3ー3ー1 騙し合いと真実と
残留組。
ジーンたちが『君待つ旋風』と話し合っている頃。
残っているエレスたちは『君待つ旋風』の構成員たちに囲まれていた。お昼寝をしていたエレスも飛び起きて眠気まなこながらも迎撃態勢を作っていた。
「お、お兄ちゃんは?」
「攫われたメイルさんを追いかけています。エレス、あなたのことは私が守りますが、私では全ての魔導からあなたを守れないと思うので自衛もよろしくお願いします」
「そう卑屈にならないでください。ラフィアさん。これでもそれなりに信用していますよ」
「それは良かった。……ダグラスさん。どうしますか?」
ラフィアはエレスに注意喚起をしつつ、直属の上司であるダグラスに事態の打破について伺いを立てる。
今回の調査団において実質的なリーダーはジーンだ。そのジーンがメイル救出のために早々にいなくなっている。
三大組織を纏め上げていたのも実際にはジーンで、そのジーンがいなくなれば個々の組織から出向してきた寄せ集めに過ぎない。そもそもジーンが旅をしやすいことを重点に置いたメンバー選定で、アスナーシャ教会の残り二人は当初の予定にいなかった追加組。
扇の要を失った残りのメンバーでは烏合の衆になりかねない。
だからこそ近衛隊で集団を指揮したことがあるだろうダグラスに指示を求めた。
「包囲網が完成している。ここは彼らのテリトリーなんだろうな。教会のお二人。協力してもらうぜ?各個撃破なんてできる状況じゃない」
「私は構いません。ルフドもダグラス殿の指示に従うように。良いですね?」
「僕はあまり戦ったことがないから、適度に自衛をしておくよ。フレンダよろしく」
「あなたはもう……」
ルフドは一応護身用の杖を用意するが、接近戦ができるわけではない。教わったわけでもなく、都市の外に出るなら持っていた方がいいだろうと適当に教会の倉庫からかっぱらってきた物だ。
戦闘訓練をしているわけでもない。そんな無駄な時間を過ごさせるくらいなら導師には神術の力を強めて欲しいという教会の意向から戦闘のせの字も知らない。
だから『パンドラ』からはお粗末導師と呼ばれてしまう。
この場ではエレスと共にお荷物でしかなかった。
エレスも村の中で育ったために魔物を見たのは旅に出てからだ。むしろ村民の方が魔物だと思っていたエレスからすれば、対人戦闘の方がまだ理解できるという皮肉な適応能力が現状あった。
それでも神術を使って戦うという発想がなかった十二歳の子供に過ぎない。アスナーシャも戦闘のイロハなんて教えるより日常生活をどうにかする方が優先度が高かったので、攻撃に転用できる神術などは教えていない。
回復術や自衛用の結界術ばかり教えていて、ジーンもその方針で良いと判断したために、神術の一般常識は学び始めていても戦うなんて無理だ。
アスナーシャはこの状況を打破するために、エレスに提案する。
(─エレス。代わりましょうか?あなたは戦いに向かない。私ならいくらか心覚えがあるから、この状況でもなんとかできるけど)
(うーん。嫌な予感がするのでやめておきます。それに、お兄ちゃんが無策で飛び出すとも思えないですし)
(─そうね。あの子はメイルが大事だから目の前で攫われたらすぐに取り返しに行くでしょうけど。それが罠の可能性もある。どうにかできる殲滅力があるのもこの中ではジーンだけでしょうけど、私もなんだか嫌な予感がするわ。全く、困ったものね)
エレスとアスナーシャは、メイルが攫われる茶番の話はされていない。だから実際に誘拐されたと思い込んでいる。
二人にジーンとメイルが伝えなかったのは、残すエレスが嘘をずっとつき続けられるかわからなかったことと、言えば絶対に二人に反対される。
今回の件は情報を得るために必要なことだと割り切っていたので、時間もなかったために伝えることはしなかった。直前まで反対されたり、エレスが攫われると面倒だとジーンとメイルが判断した。
それと『君待つ旋風』の裏にプルートの影があることに気が付いていたために、アスナーシャに知らせることを拒んだ。二人の仲について、アスナーシャは語ろうとしなかった。そしてプルートも、ジーンを器に選んでからアース・ゼロその時までアスナーシャに伝えることをしなかった。
その理由が不明だったために、ジーンは不要な諍いが起こる可能性を排除した。
「ま、即席のチームだ。ジーンがいればもう少し格好がついたが、それは言っても仕方がない。フレンダとラフィアは接近戦で時間を稼いでくれ。オレが遠距離から相手を仕留める。導師サマには馬車とエレスちゃんの護衛。エレスちゃんは周りをよく見て、必要な神術を使ってくれ。その辺りはジーンの妹だ。期待してるぜ?」
「わかりました!ダグラスさんには支援をあまりできませんが、その辺りはすみません」
「オレは魔導士だから仕方がない。それじゃ、行きますかね!」
ダグラスが開戦の狼煙として右手の銃のトリガーを引く。水の塊が弾丸として発射されたが、それは風の魔導で浮いている相手には当たらず避けられてしまう。
それを見てまだ静観をしていた『君待つ旋風』もそれぞれの得物を抜いた。銃のような都市でしか生産されていない武器は持っていなかったが、剣に槍に弓に鞭など、多種多様な武器を取り出していた。
全員が全員風の魔導を維持していて空に浮かんでいる。その総数五十は超えているだろう。
こんな集団戦を経験しているのはダグラス・ラフィア・フレンダのみ。この人数差は指揮するダグラスの腕の見せ所となるだろう。
もっともこの大人数の襲撃も、茶番でありただの時間稼ぎではあるのだが。
ダグラスたちもメイルが誘拐された時点でこの戦力が時間稼ぎのための人員だとわかっているが、それでもこの人数だ。殲滅するために送られた部隊とも考えられるために、ダグラスは神経を尖らせる。神術士との共同戦線は初めてな上に、重要な任務の途中だ。
ダグラスは実のところ、近衛隊に昇格してから一番緊張していた。
「フレンダ、行きます!」
「そっちは任せます、ラフィアさん!」
接近戦担当が、ダグラスの牽制で地上に近付いてきた者へ剣を振るう。フレンダは神術士なので『君待つ旋風』の面々と武器をぶつけるとエレスティが発生していたが、強引に身体能力で打ち負かす。伊達でアスナーシャ教会の実質トップである序列六位にはなっていない。
ラフィアもジーンにボロクソに言われたりしたが、騎士団長のファードルの目は濁っておらず、ラフィアの一撃も『君待つ旋風』に通じていた。剣から炎を出して斬り裂くことで通常の武器よりも威力が増し、魔導士の攻撃をも跳ね返していた。
「ベルファイア!」
「ベルファイア!」
フレンダが自身に肉体強化を、同じタイミングでエレスがラフィアへ肉体強化の術式を施す。
フレンダとラフィアの元々高かった身体能力が底上げされ、見るからに速度が上がった。神術士特有の戦闘方法を用いられてしまっては、魔導士は下がるしかない。接近戦の十八番は『聖師団』で、魔導士は高火力の術式を後方から放つのが本来の戦い方だ。
魔導をほぼ使わずに身体能力だけで全てを叩き伏せるファードルが規格外なだけである。
接近戦では部が悪いと判断した者は空に浮かぶなりして二人から距離を取ろうとするが、それを見逃すダグラスではない。
銃を使う彼は異様に視野が広く、空間把握能力がズバ抜けていた。そして近衛隊の上位として指揮能力も高く、戦場俯瞰も当然できたために痒い所に手が届く絶妙な援護を銃弾によって行なっていた。ダグラスの鷹の目と引き金を引くだけで高出力の魔導が放てるジーン特注の銃、そしてダグラス自身の魔導士としての実力があってこその離れ業だった。
問題があるとすれば、援護と迎撃に全て銃を使っていては、いかにダグラスとはいえ体力が保つかどうかだろう。ジーンが改造したとはいえ、魔導を使うマナは有限だ。
迎撃を終えるのが先か、ダグラスのスタミナが切れるのが先か。魔導士としての資質が問われる戦いに移行し始めた。
この間、ルフドは言われた通りしっかりと馬車二台とエレスを守るための結界術式を使用していた。使っているのは腐っても導師。『君待つ旋風』が魔導士としていくら優れていようと、そう簡単に破れない。教会の上層部が導師を失うのはマズイと、自衛用の術式だけは念入りに教えたためにエレスが使う術式と大差ないほどの精度を保っていた。
「導師など後回しにしろ!一番に倒さなければならないのはあの銃使いだ!」
「「『君待つ旋風』!」」
リーダー格の指示により、彼ら固有の魔導が放たれる。一詠唱にしては規格外の竜巻が発生してそれがダグラスを襲う。
魔導士というのはその特性上、攻撃に秀でているが防御面に難がある。ダグラスは迎撃のために左手の銃から風の魔弾を放って相殺を狙うが、風の精霊の一族が放つ魔導をそう簡単に相殺することはできなかった。
むしろダグラスの魔弾を飲み込んで更に大きくなった竜巻がダグラスに当たる直前。
うら若き少女の声が戦場に響く。
「アテナ・ヘケト!」
ダグラスの眼前に現れる小さな防護術式。
人間大のその防壁は巨大になった竜巻と衝突した後、どちらも金切り音を出して消える。
一詠唱。最低限の、最弱術式に血族の結晶たる魔導が防がれたことで、その場にいた『君待つ旋風』の注目が一気にその少女──エレスに集まる。
「あの少女……。あの若さでなんという神術を」
(─私が出なくても同じだったわね。あなたの力はどうしたって、注目を浴びてしまうもの)
たった五人の迎撃戦。人数差十倍以上。
それを成立させているのは間違いなく、残っている五人の実力が世界を見ても最上位だからこそだった。
次も日曜に投稿予定です。
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