寝正月
極々ソフトBL作品です。
明け方、フト目が覚める。
起きるには、随分と早い。
隣で横たわる男は、オレを抱きかかえたまま、まだ深い眠りの中だ。
そっと、男の端整な顔を覗き込む。
こうして、眠っている男の顔をマジマジと見るのは初めてのことかもしれない。
何時もなら、こんなオレの少しの気配を感じた瞬間に、直ぐ男は目覚めるのに。
「…疲れてんだな。昨夜、遅くまで仕事だったし。それに、おまえオレよか10も年上だもんな…」
男が仕事を終えて部屋に帰ってきたときは、遠くで除夜の鐘が聞こえる直前だった。
「只今帰りました。流石に、疲れましたよ…」と言うなり、有無を言わさずオレをベッドへ押し倒す。
「疲れてんだろ」形だけの抵抗をする。
「疲れてるからヤリたくてしょうがないです」男はそう言いながら、逃がさぬようにオレを押さえ込んで、片手で服を器用に脱がせていく。
「もっと、疲れるぞ」素っ裸にされて、抵抗するのを諦めた。
男は優しく微笑んでオレの身体のあちこちにKISSの跡を付ける。
「すみません。ずっと、あなたに構ってあげられなくて。淋しかった?」
「・・・淋しくない」男の胸元に顔を埋める。
本当は淋しかった。一年の最後の日に、部屋に一人置き去りにされた。12月に入って、一人じゃ淋しくて眠れない日が増えていった。
男はオレのオヤジを代表とする大手企業の若手幹部だ。容姿もいいし仕事も出来る。それでいて、人柄もいい。だから当然上司からも部下からも頼りにされる。オヤジが最も信頼する人物の一人でもある。
その点、オレは、裕福すぎる家庭に生まれたため、この歳になってもバイトすらした事が無い。甘やかされて我儘放題に育ってきた世間知らずのお坊ちゃまだ。
だから会社の幹部ともなると、休みがあって無いようなものだと男と暮らすようになって初めて思い知らされた。
たまの休みの日も何やかやで潰されるし、昨日も大晦日だってのに、朝から急用だと呼び出されてしまった。
一人で居ると、負思考が先行する。何時も一緒に居られるだろうと思って始めた同居生活は間違いだったのかも。
だって、オレは何一つ男にしてやれない。料理も掃除も洗濯も。「そんな事、あなたがする必要も無い」と言って、男がしてくれるし、オレがするよか手際もいい。オレってお荷物になってないか?
男はオレがオヤジの息子だから、一目惚れして無理矢理追い掛け回した挙句、強引に肉体関係を持って「一緒に住みたい」と言ったオレの我儘に付き合ってくれてるだけかも知れない。
何一つ満足に一人で出来ないオレよか、男に似合った出来た女が居る筈だ。
オレは自分勝手などうしようもない我儘なヤツだ。きっと、今夜も男は帰ってこない。そしてオレは一人で眠れない。
さっきまで、そう悶々と思い悩んでいた。
「私は、淋しかったです。淋しすぎて疲れている。だから、温めてください」癒して……。
男の笑顔と言葉はオレのマイナー気分を一掃してくれた。
男の首に手を回して、オレは男に深いKISSをする。
「オレも――もっと温めて」癒して…、もうバカなこと考えなくて済むように。
でもこのままじゃ、折角初めて二人で迎えるお目出度い一年の始まりも仕事に男を奪われてしまい兼ねないな。
オレはHが終わって、ボ〜っとした頭の片隅でそんなことを考えていた。
「大丈夫ですよ。朝起きたら一緒に近所の神社へ初詣にいきましょう。それから、あなたの行きたい所へ付き合いますよ」と、男は仕事用の携帯の電源を切ってしまった。
二人で初詣行って、何処かでご飯食べて、映画でも観て、ゲーセンも行きたい。ああ、そうだ。新春お笑いライブのチケット買ってあるし。
――でも、今日は一日このまま寝ててもいいよ。
男を起こさぬように、そっと唇にKISSする。
頬に顎に喉元に――。
鎖骨の下に新しい印を刻んだ時、心臓の音が聞こえた。
トクン。トクン。と規則正しく鼓動してる。
ああ、安心する。凄く気持ちいい。
男の鼓動と匂いと腕に包まれて今、オレは静かな幸せを感じてる。
「きっと、おまえもそうだよな。オレと居る事が幸せだって感じてるんだろう?」
無防備に眠り続ける男を見て、そう確信する。
オレは、男の胸に鼻を擦り付けて再び眠りについた。
男は、クスリと目尻と口端を緩めて笑う。
再び、自分の腕の中で眠りに落ちた愛しい人の髪に手をやり引き寄せる。
彼の至福に満ちた温もりが肌を通して感じられる。
「あなたが、幸せなら私も幸せですよ」と。
そうして男も再び眠りに落ちた。
小説って難しいです。