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吸血憑き  作者: 平一平
16/20

15 余興


「…………」

《…………》

 マリアとクロは、呆気に取られてか、無言だ。

 特にマリアは、目を丸くして驚いている。心なしか、顔も赤い気がする。

 そんな中、

「――ふっ、ははは、はっはっはっは、はははははははははっ!!」

 盛大に笑い声を上げたのは、ヴラドだった。

「何を言い出すかと思えば、くく、随分くだらないことを言うもんだな、クロウリーの宿主よ」

 笑いを堪えながら、夕貴に話しかけるヴラド。

「それは『神血』の少女を助けるために、己の身勝手な欲望のために、我に戦いを挑んだ、と解釈していいのか?」

「……そうだ!」

 夕貴の答えに、嘲笑がまざまざと刻み込まれた顔で、ヴラドは夕貴の中のクロに語りかける。

「一人の女を助けるために、我らに抗うか……運命を感じるな、クロウリー。我らが王、カインの復活を、貴様が拒んだ理由も、一人の女のためだったな」

「「!?」」

 突然のヴラドの発言に驚く夕貴とマリア。

「おや? それは話していないのか?」

 二人の反応を見て、意外そうにヴラドが語る。

「クロウリーは吸血鬼でありながら、人間の娘を気にかけ、カインの復活に反対したため、吸血鬼の敵となり、身体を奪われたのだよ」

 衝撃の事実だった。

 クロウリーが何故、吸血鬼と仲間割れをし、身体を奪われることになったか。

 その理由が、人間の娘を守りたかったからだ、というのだ。

《…………》

 クロウリーは依然、無言だ。

 しかし、その沈黙には、たぶんの怒気が含まれていることを、夕貴は感じていた。

「ふははははっ! まさか、宿主も同じような理由で我らに歯向かうとは、これを運命と言わずに何と言う! 今度は守れるといいな、クロウリー?」

ブチンッ!!

夕貴は確かに聞いた。クロの何かが切れる音を。

《……夕貴、魔力の使い方を教えてやる。あの髭野郎、ぶちのめすぞぉぉぉっ!!》

 怒りの咆哮が、夕貴の中で響き渡る。

(あ、あぁ!!)

《とりあえず、嬢ちゃんから『神血』を飲ませてもらえ! 話はそれからだ!!》

 そう言われた夕貴は、マリアに頼み込む。

「先輩っ! 先輩の血を少しだけ、俺に飲ませてください!!」

 しかし、当然ながら、

「だ、ダメです! 夕貴くんは早く逃げてください!!」

 と、断られた。

「嫌です! 俺も戦うって決めましたから!!」

「だから、ダメです! 聞き分けてください!!」

 そんな言い争いが繰り広げられるが、

《お前ら、馬鹿やってる場合じゃねえだろ!!》

 クロの叱責で、夕貴はヴラドの動きを確認する。

 しかし、この大きな隙を、ヴラドは余裕の態度で見逃していた。

「五分ほど、待ってやろう。これも良い余興だ。どうなろうと、我が勝利は、揺るぎはしない」

「ぐっ!」

 高慢なその態度に、マリアが唇を噛んで、怒りのこもった瞳でヴラドを睨みつける。

 しかし、それ以上に怒り狂っているのは、クロだった。

《くそ髭がぁぁぁっ! 舐め腐りやがってぇぇっ! 夕貴、強硬手段だ!!》

(な、なんだよ、強硬手段って……)

《簡単だ、嬢ちゃんの左手掴んで、血を飲め》

 本当に簡単なことだった。マリアの左手からの出血はまだ、止まりきっていない。

 夕貴は覚悟を決めて、ヴラドに気を取られているマリアの左手を掴み、

「先輩、ごめんなさいっ!!」

「あっ!」

 そこに流れる血に口をつけ、啜った。

 夕貴は身体が熱くなるのを感じた。

「な、なんてことを……」

 マリアが夕貴の行為を非難するが、夕貴にはもう聞こえていない。

 自身の精神の世界へと、夕貴は深く、沈んでいった。


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