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4.いずれにせよ、父には夢をかなえてもらいたい

「?」

 思い違いかも知れない。

 あの人は私ではなく、マドカを見て驚いたのかも知れない。

 カヤは小さく首を傾げながらも礼を失することのないように会釈をする。

 初老の男性もぎこちなく会釈を返してくる。

 カヤの視線を追ったマドカが言う。

「あ、光岡さんだ」

「知っている人?」

「はい。あの人も編集さんです」

 光岡という男性のもとに和服姿の女性がグラス片手に近づいていき、声をかける。

 光岡は女性の方に向き直った。


「そう言えば、先輩。お父さんのマンガの方はどうなんですか?」

 とマドカが聞いて来たのでカヤも視線を戻した。

「がんばってるみたいだけど、最近は見せてくれないの」

 テーブルの上の皿からローストビーフを取り、口に入れる。

「んー、美味しい」

「見せてくれないって、どうしてですか?」

「私のダメ出しが厳しいから」

「あは。先輩、ダメ出しするんですか?」

「するよ。それでね、厳しいこと言うと拗ねちゃうんだ」

「えー。かわいいお父さんですね」

「大変なんだよ」

 とカヤは肩をすくめる。


 父のマコトは最近の漫画にも目を通し、話の運びやセリフのセンスや構図の取り方などを「勉強」しているようだが、今一つ作品に反映されていない気がする。

 どことなく無理があるというか、ギクシャク感があるというか……。

 かと言って「ちゅどーん路線」は今更感が大きすぎるし。

 いっそのことストーリーは小説とかを原作にすればいいのかも……とカヤは思ったりする。

 まあ、いずれにせよ、父には夢をかなえてもらいたい。

 売れっ子になったら、こんなステキな邸宅に住むことができるかも……。

 その時は道場を作ってもらおう、とカヤは思う。

 剣道は一生続けるつもりだ。


「こんにちは、マドカちゃん」

 という落ち着いた声がして、カヤがふと顔をあげるとワイングラスを手にした光岡さんがそばに立っていた。

 マドカとカヤを穏やかな笑顔で見ている。

 二人が立ち上がろうとすると「そのままそのまま」と言って、近くにあったクッションソファに腰を下ろす。

「大きくなった。今は? 中学生?」

「1年生です」

「そうか。うん、1年生。少し大人っぽくなった」

「え、ホントですか」

「ホントホント」

 と言って、今度はカヤに目を向ける。

「こんにちは。小早川出版の光岡と申します」

 カヤは立ち上がり、お辞儀をする。

「イルカヤマ中学校2年の空野カヤです。はじめまして」

「空野カヤさん。空野さん」

「はい」

「空野さん」

「?」

 念押しするように言うのでカヤは思わず首を傾げる。

 そんなに珍しい苗字だろうか?


 カヤが腰をおろすとマドカが言った。

「光岡さん。空野先輩のお父さん、漫画家を目指しているんですよ」

「あ。マドカ。いきなり過ぎ」

「だって先輩、光岡さんのところ、たくさんマンガ出しているんですよ。チャンスかなって」

「でも素人の描いたマンガだから」

「素人?」と光岡が眉をひそめ、カヤが「そうなんです」と口をへの字に曲げる。

「うちの父、40歳を過ぎているんですけど、今年に入ってから急に漫画家になるって言い出して」

「急に、ですか?」

「それで会社も辞めちゃったんです」

「………」


 呆気にとられたような光岡の顔を見て、カヤは苦笑する。

「あり得ないですけど、本人は真面目で」

「うーむ。……それに関してお母さんは何とおっしゃっていますか?」

「母は亡くなりました」

「ええっ」

「?」

 光岡の驚愕度が思った以上だったので、逆にカヤは戸惑う。

 紳士的な見た目とのギャップが大きい。


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