に学校生活。
『友達できるだろか?』『よそ者扱いとかされないだろうか?』
不安がよぎる。
新天地にて心機一転。
自分が全く知らないように自分の周りも自分のことを全く知らない。
過去の事を気にせず新しいことをやれる。
期待も高まる。
そんな不安と期待で心臓をバクバクさせながら登校。
校門が見えてきた。
もうすぐ学校につく。
少し緊張していた。
脈拍が速く、呼吸も乱れてる。
『落ち着こう』そう思い立ち止まり深呼吸をする。
…落ち着いた。
「さてと…」
いざ学校へ。
菫ノ中学校へつき、先生に促されるまま教室へ。
2-4。(2年4組)
「えー…今日からこの学校へ転入してきた屋内織君だ。他県から来たので、えー…何かとわからないことが多いと思うので皆色々と教えてあげるように。あとは……まあ、なんだ…自分でしなさい…」
雑に、軽く紹介をされた。
なんとなく、頼りがいの無い先生だなという印象。
先生にふられたため自己紹介をする。
「屋内織です。○○県から来ました。前の学校では陸上部に入っていたのでこの学校でも陸上部に入ろうかなと思っています。わからないことだらけの自分ですがどうかよろしくお願いします。」
…。
誰も何も言わない。
そしてクラス中の皆さんがメッチャ見てくる。
見てくるだけならまだしも一部の人は見てるじゃなくて睨んでるに近い…。
やりにくい…。
自己紹介を終えて席へ。
隣の席の女の子にも睨まれる。
俗に言う"ガンをとばす"ってやつ?
しかも隣の席の女の子は化粧をしてピアスして制服なんか変だし荷物のいたるところに落書きとかしてあるし…。
不良女子ってやつかー。
しょっぱなから隣にこういう子かー。
…早く帰りたい。
休み時間になった。
「ねえ!」
隣の席の女の子がいきなり声をかけてきた。
「あっ、は、はい…」
あまりにも突然だったため少し戸惑い反応がおかしくなる。
「アハハ、なにその反応。変なの。 …まっいいか。いきなりだけと自己紹介させてもらうね。私は仙崎怜子。よろしくね。えーと…屋内おりクンだっけ?」
「う、うん。屋内織。よろしく、仙崎さん。」
思った以上にいい人だった。
ていうかとってもいい人だった。
見た目は物凄いことになってて近寄りがたい感じだけど内面はとってもいい人だった。
…人は見かけによらないんだなと改めて実感した。
放課後。
帰ろうと教室を出ようとしたらクラスの不良っぽい男子数人に絡まれる。
「おいお前、転校生。ちょっと付き合えよ。」
「親睦を深めようぜ。なんか奢ってくれたりしてくれたら俺たち仲良くなれると思うぜ~?」
「仲良くしたいだろ?。仲良くした方がいいと思うぞ?」
あーこれは、これは…。
とっても、とーっても面倒臭いやつだ。
答えによって今後の中学校生活が変わるやつだ。
「えーと…」
考えろ、考えろ自分。
①不良達の誘いを素直に応じる。
きっとパシリにされ続ける。
こういう奴らは1度調子に乗るとずっと乗り続ける。
②不良達の誘いを断る。
上手い理由が思いつかなければ目をつけられる。
引っ越しの荷解きをしなくちゃいけないとかって言ったら納得してく
れるかな?
③逃げる。
足には自信がある。
逃げ切れるには逃げ切れるだろうが問題を先延ばしにしただけで、む
しろ明日から余計に大変になる。
④実…
「私が先約なんだけど、横取りは止めてくれる?」
後ろから声がする。
振り替えるとそこには仙崎さんがいた。
「わーたーしーが、屋内クンの先約なの!。だからあんたらはどっか行って。」
口調を強めて再び言う。
「チッ…仙崎か…」
「イカれ野郎め…」
引き下がりはしないものの仙崎さんを警戒している様子。
「行こ?、屋内クン。」
半ば強引に手を引かれ不良達を押し退けていく。
とりあえず校外まで出た。
「あー全く面倒臭い奴ら…。大丈夫?。ここの学校…ていうかここらの地域はああいう奴らが多いから気をつけてね?」
言い方と表情から察するにああいう人達への対応に馴れている感じがする。
女の子なのに凄いなこの人…。
「あ、あの、仙崎さん?」
「ん?、なに?」
「ありがと…助けてくれて。」
「…?。別にいいよ。大したことしたわけでもないし。」
笑いながら答える彼女。
本当になんにも思ってなさそう。
…でも一つ疑問が。
「なんで自分なんかを助けたの?。今日はじめて会ったばっかりの自分なんかを?」
「んー…気分?」
「気…分?」
「隣の席のよしみ?」
「隣の席…?」
「あー…わかんないや。ていうか別に理由なんていらなくない?まあ、強いて言えば私はあいつらが嫌いで邪魔したかったからかな?。だから求められてもいないのに、頼まれてもいないのに助けた。私がしたかったから。私は私がしたいようにするの。ただそれだけ。」
自分のしたいことをする。
"自由"
そんな意味を持つ言葉。
仙崎さんがとてもかっこよく見えた。
…だけどなぜだろ?
なぜ彼女の口から出た"自分のしたいことをする"はこんなにも重く寂しげに感じるのだろうか?
「あの、仙崎さん…」
「レーイー。」
向こうの方に仙崎さんの名前を呼び手を振る女子がいた。
うちの学校の生徒ぽい。
クラスメイトでは無さそう。
「あっ、そうだった…。人待たしてたんだった。ごめんね、屋内クン。私もう行くね。じゃあね、また明日。」
「うん。また明日。」
走り去っていく彼女。
自分も帰ろうか。
また明日も学校だし。
4月11日(月)
転校してから一週間が経った。
一週間でいくつか分かったことがある。
まず一つ目はとにかく不良生徒が多い。
完全に不良の奴らから不良ぽい奴ら、不良ぶってる奴らがとにかく多い。
"ぽい"とか"ぶってる"奴らを含めれば生徒の半分以上が不良になる。
次に二つ目は先生が大人としてほとんど機能していない。
授業はやる(誰も聞いていなくても)がそれ以上は特に何もしていない。
学校の規則(時間行動、服装、生活態度)が全く守られていないことに関して基本無視。
自分に被害がでなきゃ勝手にしてくれって感じ。
そして三つ目。
仙崎さんはとってもいい人。
転校してから一週間。
ずっとなにかと気にかけてくれた。
隣の席ってこともあり話す機会も多い。
色々なことも教えてくれた。
転校してはじめて声をかけてくれたのが彼女で本当に良かったと思っている。
とりあえずそんな感じ。
…さてと、そろそろ学校へ行きますか。
学校。
一時限目後半。
「おはよう!今日も早いね!」
挨拶をしてきてくれたのは仙崎さん。
「おはよう。」
授業中なので一応少し小さい声で挨拶を返す。
「真面目だねー。屋内クンぐらいだよ?授業受けてるの。」
「まあ、一応ね…」
なんとも言えないこの状況。
クラスの半分ほどは空席に。
空席の全員が全員、学校にも来ていないわけではないのできっとどっかで遊んでいる人もいる。
座っている人達も各々好き勝手にやっている。
寝ている人やゲームをしている人、本・漫画を呼んでいる人、おしゃべりしている人、塾の宿題をやっている人、なにをやっているかわからない人。
『…これはクラス崩壊では?』
と疑問がでるがきっと考えてはいけないことなのだと思い考えないようにしている。
座っているだけで真面目。
ノートをとっていれば優等生。
テストで点さえ取れれば問題ない。
…なんともおかしい学校…。
仙崎さんも来て数分はノートをとっていたがすぐに飽きたらしく携帯小説を読み始めた。
一応授業を受けている自分を気にしてか授業中は基本静かに過ごしてくれている。
まあ、周りがうるさすぎてロクに先生の声など聞こえやしないのだけど。
休み時間。
「屋内クンって今日の放課後なにか予定ってある?」
「いや…特に無いよ。部活も休みだし。」
「じゃあ、放課後ちょっといい?。紹介したい子達がいるの。」
「いいけど…紹介ってどんな人達?」
「なーいしょー。放課後のお楽しみです。」
怪しく“フフッ”と笑いどこかへ行ってしまった。
その後給食の時間まで仙崎さんは帰ってこなかった…。
放課後。
仙崎さんに連れられて学校の近くの小さな公園へ。
「ちょっと待ってて。紹介したい子達を連れてくるから。」
仙崎さんが公園から出てすぐに後ろからの気配を感じる。
『…?。誰だろ?。仙崎さんが紹介したい人達のうちの一人かな?。じゃなかったら嫌だな。変な不良とかだったらどうしよう。仙崎さん早く戻ってこないかな?』
そんなことを考えていたら、“ガサガサ”と後ろの茂みが揺れる。
人が飛び出してきていきなり自分に蹴りをいれてくる。
右方向からの中段蹴り。
咄嗟に右腕でガードする。
“ドッ”
なんとかガードはできた。
けどかなり痛い。
小さい頃に木から落ちて骨折したって騒いだときぐらい。(実際はヒビすらはいってなかった)
『いや…あの時の方が痛かったか…』
警戒しつつ後ろを向く。
…女?。しかもうちの中学の制服?
女は再び蹴りの態勢にはいる。
「ちょっ…」
話を聞いてくれそうも無い。
逃げたいが仙崎さんに待っててと言われたのでなんか逃げにくい…。
繰り出される左方向からの中段蹴り。
"ビュッ"
空を切る脚。
なんとかギリギリで避ける。
速くて間合いが広い…。
脚がとても長い。
外国人モデルみたい。
「…避けんなよ…」
自分を睨みながら言う。
『…なにこの人、怖いんだけど…。てか誰?。…あっ、また蹴ろうとしてる…。もう帰りたい…』
三度蹴りの態勢にはいる女。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ったー!!」
声をあげながら二人の間に入ってくる仙崎さん。
仙崎さんの姿を見て助かったと安堵する自分。
そして
「チッ…」
舌打ちをする女。
「なんでそうやってすぐに人を蹴ろうとするかな?。せっかく屋内クンに紹介しようとしたのにこれじゃあ初対面最悪だよ…」
「なんでってそりゃ、コイツがワタシ達を紹介されるに相応しいか否かを判断するためだよ。いくらレイが気に入ったやつだからって関係ない。そこの所はしっかりとしないといけないんだよ。」
「なんで蹴って判断するの?、全く…。屋内クン大丈夫?。ごめんね。」
「あー…まあ大丈夫だよ。(本当は右腕めちゃくちゃ痛いんだけど…)…で、その人が紹介したいって人?」
「うん。あとこの3人も。」
いつの間にいた3人の女の子。
全員うちの学校の制服を着ている。
「じゃあ紹介させてもらうね。まずはこの蹴りバカの子。田辺真保香。荒っぽくてなんでもかんでもすぐに蹴るけど本当はいい子だからいきなり蹴ろうとしたことは許してあげてね。学年は私達と一緒の2年でクラスは1組だよ。」
田辺真保香。身長が自分よりも高い。175㎝以上かな?。とにかく脚が長い人。ショートカットの髪で少しきつめ(睨んできているからかな?)の顔をしている。
「で、あとが…」
「わたしは~倉原歌乃~。2-3~。よろしく~。」
倉原歌乃。なんかぽや~ってしてる人。天然系?。体型も顔もぽや~って感じ。天然パーマなのか髪の毛がフワフワクルクルしてて余計にぽやぽや見える。
「私の名前は笹嶋里央。クラスは2-2。レイとは幼馴染み。変な所に転校してきて大変だと思うけど頑張って。何か分からないこととか困ったことがあったらなんでも聞いて。」
笹嶋里央。この中では一番の身長が低いが一番しっかりとしてそうな人。おかっぱボブヘアで綺麗に髪が整えられている。あと口調に抑揚があまりない。
そして最後の一人。
「……」
「……」
謎の沈黙。
「ほら、ソラの番…」
笹嶋さんに小声で言われるが黙ったまま。
ちょっとの沈黙のあとに
「…川井空…」
ボソッと名前のみを言う。
「ご、ごめんね。ソラは物凄く人見知りだから。仲良くなると普通にしゃべってくれるんだけどね…」
すかさずフォローをいれる仙崎さん。
川井空。極度の人見知り。全体的に髪が長い。前髪が長すぎるせいで目が隠れてて顔の半分がよく確認できない。そういえば同じクラスの人。
みんなの自己紹介が終わり、自分も簡単に自己紹介をする。
お互いの紹介も無事終わり。
田辺さんはまだ自分に敵対意識をもっているらしく物凄く警戒されてるが他の人とはなんとから仲良くやっていけそう。
「屋内クン、私達5人はG'sっていうチームなの。皆、仲良しで何かあればメンバー同士で助け合う、そんなチーム。…で、もしよければだけど屋内クンこのチームに入らない?。女の子しかいなくて少し居づらいかもしれないけど…どうかな?」
…突然のチームへのお誘い。
仙崎さん以外の人とはほぼ今日初見さんのチーム。
『なにか裏がある?』
そう思い少し考えたかよく分からなかった。
けど仙崎さんのいるチームなら是非とも入りたい。
例え何かの罠とかでも…。
「…自分なんかが入ってもいいのであれば是非入れてもらいたい。でも他の人たちは自分のことどう思ってるの?」
「私達は別に構わない。レイが連れてきたなら信用は出来なくもない。もし仮に何か問題を起こすようならレイが責任取ればいい。」
淡々と言う笹嶋さん。
仙崎さんのことを信用してるっぽい。
「ワタシは反対!。こんな誰とも知らない奴、信用できない!」
ド正論。今日会ったばっかりでお互い全然知らない関係。
むしろ賛成する他の人がおかしいぐらい。
「…まあ、でもレイがどうしてもっていうならいうならしょうがない…。も・の・す・ご・く・イ・ヤだけど良しとしてやろう。」
『…あれ?』
「良かった~。皆、賛成してくれるって思ってた。屋内クン、皆いいって。これからもよろしくね。」
「あ、うん…。よろしく…」
反対されると思っていたのに難なく入れてもらえた。
仙崎さんに対して絶対的な信頼感…。
一体仙崎さんって…?
屋内織はG'sに加入した。
4月13日(水)
授業は相変わらず。
座って先生の話を聞いていれば真面目と誉められる。
…つまらない。
でも学校生活自体は楽しい。
休み時間や放課後はG'sの皆で集まっておしゃべりしたり遊んだりする。
面白い。
でもG'sのメンバーが女の子と地元民しかいないからガールズトークと地元ネタの話をされると少し付いていけない時がある。
…まあ、聞いているだけでも楽しいからいいけど。
4月16日(土)
午前中は部活。自分は小さい頃から陸上をやっていたので陸上部に入った。
部長を含め、一部の先輩がちょっと面倒臭めだけど悪い人達では無さそうなのでやってはいけそう。
うちの陸上部は数人の人はしっかりとやっているけどあとは幽霊部員みたいな感じらしい。(活動しているだけ、うちの学校の中ではまだましな方)
因みに担任が顧問。
部活でも褒められっぱなし。
…頭がおかしくなりそう。
4月18日(月)
いつもの変わらない授業と数人しか活動していない部活を終えて放課後。
仙崎さん達と少し遊ぼうと思っていたらいきなり知らない3年の先輩達に囲まれる。
『…これは…よく漫画とかである「チョット体育館の裏にコイ」とか言う展開ですか?。嫌だなー。面倒臭いなー』
「付いてこい。」
『ほらきた…』
知らない先輩達は男女合わせて4人。
大人しく付いていくことに。
体育館裏ではなかったが人が通りそうもない所(校舎の影)に連れてかれる。
連れていかれた場所には多分先輩と思われる人が2人いた。
ボスっぽい人は座りながらバスケットボールをポンポンしている。
『バスケ部の勧誘ならいいんだけど、違ったらこれはヤバイやつだ…』
連れてきた人と合わせて計6人。(男4 女2)
俗に言う袋叩き?になるやつか?
でも自分は特に悪いことはしていない。
…していない。
……していないはず…
………大丈夫…
「転入生の癖にずいぶん調子のってるらしいな。」
ボールポンポン先輩がこちらを睨みながら言う。
調子…のってる…?
自分は授業は大人しく座っているだけ。
部活は普通に活動、クラスではそんなにしゃべってないからうるさくはしていない。
喧嘩とかも全然無縁。
調子のってるとは?
「とーても優等生なんだってな?。たかが教師に褒められて嬉しいか?。真面目ぶってんじゃねえよ!」
…
…どうしようもない…
真面目とか褒めらてとか言われたら何も言えない。
素でこれだから。
だから素直に"ごめんなさい"する。
特に自分が悪い訳ではないと思うが"ごめんなさい"する。
"これから不良ぶります"とかとは言えないし。
「…おまえの…そういうところが調子のってるって言ってるんだよ!!」
「何、上から目線で物言ってんだ?。何様だよ、お前!!」
なぜかキレる先輩方。
そして口々に色々な事を言い出す。
…面倒臭い。
しまいには「先輩を崇め、敬え。」とか「後輩は後輩らしく先輩の命令だけを素直に聞いていればいい。」とか言ってくる。
収集がつかなくなり始めたので先輩方に
「今後、自分はどうすればいいですか?」
と聞く。
そしたらいきなりボールポンポン先輩に胸ぐらを掴まれ、大声で
「なめてんのか、てめえー!!。あぁー!!?」的なことを言われる。
…会話にならない。
これは多分、何やっても何言っても駄目なやつだと悟る。
それはそうと至近距離で大声で怒鳴ればビビるとでも思っているのだろうか?、馬鹿馬鹿しい。
自分はそんなに肝っ玉小さくない。
でも少しだけイラッとしたので睨んで「いいえ?」と答える。
いきなり"ゴッ"という音がし、その後に左頬に少しだけ痛みを感じる。
…殴られた。しかもグーで。
けどスパルタ親父に殴られる方が全然痛かったからそこまで痛いとは思わなかった。
『親父…強すぎだろ。いつもいつも…』
一発殴り調子に乗り始めるボールポンポン先輩。
周りも興奮し始めサルのように騒ぎ出す。
…うるさい。
このまま数発殴らせておけばサル共は満足して終わりになりそうだったけど何か嫌だったから何事も無かったような顔をして
「気は…済みました?」
嫌味ったらしく。
「ーーッー~~ッ~ッ!!!!」
先輩ガチギレ。
6人で襲いかかってくる。
けっど、当ったりっませ~ん♪♪
とても大振りで遅遅な攻撃。
まともに当たる訳がない。
こちとら大自然育ち。
足場が不安定な野山で駆け回ってつけた身体能力、体力。
自然生物、野生生物を相手に素手で捕まえてきた動体視力と反射神経。
野生児なめんなよ!
と、言いつつも6人に囲まれながらなので相手の攻撃が当たるには当たる。
あんまり痛くないけど。
で、思った。
『こんだけやられてたら一発位やり返してもよくね?。せーとーぼーえーとか成り立つんじゃね?』と。
だから丁度目の前にいたこのメンバーの中で一番ガタイがいいと思われる先輩に一発お見舞いしてやることにした。
パンチを出す準備。構える。
『ただまっすぐに殴っただけじゃ避けられる、もしくは防がれるかもしれないから殴る直前で角度を変えよう。…そうだな、胸を殴ると見せかけて顔を殴ろう。』
自分の腕が届く距離まで先輩がくる。
『よし。』
殴りにいく。
予定通り胸にめがけて。そして直前で角度を上に変えアッパーのように顔を狙う。
『やっぱり膝蹴りにしよう。』
"ドゴッ"
自分の右膝がガタイのいい先輩の左腹部へ。
「ヴ…ヴァ…」
よほど効いたらしく腹をかかえ倒れこむ先輩。
『…少しやり過ぎてしまったかもしれない。』
自分は大自然育ちの身体能力に加えて、そういえば陸上部。
しかも陸上はかなり小さい頃から親に鍛えられているせいで自分の脚はけっこう筋肉質(多分)。
そんな脚でやってしまった…。
いくら全力本気では無いとはいえ、ちょっとまずいかもしれない。
…唸っているので死んでは無さそうだけど。
『それにしても少し思っただけでよく身体が動いたもんだ。』
何気に自分に感心する。
倒れこんだ先輩を見て少したじろぐ先輩達。
このまま「お、覚えてろー。」とか言って逃げ出しそう雰囲気。
『おっ?。これはやったか?』
と思ったが、
「一人倒したぐらいでいい気になんなよ!?」
と、変わらず襲いかかってくる。
確かに一人倒した所で今だけ5対1。不利なことには変わらない。
…面倒臭い。
けど逃げれなくはないだろうけどなぜか逃げてはいけないと感じる。
…なぜ?、プライド?
先輩たちの攻撃を避けながら防御ながら考える。
ふとある人の顔が浮かぶ。
『仙崎…さん?』
ここで逃げてカッコ悪いとか思われたくない。
…
……
てか本人見てないし、そもそも喧嘩する人とか嫌いかもしれない。
『仙崎さん…??』
…
……
自分はカッコつけたがりやで多感な時期の中学2年生。
『仙崎さん!』
「馬鹿やってなんぼでしょ…」
「なに言ってんだよー!?」
右から向かってくる先輩①。
右頬を狙っているらしくパンチがとんでくる。
身体を後ろに反らしながらパンチを避け、自分は右手の甲で先輩①の胸部を殴る。
多分自分は逃げれないんじゃない。
ただこの状況を楽しみたいだけ。
格好つけて、見栄はって、自慢したいだけ。
周りの人に。多分特に仙崎さんに。
『…笑える。めっちゃガキだな、自分…。…いや、実際にガキだった。年齢的に。』
そう思うとなんだかすっきりした。
こっからはこっちも容赦はしない。
男も女も関係ない。
後の事も知ったこっちゃない。
『頑張ろ。』
先輩②とボールポンポン先輩が2人でかかってくる。
2人でかかってきてもバラバラに攻撃してきてるから実際には1人を2回連続で相手しているのと同じ。
腕を横から振って殴りかかってくるBP先輩。
ボクシングのように構えてただ左右の腕を前に出すだけの先輩②。
どっちも単調。どっちも腕だけの攻撃。
まずは…丁度、今攻撃をしてきたBP先輩を相手する。
横から腕を振って攻撃してくるのでBP先輩の正面に立ち、横から来た攻撃を止めることに。
右から来る。
BP先輩の左腕横振り攻撃。
右腕で攻撃を止める。
そのまま、BP先輩の左腕を右腕で掴み、自分の方へ引っぱり、その移動の反動を利用して左手でBP先輩の左上胸部を殴る。
利き手で殴れなかったのでそこまで威力はでなかったけど、一撃必殺を目指している訳ではないのでそれなりにダメージを与えられればよし。
殴った左手でBP先輩の右肩を掴み相手を前屈みにさせるように左腕を引き、前屈みになったBP先輩の左頬を右手で殴る。
"メキュッ"
なんだか変な感覚が右手を伝う。
柔らかい皮肉と固い骨をまとめて殴る感覚。
…気持ち悪い。
『思っていたよりも人の顔って固いんだ…』
少し拳が痛いが大したことはない。
気持ち悪い感覚と痛みをはらうため右手をヒラヒラと振る。
かなりいい感じに殴れたので結構ダメージを与えられたと思う。
よろめくBP先輩。
追撃でもう一撃お見舞いしてやろうとしたが先輩②が殴りかかってきたのでそっちの対応をすることに。
先輩②の左パンチ。
自分の顔を狙ってくるがそんなに速くない。
右腕を顔の前で構えて攻撃を防ぐ。
再び先輩②の左パンチ。
また顔を狙ってくる。右腕で防ぐ。
パンチはそんなに速くないが次の攻撃に繋ぐ速度はまあまあ速い。
とか思っていたら先輩②の右パンチ。
左パンチと違ってかなり速い。
防ぐのに間に合わない。
…のでしゃがんで避ける。
"ヒュッ"
音をたてながら空をきる先輩②のパンチ。
『当たってたらまあまあ痛かったかも…』
先輩②の次の攻撃に警戒したがすぐには攻撃してこなかった。
その間に立ち上がり一歩下がる。
左・左・右で1つのセットのよう。
『ジャブ・ジャブ・ストレート的な?』
セット内の攻撃間隔は速いがセットからセットへ移る際に少し間が空く。
攻撃は腕だけで基本ただ前に出すだけ。
横からや下からも出すだろうけど未だに出してこない。
前だけと思わせて急に違う方向から出すつもりだろうか?
『…なら大丈夫。どうとにでもなる。』
先輩②の左パンチ。
右手の甲で外側へはじく。
すぐに一歩前に出る。
急に距離を詰めてきた自分に焦ったのか先輩②の微妙な右パンチ。
さっきよりも全然遅い。
左手の平で先輩②の右拳を掴み攻撃を防ぐ。
一歩前に出ながら右半身を内側へひねり肘打ち!
先輩②の右胸部にあたる。
"ドッ"
一歩下がる際についでのおまけで右拳外側で顔へ一発。
よろめく先輩②。
すかさず一歩前に出ておもいっきりグーパンチ。
左頬にクリティカルヒットし倒れこむ先輩②。
よほど効いたらしく倒れたまま動かなくなる。
『…気持ちいい…』
3連コンボが綺麗に華麗に(自分の中では)決まりとても気分が良い。
出来ることならばこのまま気持ちいいという感覚の余韻に浸りながらこの場を去りたい。
が、そうはさせてもらえないらしい。
未だ戦闘態勢の先輩方。
6人中2人(ガタイのいい先輩、先輩②)が倒れたままロクに動けない状態になってて、2人(先輩①、BP先輩)が多少なりてダメージを受けてて、残りの2人は女。
『…もういいじゃん…。もう諦めなよ…。そろそろ力の差も分かってきただろうに…』
と自分は思うが相手はそうは思わないらしい。
相も変わらず襲いかかってくる先輩方。
かかってくるのであれば容赦はしない。
例えそれが女相手でも。
女の先輩③と先輩①が両側からくる。
BP先輩も一歩遅れて正面からきている。
3方向かつ若干時間差攻撃。
少しは頭を使ってきたっぽい。
ここは瞬時に的確な判断が必要。
今一番されて嫌なことは動きを封じられること。
両手を掴まれたり、羽交い締めされたりすると大変面倒臭い。
なのでまずは腕を掴む可能性のある、左方向からきた先輩①の顔面に向けて上半身を捻り右パンチ。
そして右方向からくる先輩③へ右肘打ち。
これで少しだけ腕を掴まれる可能性が減り、ほんのちょっとのだけ時間と余裕ができた。
けど正面からやってきて左横から腕を振って攻撃してくるBP先輩の攻撃は避ける時間も防ぐ時間も無い。
『当たるな…』
"ゴッ"
左目尻から左目付近に当たる。
『…痛い!。左目が痛い!!。当たりどころがあんまりよくなかった!。目が開かない!!』
思った以上にダメージを与えられ少しよろめく。
しかし左目がどうだからってここで態勢も体勢も崩すわけにはいかない。
崩せばやられる!
"ザッ" すぐさま一歩下がり体勢を整える。
"スゥーハァー…" 呼吸をし気を落ち着かさせ態勢を整える。
「アハッ、アハッ。どーだ?。痛いだろ?。効いただろ?」
攻撃が効いたのを感じたらしくとても満足そうに笑うBP先輩。
…笑ってないですぐに次の攻撃に移られてたら自分を追い込むことが出来ただろうにそこまでは頭が回らなかったらしい。
『バカで助かった。』
おバカなBP先輩のお陰で一呼吸する時間どころか完全にタイセイを立て直せられるほどのお時間をいただけてしまった。
「アハッ。俺の実力、分かったと思うけどー…まだまだ止めねえからな!!」
『…実力か…』
BP先輩は自分よりも少し身長が高い(5㎝ほど?)。
手足も長い。
筋肉もスポーツをやってるなりにある。
体格でいえは自分なんかよりも優れていると思う。
BP先輩の右腕横振り攻撃を後ろに下がり避ける。
けどバカ。
腕のリーチを生かした攻撃は横から振ってくるだけのみ。
攻撃を当てたら当てたでいちいち興奮して「オレ、ツエー!!」みたいにイキがり手が止まる。
BP先輩の左腕横振り攻撃を軽くかがみ避ける。
他の事は知らないが"喧嘩"だけの実力でいえば…
「とても弱い…」
「あ"!?」
かがんだまま半歩前に出てBP先輩の懐に入る。
そしてBP先輩の腹部をおもいっきり右アッパーする。
"グジャ"
「グェ!」
一声あげて腹部を押さえ膝を付くBP先輩。
…倒れこみそうにはない。
さすがはリーダーっぽいことやってるだけはある(のか?)。
そのままほおっておいても良さそう。
「イ、イェァァァー!!」
突如奇声をあげて先輩③が飛びかかってくる。
反射的に右腕を前に伸ばし、飛びかかってくる先輩③を防ごうとする。
"バキッ"
伸ばした右腕の拳に先輩③の顔面にクリティカルヒットしてしまう。
…当てるつもりはなかったのだが…
鼻の中が傷ついたらしく鼻血をダラーと流しながらゆっくりと倒れる先輩③。
…当たりどころが良くなかったらしい。
運良く?また1人倒せてしまって残りは2人。
突っ立っている先輩①の方を見ると
「…はっ、この…程度…、実は俺がこの中で1番強いんだ!」
身体を小刻みに震わせながらなんだかよく分からないどうでもいいことを言い出す先輩①。
そのまま何も反応せずただ黙って先輩①の方を見続けると
「ヒッ…、ウァァー!!」
と怯えながらも勇敢に?立ち向かってきた。
『怯えた時点でもう結果は分かってるだろうに…。逃げてくれた方が楽でよかったのだが…。』
向かってくるのであれば容赦はしない。
掴みかかろうとしてくる先輩①の両腕を自分の両腕で外側へ弾き、手の平をハの字に構え先輩①の胸部へ掌底。
後ろへよろめく先輩①に対して自分は一歩前に出て先輩①の胸部へ右パンチ。
続けて顔面に左パンチ。
最後にもう1発顔面に右パンチ。
「ブゥ、ブァァ!」
"ドサッ…"
倒れこみそのまま動かなくなる先輩①。
「フゥー…」
一段落つけ一息いれる。
「あ、あぁ、…」
最後に残った女の先輩④は少し震えながら立ち尽くしている。
逃げたいのに逃げられない、叫びたいのに叫べない、そんな感じだった。
『相手してもしょうがないか…。』
そう思い、その場を去り帰ることに。
『なんか疲れたけど楽しかった。』
初めて喧嘩。
家に着き、まずは傷の手当てをする事に。
殴られた箇所は多少赤くはなってるものの触ってもあんまり痛くないので痣になるまではひどくはなさそう。
1番ダメージを負った左目は白目が真っ赤に腫れ上がってグミ状に膨らんでいるが開くし見えるからとりあえずは大丈夫そう。
本当は冷やして腫れだけでも良くしておきたいのだが目は冷やすとよくないって聞いたことがあったのでやめておいた(毛細血管がどーのこーので視力が落ちるとかかだっとような気がする)。
そしてフト思った。
『…そういえば、今回やったこれ(喧嘩)って結構ヤバくない?』と。
冷静になって考えてみたら普通に喧嘩、普通に暴力。
いくら1対多数とはいえ相手ボコボコにしてしまった。
「…明日、先生に怒られるよな…。絶対に…。転入早々…」
なんだか泣きたくなる気分になってきた。
自分からやった訳じゃない分、余計に。
気分が一気に落ちる。
「明日…学校行くの憂鬱…。これで自分も不良か…」
4月19日(火)
学校に行くのが嫌だったが天気も体調も良く、左目も少し赤い程度まで良くなり、他に休む理由も思いつかなかったので学校へ行くことに。
ビクビクしながら登校。
いつ呼び出しをくらうかと1日中ビクビクしながら過ごす。
少しでも気を楽にしたかったので仙崎さんには昨日のことを話そうと思っていたがそういう日に限って来ない。
授業やって部活やって帰宅直前まできた。
いつまでたっても先生からのお呼びだしとかが無い。
……??
『もしかして自己申告制とかだった?。…なら今日はもういいや…。なんか疲れたし。どーせ悪い子だろうし。明日言お…』
と思いつつ帰宅しようとしたら校門に仙崎さんと笹嶋さんがいた。
なんか今日1日の自分の様子がおかしかったのを同じクラスの川井さんが見て、G'sの他のメンバーに伝えてくれてたらしい。
それで休んで(サボって)いた仙崎さんがわざわざ来て、笹嶋さんと2人で自分の様子を見に来てくれたとの事。
「なんか今日1日元気無かったみたいだけど大丈夫?。私達で良ければ相談にのるよ?」
不安そうな表情をし心配してくれる仙崎さん。
「目が赤い。泣いたの?。…よく見たら傷がある。」
目が赤いことや身体に傷があることに気づく笹嶋さん。
「あっ…いや…、えっと、その…」
あれだけ誰かに話したかったのにいざとなると上手く話せずあたふたする自分。
そんな自分を見て
「場所を変えようか…。行こ。」
仙崎さんが気をきかしてくれた。
2人に着いていき、いつぞやの小さい公園。
「ここなら人もそんなに来ないし大丈夫だよ。…話せそう?」
なんだが若干重い雰囲気になりつつあり余計に話しにくくなる。
しかし話さないとそれはそれで大変なことになってきそうなので昨日の事を順を追って話すことに。
「実は昨日、3年の先輩達に呼び出されて…ーーーー…"ゴッ"ってなぐられて…ーーーー…膝で"ドゴッ"ってしちゃって…ーーー…『頑張ろ』って思って…ーーーー…BP先輩"メキュッ"ってして…ーーー…"ドッ"って…ーーーーー…"ゴッ"ってされたけど…ーーー…"グジャ"…ー…"バキッ"…ーー…先輩達動かなくなって…ーーー…自分って不良だなって思って…ーー…先生に怒られるかな?って…」
昨日の事を一通りかなり細かく話す。
話し終わり2人の方を見ると2人とも黙ったまま。
『…あーこれはやっちゃったパターンのやつだなー。「喧嘩する人、嫌!」とかなるかも…。もしそうなったら立ち直れないかもな…』
2人とも黙ったまま動かない。
「……」
「…………」
「……………あの…」
沈黙に耐えきれなくなり声をかける。
「……プフッ…」
「…プッ…」
「…?」
「アーハッハッハッ!!」×2
急に笑いだす2人。
「!!?」
驚く自分。
「アハッアハハッ…。あいつら…プッ…1人に負けたとか…アハハッ!」
「ーー!!。ーー!!。ハハッ、お腹痛い!。かっこつけて…呼び出して…プッハッハッ!」
2人が笑い転げる中、なにも分からず、ぼーぜんと笑っている2人の姿を見る自分。
『…??。……なにが起こった??』
いつもは喋り方に抑揚の無い笹嶋さんもゲラゲラと笑っている。
『良かった…。この人も人間だった…』
なんだかよく分からなすぎて変なことを考え始める。
「アハハッ、アハハハ!」
「アハハハー!!。ーー!!」
しばらく2人が笑いやむことはなかった。
しばらくして2人が落ち着き、しっかりと喋れるように。
「えーとね、屋内クン?」
「ハイ!」
「今回の事は全く気にしなくていいよ?」
「…え?」
「今日、先生がなにも言ってこなかったのなら何もなかった事になっている思う。そもそも知られてないんじゃない?」
「ん?」
「屋内クンも知っての通りそもそもこの学校の先生は生徒とは”関わらず”が基本だし、喧嘩自体日常茶飯事。いちいち怒っていたらキリがない。大ケガでもしないかぎり先生含めて大人はそれほど関与してこない。」
「…」
「ただ生徒の親が面倒臭いやつだと出てくることもあるけど…」
「あー、じゃあ…」
「大丈夫。問題ない!」
自信満々に断言された。
「先輩達が誰かに言うことはないと思う。6人がかりでランカーでもない後輩1人とやりあって負けたとなれば恥しかない。そんなこと進んで話すことはしない。仮に先生や親にバレたり上手い具合にチクられたりしても6対1。しかも現在絶賛優等生中の屋内クンが先に手を出すようなことをしない事ぐらいすぐに分かる。だから問題ない。」
「へ、へー…」
言葉が上手くでない。
何て返せばいいか分からない。
前に住んでいたところとは違いすぎて…
「少しは安心した?。さっきよりも表情が良くなったけど?」
「…うん、した。ありがとう。」
なんか色々とつっこみたいことはあるけれどとりあえず何のお咎めもなさそうということが分かったので他の事は気にしないことにした。
余計疲れそうだし。
「それにしてもよく勝った5。」
いつもの機械口調に戻っている笹嶋さん。
「…いやーなんか勝てた。でも相手全然強くなかったから。」
「…」
なぜかちょっと沈黙はいる。
仙崎さんと笹嶋さんがお互いの顔を見合ってニヤーと笑う。
「…?」
またしても二人の行動の意味が分からない自分。
そして…
「それでこそ男の子だね!。すごい、すごい、カッコいいよ!」
と褒め?ながら背中をバシバシ叩いてくる仙崎さん。
「G‘sのメンバーは舐められることは許されない。これからも負けるな。」
と謎のプレッシャーをかけながら背中をビシビシ叩いてくる笹嶋さん。
『あー本当に良い友達を持ったなー。心配してくれ褒めてくれ激励してくれる。……背中は痛いけど…』
不安だった事もなくなりこれでまた明日から普通に生活できそうと感じる自分だった。
4月20日(水)
昨日とは打って変わって晴れやかな気分で登校。
『不安がないっていいな。』
改めて実感する。
学校
…何だかやけに視線を感じる。
そこら中から。
”見られている”とはっきりと分かる程の視線。
なんとなく怖く嫌な気分。
…何だかなにかを言われている。
そこら中で。
”自分の事を言われている”とはっきりと分かる程、聞こえてくる。
なんとなく気味が悪く嫌な気分。
『…なんかしたっけ?』
思い当たる節が無いわけでもないし考えて分からないわけではないのだが…
一昨日の事…
でもあの話しは広まらないはず…
先輩達は”恥”だから他の人には言わないだろうって言っていたし(仙崎さんが)仙崎さんと笹嶋さんが話したも考えにくい。
とかなんとか考えていたら仙崎さんが自分のそばに来て
「屋内クンのあの件に目撃者がいてそいつがそこら中に言い回っているみたい。」と一言。
「…!?」
なんと一昨日の件を見ていた奴がいたとは…
”壁に耳あり障子に目あり”か…
…泣きたい…
「それでね”1人で6人の先輩達をボコボコにし快勝した転校生。素性不明、正体不明、詳細不明の彼。…ただ1つ分かっている事は強いってことだ。”って感じに噂が広まっているの。」
「…なにその雑誌のキャッチコピーみたいなの。」
「誰かが面白半分で考えたみたい。」
「(´・ω・`)」『もう少し簡潔にできなかったのだろうか…?』
「でね…ちょっと言いにくいんだけど…」
可哀想な人を見るかのような目で自分を見ながら
「これからしばらくは大変になると思う…。特に喧嘩とかで…」
「!!?」
「ほら、屋内クン良くも悪くも今、一番注目されてるから…。えーとね…あっ、”出る杭は打たれる”的な?」
…大泣きしたい…
「それを回避できる未来ってありますか?」
ダメ元で聞いてみる。
「無い!!」
断言された。
…もう笑うしかない…
「ハハ…」
自分の平穏な学校生活はたった一回の事できれいさっぱりと消えていったのであった。
放課後
G‘sの皆さん全員集合。
泣きたいを通り越して笑うしかなくなった悲しい自分を慰めでもしてくれるのかと思ったが
「アッハッハッ!。ざまあみろ!」
開口一番、田辺さんからキツめ一言を頂く。
「あんな先輩を相手にするからワリーんだ。どーせ「喧嘩してカッコいいところでも見せよ」とか思ったんじゃねーの?」
…痛いところをついてくる。
確かに格好つけようとした。
それは事実で実際に思ったこと。
『だってしょうがないじゃん。格好つけたかったんだもん。中二だもん。』とか言い訳したら余計バカにされそうなので言うのは止めておいた。
「マリの~言うとうり~。相手~したのが~悪かったね~」
「…先輩の相手をした屋内が悪い…」
倉原さんも川井さんも慰めてはくれないらしい。
「…逃げればいいのに…」
「そうだよ~。なにかあったら~すぐ逃げて~レイに守ってもらうの~。レイは~強いの~。どのぐらいかって~言うと~3位ぐらい~強い~。あとマリも~強いよ~」
「…屋内とは比べ物にならない…」
「ちょ、ちょ、ちょ、皆それぐらいにしてあげて。屋内クンにこれ以上ダメージを与えたらダメになっちゃう。それに屋内クンも男の子なんだから少しくらい格好つけて喧嘩してもしょうがないでしょ。」
あまりフォローになっていないフォローを入れてくる仙崎さん。
「でも2人の言う通り、何かあった時はすぐに私達に頼ってくれてもいいんだからね?。喧嘩でも何でも。マリは…気分によってだけど私は絶対に助けてあげるから。」
優しい仙崎さんのお言葉。
とても嬉しくなる。
しかし田辺さんはともかく仙崎さんよりも弱いとなると格好つけようにもつかないことに今更ながら気づく。
あの喧嘩は何のためだったのか…
…泣きたい。
まあ、楽しんだし自分がやりたくてやったのだからいいのだけど…
「でもワタシはほんの少しコイツのこと見直したぜ。」
「!?」
田辺さんの口から意外な一言がでる。
「あれ~?、マリ~?。「アイツのことゼッテーに認めない」~じゃなかったの~?」と倉原さん。
「確かに。大嫌いと言ってた。」と笹嶋さん。
「あー…確かに嫌いだよ。でも逃げずに1人で戦ったのは男らしくていいと思う。何もせず逃げてレイやワタシに頼ってきてたら金玉蹴り潰して、女にしてたとこだけどな。それにザコとはいえ6対1で勝ったならそれなりに実力はあるんだと思う。ワタシは何に関しても実力がある奴は好きだし、評価できる。まあ、コイツの事は嫌いだけどな!」
最後の一言以外は褒められて素直に嬉しいと感じる。
あと"男の子"を守れてよかったとも思う。
皆はすごくニヤニヤしてる。
「……っ!。オマエら何ニヤニヤしてんだよ?。蹴んぞ?」
「いやーだって今まで散々大嫌い、大嫌いって言ってたのに急に評価がよくなるんだもん。」
やけに嬉しそうに話す仙崎さん。
「あ!?。…いや、ワタシはコイツのこと嫌いなんだって!」
「"大嫌い"じゃなくて"嫌い"なんでしょ?。さっきから"大嫌い"って一言も言ってない。今までは"大嫌い"としか言ってなかったのに。」
…多少評価が違うのだろうが"嫌われている"ことには変わりはないような気がするのだが…
「ーーーっ!。ウッセ-!。嫌いは嫌いだっての。…あ"ーもうオマエのせいだぞ!」
"ゲシッ、ゲシッ"
なぜか脚を蹴られる自分。
"ゲシッ、ゲシッ"
まあコミュニケーションの一環だとは分かっているけど。
"ゲシッ、ゲシッ"
照れ隠しってやつ?
"ゲシッ、ゲシッ"
「…いや、さすがに蹴りすぎじゃない!?」
"ゲシッ、…"止まる蹴り。
「アハハハハッ!!」
笑う皆さん。
…笑い事なのだが痛いんだけど…。
まあでも皆のお陰で気分がだいぶ楽になった。
本当に良い友達を持ったと思う。
4月21日(木)
いつもとほとんど変わらない時間に起き、いつもとほとんど変わらない通学路を通り登校し、いつもよりも視線が多い中でいつもとほとんど変わらない授業を受け、いつもよりもギャラリーが多い中でいつもとほとんど変わらない部活をし、いつもとほとんど変わらない通学路を通り下校し、いつもほとんど変わらない時間に寝る。
いつもとほとんど変わらなかった1日。
このままずっといけば平和で平穏な学校生活を送れそう。
何事も無いって最高!
………。
ーーー→