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1.うん、聞かなければ良かった

 白峯くーまが変態度をアップさせていることをカヤが知ったのは、ある初秋の日の下校時のことだ。

 部活を終えて、いつものように1年後輩の桜宮マドカと帰っている最中の雑談で彼に関する話が出たのだった。


「なんか涼しくなりましたね」 

 とジャージ姿のマドカが言った。

「そうだね。今年は残暑もひどくなかったし」

 と、同じくジャージ姿のカヤが応える。

 部活後、二人は制服に着替えることなく、そのまま下校している。

 運動部に所属している生徒は下校時は制服に着替えなくてもいいという暗黙の了解がイルカヤマ中学校にはある。

 汗ばんだ身体に制服を着用するのは衛生的に問題だからだ。


「私、実は暑いの苦手です」

「防具つけたら地獄だよねー」

「はい」

 とうなずき、マドカはくすくす笑う。

「ん?」

「私、剣道は好きになれましたけど、あのにおいは想定外でした」

「あー」

 とカヤは苦笑いを浮かべる。


 剣道部員、特に女子にとって「におい問題」は大きな悩みだった。

 練習時には分厚い道着を着用し、さらに面・胴・小手を身につける。

 練習で流した汗をそれらはたっぷりと吸い取る。

 当然、それなりのにおいを放つことになる。

 もちろん道着はこまめに洗濯するし、防具に対しても消臭スプレーをかけるが、それでも汗のしみつきを完全に取り去ることはできない。


「パパは新しいのに買い換えればいいって言うんですけど、さすがに……」

「それはさすがにスケールが違う」

 とカヤは言う。

 道着と防具を一式取り揃えるのに10万円近くかかる。

「あ、そうだ。それで思い出したんですけど、この前かーらさんがボヤいていたんですよ」

「なにを?」

「これ、先輩に言わない方がいいかもですけど、くーまさんがね、」

「ちょっとストップ」


 イヤな予感がした。

 きっと耳に入れない方がいい情報だろう。

 しかし、聞かなければ聞かないでモヤモヤ感が残りそうだ。

「いいよ。言ってみて」

「先輩がもし防具を買い替えたら、なんとか、そのお古を手に入れることはできないかって、かーらさんに相談したそうです」

 うん、聞かなければ良かった。

 カヤは口をへの字にして、天を仰ぐ。

 そのカヤを見て、マドカがまたくすくすと笑う。

「すみません。やっぱり言わない方が良かったですよね」

「まーね……でも、くーま君って、だんだんおかしな方向にいってる気がする」

「どこまで本気なんですかね」

 どこまで本気も何も……冗談でも言ってほしくないことであった。


 くーまはともかくとして、かーらとカヤはあの悪魔退治の件の後、急速に仲が良くなっていた。

 サケノハラキタ中学剣道部とイルカヤマ中学剣道部の合同練習の機会が増えたことも影響している。

 夏季大会の優勝校と準優勝校は互いに切磋琢磨しましょうということで顧問同士が意気投合し、月に数回は相手の学校で合同練習をするようになっていたのだ。

 それだけかーらとカヤも顔を合わせることが多くなっていた。

 練習のあとコンビニのイートインで間食をしながら話をすることもしばしばだった。

 同席するマドカも自然とかーらと仲良くなっている。

 事あるごとにくーまも加わろうとするが「女子トークじゃ。くーまは関係ない」とかーらに一蹴されるのが常だった。


 カヤはかーらに自分が天使であること、かーらとくーまが天狗であることはマドカには伏せておくように頼んでいた。

「なぜじゃ?」

「トラブルに巻き込みたくないから」

「わかった。くーまにも言っておく」

 とすぐにかーらは納得してくれた。


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