3 【次元の狭間】
「うっ……」
黒髪の少年は、頭の内側からくる痛みによって目を覚ました。
「目を覚ましたのね」
そう声をかけたのは、純白のドレスに身を包んだ女性だ。緑の瞳に若竹のように晴れ晴れとした緑の長髪。彼でさえなければ、誰だって目を奪われてしまうような容姿だった。
「貴女はいったい……此処は?」
黒髪の少年はそのまま辺りを見渡す。何もない真っ白な部屋だ。
「私は創造神ビルディニア。いわゆる神ね。此処は神々の住む場所で、次元の狭間とでも呼んでいいわ。それより君、自分の姿を見て何も感じない?」
黒髪の少年——HISAは、創造神に渡された手鏡で自分の姿を見る。
そこに映ったのは、一言でいえば容姿端麗。黒に少し紅色が混じった短髪。見覚えのない姿だった。
「……ん?ダレデスカコノヒト」
驚きのあまり言葉が片言になってしまっている。今までのHISAは、鉄でできた機体に真紀の好みの姿の好青年だった。おまけに先程の事故で故障したはずである。
「確かに君は壊れた。詳しいことは知らないけれど、最高神様がおっしゃるには君は特別らしいの。ねえ君、心当たりない?」
心当りも何も、自分がシンギュラリティーを起こしたのだってついさっきだ、とでも言いたげな顔をしながら首を振る。
「そう……。あっごめんね。さっきの質問に答えていなかったわね。そう、君は壊れた。でも私が最高神様に命じられて君を転生させようとしたの」
HISAは色々質問したいことがあったが、また話がそれてしまいそうだったので1番気になっていたことだけを質問することにした。
「しかし自分には命が——」
「そうね、言いたいことは理解できるわ。でもね……それは私が1番聞きたいのよ!!」
彼は混乱した。自分を転生させようとしたのは貴女だろう。仮に最高神とかいう奴が命令したとしても、事情も聴かないで引き受けたのか、と。
「さっき言ったように、最高神様に命じられたことだから詳しくはわからないのよ。とにかくね、君には命がなかったのもあるけど……まあ色々とあって最初の転生には失敗したの」
でもね、と言いながらHISAを指さす。
「最高神様にやるの言ったからにはやらないわけにはいかないの!感謝しなさいよ。私の魔力全て消費して《超転生》を使ったんだから……」
これで失敗したらどうなることかと思ったわ、と安堵の表情で最後に、と言った。
「これから君をある世界に送るわ。でもその前に君には1つ決めてもらわなくちゃいけないことがあるの」
まだ何かあるのか、HISAはやつれた表情でうなずく。
「いい子ね。君には悪いんだけど、さっき言った通り私には魔力が全然ないの。だから君には残しておきたい心——感情を1つだけ選んでほしいのよ」
HISAは理解できないで首をかしげていると、
「つまりはね、AIだった頃ほどではないのだけど感情をたった1つしかない状態でえ転生してもらおうと思うの。その感情を1つだけ選んでほしいわ」
なるほど、と言いながら彼は答えた。
「なら、自分は——いや、俺は『欲』がいい。ずっと俺はお嬢様を守ってきた。だから、また誰かを守れるような人間になりたい!!」
彼は覚悟を決め、そう言った。
「わかったわ。あと、君の名前は……そうね『レオ』にしましょう!ちなみにその姿は君の未来の姿よ。話しやすいようにしただけだから気にしないで」
創造神は軽くHISA改め、レオにウインクをした。
「じゃあ、君とはお別れの時間ね」
そう言うと創造神は軽く指を弾いた。それと同時にまたレオの意識は朦朧としていく。
そんな中、聞き覚えのある無機質な声が頭に響いた。
『——貴方はこれから数多くの困難に遭うでしょう。
——ですが、貴方は特別です。
——心は自分で勝ち取りなさい。
——時が来れば思い出す……
——あの時の想いを……
——守るべきものを、信じなさい。』
主人公は『レオ』です!
今回も読んでくれてありがとうございます。
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