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1 追放、そして辺境へ

よろしくお願いします。

 あれは俺がまだ一八歳になったばかりの頃。


「救国の英雄、レニダス様に敬礼!」


 邪神王を討伐し、祖国であるイヴァルハラを救った俺は、英雄として王城に凱旋した。

 居並ぶ文武百官が敬礼し、王からも褒賞をたんまりもらい、王女殿下から華のような最高の笑顔を向けられたあの日あのときこそ、俺の人生の絶頂期だったんだろう。


 それから十年、俺は今年で二十八になる。

 色々なことがあった十年だった。

 結論から言うと、俺は祖国、イヴァルハラを追放された。


 英雄として民衆から絶大な支持を得ている俺を、当時の宰相であるアパネスが嫉妬したのだ。

 アパネスは俺に対し、国家転覆の疑いがあるとデタラメな罪を押し着せたのだ。

 幸い、俺は身寄りがいなかったので、連座で罪に問われる家族というものがいなかった。

 アパネスは俺を死刑にしようとしたが、国民や他の大臣、王たちの反対により罪が減じられて、俺は国外追放という処分になった。


 災難が去ってしまえば、英雄なんて国にとっては無用の長物になるってことだな。

 俺はなにもかもがバカバカしくなって、大陸の端、祖国イヴァルハラからはるか遠く離れた海沿いの寒村に住みかを定めた。


「おにいさん、ずいぶんいいふくをきてるね? ひょっとして、まちから来たの?」


 そうだ、最初にここ、スパトの村に来たとき、俺に声をかけて来たのは猫系獣人の血が混じった少女、テレーネだった。

 まだ十になるかならないかの、くりくりとした瞳を持ったあどけない少女だったな、あの頃は。

 

「まあ、そんなもんだ。ところでこの村に住みたいんだが、働き口や空いている家なんかはあるかな」

「うーん、そんちょうさんの畑、おてつだいさんがほしいって言ってた。エビをとる船も、今はいそがしいって」

「そりゃいいな。なんでもやらせてもらうぜ。魔物退治とかがあればそっちの方が得意分野だけどな」

「あたしのおうち、へや、一つ空いてるよ。せまいけど」

「雨風しのげれば、なんでもいいさ」


 そうして俺はスパト村の住人になった。

 ある時は畑を手伝い、ある時は漁を手伝い、たまに村に侵入する魔物を退治するなどして、平穏な日々を送ることになった。

 いや、毎日が平穏というわけでもなかったな。


「れ、レニダスの旦那! 向こうの山から、とてつもない大きさの、龍の魔物が!!」


 都市から離れた辺境ということもあって、討伐されずにさまよっている大型の魔物が、たまに迷い込むことがあったりもした。


「邪鬼龍かなにかのたぐいだなあ。久しぶりに見たぜ、こんな大物」

「あ、ああ……村はもうおしまいだあ……あんな、凶悪な化物が襲ってきたら、こんな小さな村は……」


 絶望している村人の肩をポンポンと叩き、俺は安心させるように言った。


「みんな、家から出ないように言ってくれよ。ちょっとだけ本気出すから、見られると恥ずかしい」


 俺は久しぶりに「破邪討魔の聖剣」を鞘から抜き、迫り来る邪鬼龍に挑みかかった。


「腕がなまってなきゃ、いいんだけどなあ!」


 聖剣の一振りで、邪鬼龍は頭から縦に真っ二つに断ち割られた。

 大きすぎる魔物の死体が村の入り口に横たわって邪魔なので、極大業炎魔法で灰にしておく。


「す、すごい! レニダス、こんなに強かったんだね!」


 テレーネが家から飛び出してきて、俺に抱き着く。


「見るなって言っただろ。危ないんだぞ」

「ご、ごめんなさい、でも、あんなにおっきな魔物に勝っちゃうなんて、レニダス、本当にすごいよ!」


 そのことが原因で祖国を追いやられた俺としては、複雑な心境でもあった。



 俺がそうしてスパト村に来てから、十年目の今日。


「ねえ、レニダス。お客さんが来てるけど」


 子供だったテレーネも、すっかり綺麗な女性になった。


「俺に客? どんな奴だ?」

「イヴァルハラって国の、なんとかって偉い人の使者だって。大事な話があるって言ってる」


 クソッタレ、と俺は心の中でつぶやいた。

 俺がイヴァルハラの出身であることは、村のみんなには伏せて過ごしてきた。

 俺の正体が知れることで、ひょっとすると村のみんなに迷惑がかかるかもしれないと思ったからだ。

 

 しかし、イヴァルハラの連中は、どんな手段か知らないが俺がこの村にいることを突き止めやがった。

 今更、俺になんの話があるって言うんだ。

 ま、半分ほどは予想がついてるけどな。


「れ、レニダスどの! どうか、どうかお話だけでも!」


 部屋の外から、来客者の悲痛な叫びが聞こえる。

 やれやれ、と俺は腰を上げて、使者とやらに応対することにした。


「テレーネ、少し席を外してくれ。このお客さんと大事な話があるんだ」

「わかった」


 素直にテレーネは俺の言葉に従い、部屋を出て行こうとするが、去り際、心配そうな顔で俺にこう訊いた。


「レニダス、どこにも、行かないよね?」

「行かないよ。大丈夫だ」


 俺はそう答えた。

 その言葉を、嘘にするわけにはいかないと思った。

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