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3.だったら離婚しなきゃいいのに

 土曜日、夕方。

 カヤは天使のアルバイトを休み、サケノハラ市にある沖田けいすけの邸宅に来ていた。

 それはまさに「邸宅」だった。

 黒を基調とした洋風のモダンなデザイン。

 二階建てで、部屋数は7つあるそうだ。

「お金持ちなんだね、マドカのお父さん」

 カヤが言うと、マドカは「えへ」と笑って舌を出す。

 きっといろんな友達から何度も言われてきたことなのだろう、そういうリアクションが一番無難だと分かっているようだ。

 確かに「そんなことないですよ」とも「そうなんですよ」とも答えにくい。

 カヤは反省した。


 芝生が敷き詰められた庭もあり、今は淡い照明に浮かび上がっている。

 パーティー用に木目調のテーブルがいくつか並べられていた。

 キッチンには大皿に盛られた料理が何種類も用意されており、ゲストたちはビュッフェ感覚でそれらを楽しんでいた。

 飲み物もビールサーバーやワインクーラー、アイスバケットが置かれていて、ご自由にお飲みくださいといった提供スタイルである。


 邸内や庭には30人くらいの大人たちがいた。

 それぞれグラスを持って談笑している。

 スーツ姿の人もいればアロハシャツを着ている人も、さらには和服姿の人もいた。

 女性よりもやや男性が多いようだ。

 マドカとカヤは庭に近い部屋の隅っこでソファに並んで座って話していた。

 目の前のガラステーブルには料理と飲み物がのっている。

「このお料理、デリバリーなんです。ママのご贔屓のレストランから」

「へえ」


 そのマドカの母親である圭子もパーティーに参加していた。

 沖田ともどもホスト役としてゲストたちをもてなしている。

 圭子とは会ったことがなかったが、マドカが「あそこにいるのがママです」と教えてくれた。

「パパとママ、離婚したのに仲がいいんですよね。だったら離婚しなきゃいいのに」

 とマドカが言う。

 どう応えていいのか分からないのでカヤは黙っていた。

「あ、すいません」

 とマドカは言って、また「えへ」と舌を出す。


 そこに当の圭子がやって来た。

 落ち着いた色調のスーツを身にまとっていて、いかにも有能そうな人だった。

 カヤが立ち上がり、マドカが「あ、ママ」と言う。

「こんにちは。空野さんね」

「はじめまして。空野です。お邪魔しています」

「空野さん。空野カヤさん」

「はい」

「いつもマドカがお世話になっています」

「いえ、こちらこそ。仲良くしてもらっています」

「ありがとう」と圭子は言ってニコリと笑う。「大人ばかりで退屈だと思うけど、せめていっぱい食べていってね」

「マドカがいるから大丈夫です」

「よかったね、マドカ」

「うん」

 圭子は手を振って他のゲストのもとに向かう。


「なんかカッコいいね、マドカのママ」

 とその後ろ姿を目で追いながらカヤが言う。

「ママ、編集のお仕事しているんです。昔、パパの担当だったそうです」

「そうなんだ」

 きっとそれがきっかけで二人は結婚したんだろうな。

 うちのお父さんとお母さんは……学生時代に出会ったって言ってたっけ。

 あまり詳しくは聞いてないけど。


 新しいゲストが到着したようだ。

 圭子は両手を広げ、満面の笑みでその銀髪まじりの初老の男性に何かを話しかけている。

 男性は高級そうなスーツを着用していた。

 黒ぶちのメガネをかけ、口もとに穏やかな笑みを浮かべている。

 真面目そうな人だった。

 圭子に何かを言って室内をぐるりと見渡す。

 きっと「盛況ですね」とでも言ったのだろう。

 その目がカヤに注がれた時……男性はハッとした表情を浮かべた。

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