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2 拒否、そして日常へ

 イヴァルハラからの使者は、次のように話した。


「わ、我が国は今、大変な状況に置かれているのです。宰相のアパネスが、第四王子と第五王子の正妻に自分の娘を嫁がせるということを行っておりまして……」

「だからなんだよ」


 正直言って、イヴァルハラの宮廷政治闘争に俺は全く興味がなかった。

 あどけない華のような少女だった王女殿下は、まだ元気にしているだろうかということが気にかかるくらいだ。


「現王陛下も、アパネスの言葉にかどわかされて、次代の王、皇太子を第四王子に変えようかとお悩みになられています。このままでは、いずれ王宮、大臣諸官のすべてがアパネスの息のかかったものに牛耳られ、国の政治がほしいままにされてしまいます!」

「強大な魔物が襲って来たから退治してくれ、って話じゃないのかよ。俺にそんな話をされても困る。悪いけど力になれそうもないから、帰ってくれ」


 俺がそう言うと、使者の青年はボロボロと涙を流し始めた。


「ど、どうか我らの国を、祖国を助けると思って、お聞き下さい。レニダス様には、アルテ王女殿下と婚姻していただき、第一王子で現皇太子殿下の後見人となっていただきたいのです。救国の英雄が大将軍職となり、皇太子の後見人となっていただければ我が国の未来は安泰なのです!」

「知らんって。そっちのことはそっちで頑張ってくれ。なんで俺の人生をそこまで縛られなきゃならないんだ。俺はもうこの村で、それなりに責任も立場もある身になっちまったんだ」


 あくまで乱暴にではなく、使者の青年をなだめるようにして部屋から退出させて、俺はきっぱりと言った。


「なにもかも、遅すぎだ。きみが悪いわけじゃない、時が遅すぎたんだ。じゃあな。もう来るなよ」


 使者の青年は、肩を落としてとぼとぼと帰って行った。


「いいの、レニダス? なんかあの人、泣いてたみたいだけど」


 戻ってきたテレーネが心配そうな顔で訊く。


「いいんだよ。大した話じゃなかった。それよりも畑の雑草、抜きに行くわ」

「村長さんのところ? あたしも気晴らしに行こうかな。仕事もあらかた終わったし」


 テレーネは山野の草や木の実を採取し、それを薬として調合する仕事をしている。

 今日は自分のやりたい仕事があらかた終わって忙しくないらしく、俺の雑草むしりに付き合ってくれた。


 野良仕事を終えて、俺はテレーネの家族と一緒に夕食を摂る。

 この村は漁で獲れた魚介類や畑で収穫した農作物を、村のみんなで分け合う生活様式だ。

 食料や薬、最低限の衣服などは貨幣を使って取引するということはない。

 村にいる限り、必要なものを自分たちで作り、必要なだけ分け合う暮らしをしている。

 たまに行商人が来ることがあるので、貨幣はそのときに使うのが主だ。


 団らんの食事中に、しかし珍客があった。


「か、帰りの路銀を、盗賊に奪われてしまいまして……」


 イヴァルハラからの使者くんが、ボロボロのていで戻って来てそう言ったのだ。


「とりあえずご飯食べて、今日はゆっくり寝なよ」

 

 テレーネにそう促され、申し訳なさそうに使者くんは魚の塩辛を芋に乗せて頬張った。


「……美味しいですね」


 素朴な村の料理だが、使者くんの口には合ったようだった。


 

 翌日の朝 


「また盗賊に襲われたらたまらんだろうし、商人たちが村に来たときに一緒に街の方に行けばいいんじゃないか」


 俺は使者くんにそう提案し、商人が村に来るまでの間、村の仕事を手伝いながら暮らしてみてはどうかと誘った。


「申し訳ありませんが、そうさせていただきます」


 慣れない野良仕事や船の作業を、頼りない動作で手伝いながら、使者くんは日々を過ごして行った。

 

「額に汗を流しながら働くというのは、気分がいいものですね!」


 少し日に焼けて健康そうになった使者くんは、さわやかな笑顔でそう言った。

 結局、使者くんはイヴァルハラに帰るのを延期して、しばらくこのスパト村で暮らすことにしたようだった。


 その後、風の噂で、イヴァルハラの宰相だったアパネスが収賄と脱税の罪で失脚したという話を、俺や使者くんは聞くのだった。

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