2-1-2
本日一話目です。
「……お前もついてくるのか?」
「え?村を見て回った後には宿を出るなって……」
「別に自由行動でも良いだろ。探索なら一人で出来るし。お前も行きたいところあるんじゃねーの?」
「……いえ、護衛としてついていきます。あなたは神術による治療を受けられない。目的地に着くまで、怪我をされたら困ります」
「なるほど。好きにしろ」
ジーンは問題ないと考える。宿を出てすぐにジーンは感知の魔導を用いた。魔導を持つ者、神術を用いる者の存在を知るためのもの。
それは村全体へと範囲を広げて、魔導の反応はなかった。しかし、神術の反応はある。一か所は教会、もう一つは少し離れた路地だった。
(路地?何か用事が……?それともそこが家なのか?)
とりあえず場所はわかったため、そこに向かって歩く。ラフィアはただ無言で辺りを見回しながらついてくるだけ。
ジーンも辺りを見回しながら歩く。感知という力があることは誰にも話していない。
この力があることが知られれば、どのような人物がどのような思想を抱くかはわからない。
戦力増強もできれば、虐待や差別にも用いれる。こんな戦闘にある程度しか用いることができないものでも、脅威になる。ならば、わざわざ広めるものではない。
少し歩いた先にあったのは、やはり路地。その路地の先に反応があった。
その路地の先に何があるかわからない。だが、その先に不自然な反応があるのなら見てみるしかない。
路地の方へ目を向けると、唐突に神術の力が増幅した。そしてオレンジ色の光が空へと広がるのを見て、誰かが神術を用いたのがわかった。
「街中で、神術を⁉」
「何かあったな。行くぞ」
二人が走って路地を抜けると、そこには小さな広場があった。遊戯などがあることからここは村の公園なのだろう。
そこにいたのは三人の男子と一人の女の子。どちらも十代前半だろう。
そして、女の子が地面に伏せていた。その子が神術を用いたのはわかったのだが、現状が理解できなかった。
何故神術を用いた少女が倒れているのか。
何故少年たちは手に石や木の棒を握っているのか。
何故少女の周りには石や誰かの血が存在しているのか。
「何が……」
「お前は、動くな」
その疑問は少年たちの言葉と行動で解消される。だからラフィアには手出しをさせず、ジーンは彼らに近付く。
「やっぱり傷が全部塞がりやがった!バケモノめ!」
「いつまで村にいるんだ!出てけ!」
「この公園に入るなって言ったろ!」
そう言い、石が少女へ投げられる。それを少女はうずくまったまま抵抗もせずに受けていた。
結界を張ることができないのか、それとも張れないのか。わからないがいくつも石を受ける。
その間をジーンはただ歩く。石など構わず、ただ横切ろうとする。
そんなことをしたら、当然石がぶつかる。地面にうずくまっている少女に向けられた石なのだから、ジーンの下半身にいくつかぶつかった。
「あ……」
「何だよ、クソガキ共。何で俺は石をぶつけられたんだ?」
「お、お前が横切るのが悪いんだろ!」
その一言にジーンは魔導を用いる。
転がっていた石が全て浮力をもってジーンの脇に浮かび、手を前に向けただけでそれらの石は少年たちに当たることなく通り過ぎていった。
「俺を怒らせるなよ?次は当てる」
「どどど、どうせ当てられなかっただけだろ!」
「おい待てって!あれ魔導だろ⁉本物のバケモノの力だ!」
「バケモノならなおさら、俺らが倒さないといけねーだろ!」
それでも謝らない少年たちに、冷たい瞳を向けたジーンは違う魔導を用いる。ようやく顔を上げた少女とラフィアは、本能的にまずいと感じる。
用いたものは一詠唱。
無詠唱でもことは足りるのだが、より恐怖を与えるのであれば詠唱もするべきだ。過剰な威力になってしまうが、ジーンであれば力の調整ぐらいはできる。
「ペイン」
音が紡がれた途端、少年たちが地面にひれ伏す。重力の魔導で、少年たちは金縛りにあったように動かない。指も動かせない。地面に亀裂が入っていないのはジーンの魔力のコントロールのおかげだ。
「俺の地元では頭を地面につけて謝るのが最大の誠意の見せ方なんだが、謝ることができるか?口は動かせるし、声も出せるだろ?」
そうは言っても、少年たちは恐怖で口を動かせない。カチカチと歯を合わせて震えている。
「バケモノ、それで結構だ。魔導はお前らからしたら悪魔の御業だろーよ。だがな、その子が使っているのはお前らが信仰する神の御業だろーが。それをバケモノだぁ?……お前らこそ、悪魔の手先じゃねーのか?」
少年たちの中でも、一番態度が気に喰わなかった少年の腕を挙げる。それで解放されると喜んだ少年の顔が、次の瞬間には全く逆の出来事によって歪んでいった。
挙げられた腕は、綺麗にくの字を描くように折れていた。
「あああああああぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁあぁっぁぁぁぁぁあああああああああああ⁉」
「ひいいいいぃいぃぃぃぃぃいぃぃぃぃいいいぃぃぃいぃぃい⁉」
泣きじゃくる少年たち。それでもジーンは魔導を解かない。肝心なことを彼らはしていないのだ。
「謝れって言ってんだよ。俺にじゃない、あの子にだ。石だって手や腕に刺されば神経を傷付けるかもしれない。顔に当たれば、五感を失うかもしれない。木の棒だって骨を折ることは可能だ。……血を見て、それでもやめないお前らは本当に人間なのか?」
平等に、他の少年の腕も上げる。そして、すぐに折る。
次に何をすれば、彼らは人間になれるのか。そこの少女は傷付かないのか。
ジーンは神ではない。かといって、普通の人間でもない。ならば、彼らの言う通りバケモノのようなやり方でしか、少年たちを変えられない。
諭せないのであれば、恐怖を植え付けるしかない。
悪性に染まった人間を変えるには、全く逆の善性に触れるか、もっと上の悪性によって叩きのめされるか。
ジーンが用いるのは後者。今度は彼らの足を挙げる。後は同じように折るだけだ。
「いやだいやだいやだいやだぁあああ!」
「いたいいたいいたいいいいいいいいいぃっぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!」
折ろうとジーンが念じる瞬間、ラフィアは少年たちの前に両手を広げて立ちふさがり、ジーンの腰には少女が抱き着いていた。
そのことで魔導は解除され、少年たちの足は落ちていった。
「もう、やめてください!わたしが皆のルールを破ったのが悪いので……!」
「これ以上は騎士として見過ごせません!彼らが死んでしまいます!」
術を解いたジーンは自身と、少女の様子を再確認する。その上でジーンは裂傷のある少女の頬へ手を伸ばしていた。
「お前はまず、自分の身体のことを心配しろ。痛いだろ?」
「……はい」
少女は腰から手を離してくれて、その上で神術を用いた。邪魔をしてはいけないとジーンは少し離れていると、無詠唱のまま少女は全ての傷を、痕も残さず治していた。
この後十八時にもう一話投稿します。