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3 再会、そして討伐へ

「たのもーう!」


 ある日の朝、村の入り口に大きな声が響いた。

 誰か、外から来客が来たらしい。


「あれ、カグラさんじゃないか」


 頭の後ろで長い髪を結んだ、見覚えのあるその姿。

 俺が十年前、イヴァルハラ王国を侵攻していた邪神王を倒した際に仲間だった、東方剣士のカグラという女性が村にやって来たのだ。


「やや、レニダスどのでござるか!? こんなところで会うとは奇遇でござるな!」

「本当にね。久しぶりだなあ。今は何やってるんだ? 相変わらず、流しの剣士やってるのか?」


 カグラさんは、物心ついたときから旅の傭兵団で育ち、各国を渡り歩いて魔物討伐の旅暮らしをしている。

 確か俺より三つくらい年下のはずなので、今は二十五歳前後か。

 相変わらず、童顔で背も高くないし痩せて華奢に見えるのだが、以前の彼女は剣の腕だけなら俺より数段上だった。

 今もなお現役で流しの剣士をやっているのなら、あの頃以上に強いのだろうか。


「うむ! とある情報筋でこの村の付近に邪鬼龍のたぐいが出たと聞いて、こうして来てみたのでござる! しかし魔物の姿が見えぬのでどうしたことかと思って途方に暮れているのでござるよ!」

「それなら俺が退治したぜ。悪いな、仕事を取っちまって」

「そうだったのでござるか! なら、二匹目も倒したのでござるか?」

「二匹目?」


 俺が討伐した邪鬼龍の魔物は一匹だけだった。


「なんでも、雌雄一匹ずつ、二匹でつがいとなって活動している種の魔物らしいでござるよ! まだ村に姿を現していないのであれば、近隣の山に潜んでいる可能性が高いでござるな!」

「近隣つったって、このあたりは山だらけだからなあ」


 なにせ田舎である。

 見渡せば前面は海、背面は山、以上、というのがこの村の景勝だ。


「ふむ、拙者の勘によれば、西側の岩山がなにやら怪しい気がするでござるな! では拙者、行ってくるでござるよ!」

「待て待て、俺も一応行くよ。久しぶりにカグラさんの険の腕も見たいしな」


 そうして俺とカグラさんは、村の西にある岩山地帯へ、邪鬼龍の魔物を探しに行くことにした。


「行ってらっしゃいませー」


 いつの間にか、すっかり村の一因になってしまった使者くんに見送られる。


「気を付けてね、これ、お薬とかお弁当」


 猫獣人のテレーネから、食料などが入った皮袋を受け取り、いざ冒険へ。


 その道すがら、カグラさんが世間話を俺に振ってきた。


「イヴァルハラ王国のアパネスとか言う宰相がいたでござろう?」

「ああ。なんでもつまらない罪で失脚したって聞いたが」

「それが、罪が許されたのか、無実が証明されたのかは知らぬでござるが、復権して結局は宰相の地位に戻ったらしいでござるよ」

「大方、司法院や憲兵隊に賄賂でも渡したんだろ。どうでもいいけどな」


 なんて話をしながら、岩山を探索していると大きな洞窟を発見した。

 内部から、感覚を研ぎ澄ませなくても分かるほどの邪気、魔物の気配が漂って来た。


「見つけたでござるよ! 魑魅魍魎め! 拙者のオサフネの錆にしてくれるでござる!!」


 目にも止まらぬ、距離を無視したかのような踏込でカグラさんが邪鬼龍に斬りかかるが。

 カチーン!

 カグラさんの愛剣オサフネが、敵の鱗肌に跳ね返された。


「しまった! この物の怪、ぶつりむこう、でござったか!!」


 剣の腕なら大陸全土でも五指に入ると呼ばれるカグラさんだが、残念ながら魔法が全く使えないので、物理攻撃の効かない敵に対しては無力である。


 結局は俺の得意な極大火炎魔法で、洞窟の内部を高温の蒸し焼き状態にして邪鬼龍の二匹目を討伐した。


「さすが、魔法の腕も衰えてはござらんな!」

「火の魔法は生活に便利だからな。毎日使ってるんで感覚も衰えないんだ。剣の腕とかはきっと、十八の頃よりなまってるよ」

「拙者でよければ、稽古の相手になるでござるよ!」

「いや、遠慮しとく……」


 カグラさんの稽古に付き合うと、きっとボロボロにされる。

 そうして俺とカグラさんは邪鬼龍の討伐を終えて、村に戻る。


「では、レニダスどの。拙者はこれにて失礼するでござるが、たまには故郷のイヴァルハラにも顔を出すとよいでござるよ」

「別に、行く用事もないよ。家族もいないし」

「王女アルテどのは、レニダスどのが去ってからというもの、この十年間ずっと沈んだ顔をしているそうでござるよ。まったく、罪な男でござるなあ」


 からかうように笑いながら言って、カグラさんは去って行った。

 まだ幼かった王妃も、きっと十年経った今では立派な淑女になっているんだろう。

 

「お帰り、レニダス。今日のご飯は凄いよ、天帝カニの香草蒸し焼き!」

「おお、本当か、俺の大好物だぜ!」


 テレーネに出迎えられて、その日の夕食がカニだと聞かされてしまい、やはり故郷がどうのという話はどうでもよくなってしまったのだった。


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