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竜王様と甘いティータイム

作者: 徒然花

短編『好き嫌いは、許しません!〜竜王様、ご飯の時間です! グータラOLが転生したら、最強料理人!?〜』の続きです。

 昼食の時間が終わり、片付けに忙しい竜王城の厨房。

 綺麗に洗って拭き上げられた食器をてきぱき片付けるメイドさんたちをよそ目に、私——竜王城の下っ端メイド、ライラはおやつ作りに専念していました。


 メイドのくせに片付けの手伝いしないのかって?


 それは私が非常にドジっ子で、割れ物なんかを扱わせたら壊れる未来しかないことを同僚たちが知っているからです。私が唯一みんなから認められているのは料理の腕だけなので、賄いを作ったり休憩時間のおやつ作りを任されています。

 しかし今日のおやつは特別です。私がいつも以上に丁寧に作っているのは、ちょっと手の込んだチョコレート菓子。というのも、今日は二月十四日。竜王国での暦だけど、この日付を見たら、現代人だった頃の記憶がうずくってもんでしょ。

 そうです、バレンタインです!

 竜王国の食材はほぼ前世と同じようなものなので、チョコレートみたいなのもあるし、ココアみたいなのもあるんです。それらを使って、日頃の感謝の気持ちを伝えられたらなぁと思ったんです。……ちょっと本来のバレンタインとは趣旨が違うけど、気にしない!

「今日はやけに張り切ってるじゃないか」

 料理長のトープさんが、甘いチョコの香りに誘われて、私の手元を覗き込んできました。

「うふふ。わかります?」

「ああ。やけに仕込み時間が長いからさ」

「今日はバレンタインデーなので、みなさんに『友チョコ』を差し上げたくてですね、頑張ってるんです」

「ばれんたいんでー? なんだい、そりゃ」

「私の故郷の風習なんです。二月の十四日に、チョコレートを渡すんです」

 好きな人には『本命チョコ』、仲良しの友達には『友チョコ』、義理で差し上げるものを『義理チョコ』などなど、〝前世日本〟での『バレンタインデー』について、私はトープさんにざっくり説明しました。諸説ありますが、まあ、私の解釈ということでぬるく見てやってください。

「そんな面白い風習があるんだ」

「ええ。だから今日は、いつもお世話になってるみなさんに『友チョコ』代わりのお菓子を作ってるんです」

「そいつは楽しみだ」

「腕によりをかけて作りますからね。休憩時間を楽しみにしていてください」

 う〜んと美味しいチョコレートのお菓子を作りますからね!




「さあどうぞ! 召し上がれ!」

 休憩時間にお茶と一緒に出したのは、ガトーショコラ。

 丸型で焼いたガトーショコラを八等分に切り分け、お皿に載せたら上から粉糖をさらさらと振りかけます。上からホイップをトロリとかけたら、その横にミントの葉(のようなハーブ)を添えました。我ながら、まあまあちゃんとしたデザートプレートになったと思います。

「わぁぁぁ! 素敵!」

「お店みたいよ!」

「うん、美味しいわ」

 手の込んだおやつに、メイドさんたち大絶賛です。

「毎日バレンタインデーでもいいわね」

 えっと、それはちょっと特別感なくなるので遠慮します。


「ばれんたいんでー? ふうん」

「いつもお世話になってるフォーンさんにも『義理チョコ』どうぞ!」

 いつもよりちょっと豪華なおやつにけげんな顔をした執事のフォーンさんにも、ざっくりバレンタインの説明をしてあげました。『日頃お世話になっている人にチョコレートを渡す日』と。

 顔合わす度にお小言しか言わないフォーンさんには、『友チョコ』じゃなくて『義理チョコ』ね。大丈夫、意味わかってないだろうから。





 休憩時間が終わり、ほぼすべての使用人さんたちに友チョコ(一部義理チョコ)を食べてもらったところで、私は次なる場所に向かいました。


 三つだけ紙の箱に入れてお運びするのは、三将の元。


 武将のバーガンディーさん、知将のインディゴ様、術将のスプルース様。もちろん『義理チョコ』ですよ。

「おっ! 美味そうだな」

 という一言と共にあっという間に食べてしまったバーガンディーさん。

「なんで今日はわざわざ持ってきたんだ? もう少ししたら厨房に顔出すつもりだったのに」

「説明聞く前に食べないでくださいよ」

 普段は自分から厨房に来ておやつをつまみ食いしていくタイプのバーガンディーさんなので、私がわざわざ執務室にまでおやつを届けに来たことに疑問を持ったようです。ていうか、食べる前に聞かないかな? まあ脳筋なので仕方ないですね。もちろんバレンタインと義理チョコの説明をしました。


 次はインディゴ様の執務室。インディゴ様は、ちゃんと先にバレンタインの話を聞いてくれました。多分『なんでわざわざおやつを持ってきたんだ?』って疑ったんでしょう。

「それはそれは。ライラの故郷には面白い風習があるのですね」

「好きな人がいる子には、堂々と告白するチャンスなので、いいイベントだと思います」

「なるほど」

 では、いただきます——と、ガトーショコラを食べてくれました。 

「『バレンタインデー』にチョコレートをもらったら、それで終わりなんですか?」

「一般的には『ホワイトデー』というのがありまして——これは三月十四日なんですけど——その日にお返しをする感じです」

「それはまたチョコレートをあげるんですか?」

「いえ、なんでもいいみたいですよ。あ、でも」

 前世ぐうたらOLだった私には縁遠いイベントなので、詳しくはよくわかりませんが、一つだけ知ってる豆知識が。

「でも?」

「マシュマロはあげちゃダメですよ!『あなたのことが嫌い』という意味だそうなので」

「それは避けないといけませんね。しかし、意中ではない方には有効かも」

「インディゴ様、さらっとひどいですね」


 次に訪ねたスプルース様は、魔法の研究的な何かに没頭していたので、机の端っこにそっと置いておきました。




 残すはいよいよ竜王様。

 竜王様はこの世界で私を拾ってくれた恩人だから、今日は特別仕様! みんなにはガトーショコラだったけど、竜王様のはフォンダンショコラ。中からトロッとチョコレートソースが流れ出してくるのがいいんですよねぇ。テンション上がる一品です。

「やっぱり竜王様の分は、私たちのとは違うわねぇ」

 ティーセットとおやつを乗せたワゴンを押すマゼンタがニヤニヤしています。

「だ、だってほら、竜王様は特別じゃないの!」

「そうね、〝特別〟ね。『本命』と『友』だとこんなに差があるのか……」

 そう言って大袈裟に頭を振るマゼンタ。

「ち、違うってば!」

 ああもう! こんなにいじられるなら私だけでワゴン押してくればよかった——って、途中で破壊するから一人で何かを運ぶの禁止だった。


「竜王様、おやつをお持ちしました」

「入れ」

 竜王様の許可が出たので執務室に入ります。竜王様は部屋の奥、立派な執務机で、何やら書類を読んでいました。真剣な眼差しでお仕事している姿は凛々しくて、見惚れてしまいますね。

 テキパキとお茶の準備をするのはもちろんマゼンタ。私はそれを見守るだけの簡単なお仕事です。お茶のいい香りが部屋に漂ったら、準備はOK。

「竜王様、準備が整いました」

「今行く」

 書類を置いた竜王様は、ひとつ伸びをしてから、おやつのセッティングされたテーブルにつきました。

「今日のおやつはフォンダンショコラです。温かいうちにお召し上がりください」

「冷めてからではダメなのか?」

「そうなんです。温かいうち、というのがミソです」

「そうか」

 優雅な仕草でケーキを二つに割った竜王様は、中から流れ出してきたチョコレートソースを見て、眉をクイと上げました。

「だから温かいうち、か」

「そうです。美味しくできたと思いますよ」

「ライラの作るものはいつでも美味いぞ」

「……ありがとうございます」

 しれっと褒めるから、照れるじゃないですか。これ、絶対に後でマゼンタにからかわれるわ。

 さっきは美味しくできてるって言ったけど、自信を持ってお出しできるけど、やっぱりお口に合うかどうか……。竜王様がひと口目のケーキを味わってる間、ドキドキしました。ドキドキしすぎで、食べてるところガン見しちゃていたようです。

「そんなに見るな。食べにくい」

 竜王様が苦笑しています。

「はっ! つい。すみません」

「心配するな、ちゃんと美味いぞ」

「ほんとですか?」

「ああ」

 そう言って目を細める竜王様。よかった。お口に合ったようです。




「それで」

「?」

「これはもちろん『本命』なんだろうな?」

「!!」

 笑みをたたえた黒い瞳が私を見ていました。

 あれぇ? おっかしいなぁ? 竜王様に『バレンタインデー』の話、してないんだけど?

「ありがたく受け取ったぞ。ホワイトデーを楽しみにしておけ」

「!!」


 楽しそうに笑う竜王様。


 ちょっと! あなたどこかで聞いてましたね!! 


もちろんインディゴ様のところの話を立ち聞き。

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― 新着の感想 ―
[一言] コミカライズで知り、原作を読みたい!となり、探してベリーズカフェさんで読ませていただきました。 感想、というか気になりすぎて竜王様視点がめちゃくちゃ供給してほしくて、そのお願いをしたかったの…
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