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それが聖女のハイヒール ―機動悪役令嬢前伝 わたしのキックは全てを癒す!―  作者: えがおをみせて


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第47話 まだいける、まだ時間はある




 甲殻騎が完成するまでの30時間、状況によっては、『白銀』との決戦を併せて、それ以上の時間か、眠る気はない。ホントハイヒールは有難い。どっかで反動来て酷い目に合いそうな気もするけど。


 さて、監視塔に出向いたところ、例の甲殻軍団と『白銀』の争いはそろそろ終わりそうな気配らしい。もちろん『白銀』の勝利だ。取り巻きがどれだけ削られているのかが、期待半分といった感じかな。



 ぎゃりぎゃりぎゃり! ぎゅいーん、がしんがしん!


 というわけで、甲殻騎工房にやって来たわけだけど、音が凄い。


 何をしているかと言えば、関節の接合作業だ。可動部となる関節の間に甲殻獣の関節包を挟んで、甲殻の端に穴を開けて、そこに腱を何本かねじり合わせた言わば紐を通す。これで関節を固定するわけだ。勿論稼働部位なわけだから、微妙な遊びが必要になる。そこら辺が、甲殻武装を造る際の職人技ってことになる。


 残念なことにこの世界、ドワーフの鍛冶屋さんが酒と引き換えに何でもやってくれるわけじゃない。そもそもドワーフいないし。義肢を作っていた頃はフォルナの趣味みたいな世界だったらしいし。


 結局今ここにいるのは、各部隊から選抜された甲殻装備班とフサフキ小隊の面々ということになる。総勢で60名くらいか。やっていることは、わたしから見れば、巨大な縫いぐるみ作成みたいな感じだ。


「みんなお疲れ様です。どう? 調子は」


「おお、聖女様。これはいいですな! これ程の作業に携われるなど、末代までの誇りですわ!」


 近くにいた、整備班のおじさんが答えてくれた。


「姫様! 姫様。聖女様がいらっしゃいましたよー!!」


「ちょっとお待ちください。ここの接合を終わらせてしまいますので」


 離れたところからフォルナの声が聞こえてきた。いいねえ、ノリノリで熱心だ。


「構わないよー。キッチリいいとこまでやってからで」


「有難うございます」



 ◇◇◇



 近くで回復を希望した人たちを蹴っ飛ばしてから数分、フォルナもやってきた。


「とりあえず蹴っとく?」


「お願いします」


 どごん!


「ああ、いいですねえ。疲れと眠気が消えていきます」


 ほんとにヤバい薬扱いになってしまった。いや、緊急時だ、そうだ仕方ないのだ。



「で、進捗はどう?」


「そうですね。手足はほぼ完了です。ですが、胴体部分は経験が少ない上に可動範囲を読みにくいので、時間をかけるしかありません。『白銀』はどうですか?」


「そろそろ『白銀』が勝ちそうらしい。そこからどうなるのやら。まあ、やるしかないんだけど」


 黒狼の背骨を囲むように、背中に甲殻を少しづつ繋げている様子を見ながら、わたしは言った。なるほど、胴体の表と裏を別々に造っているわけだ。作業時間を縮めるってことかな?



「ですが、皆さんの習熟には驚かされています。問題が無ければ組み上げ自体は、そうですねあと6時間もあれば」


「問題は調整ってことね。それで搭乗者は?」


「当然相性を考慮します。第一候補はもちろんわたくしです」


 やっぱりそうなるか。これまでの甲殻装備との相性、理解度、膨大なソゥド力、フサフキ。全部が彼女に備わっている。


「そうなるよね。じゃあちゃんと肩に取っ手をつけておいてね。もちろんわたしも一緒にいくからさ」


「フミカ様……」


 フォルナが目を潤ませる。わたしがそれを掬う。


「どうせ継ぎはぎだらけの甲殻騎だし、歩いただけで、殴っただけで壊れるかもしれない。でもわたしがいれば大丈夫」


「壊れた先から蹴っ飛ばしてくれますものね!」


 そうだ、フォルナは笑顔がいい。



 ◇◇◇



 それから3時間ほど。組み上げが9割がた終わったころに急報が入った。


「『白銀』が完全に勝利した模様です!」


「その後は!?」


 思わず叫ぶ。さあ、どう出た?


「寝たようです!」


「はい?」


「それが、その、その場を動かず、休息というか、目をつぶって……」



「よっしゃああああ!!」


 倉庫中に歓声が響き渡る。とにかく必要なのは時間なんだ。



「組み上げ作業を急ぎます。その後で、試験動作と調整!! 『白銀』が目を覚ますまで、時間との勝負です! やりますよ!!」


 フォルナが力強く叫ぶ。もちろん受け止める側も燃える。


「了解しました!!」


 さて、調整となれば、わたしも出番かな?



 メリッタさんにお茶の出前でも頼もうか。



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