表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/74

3ー1ー2 騙し合いと真実と

「君待つ旋風」の決起会。

 カナンへ続く道。とある渓谷の途中で『君待つ旋風』が集結していた。時間は夜。カナンを本拠地としているが、その手前のここでも活動拠点は作っていた。

 魔物も出ないように林檎を用いた拠点を作って、彼らは談合を始める。この場所なら人里も近くにはなく、人通りは全くないと言ってもいい。


 なにせここは「ロウストン」。悲劇が起こった終わりの地。

 東部に住む者なら誰もが知っている。この悲劇を境に魔物が活発したと感じ取り、この近辺から人間は脱出している。むしろ残った『君待つ旋風』のような集団もいる。

 彼らが残ったからこそ、聖地は整備されているのだ。


 拠点には百人以上の人数が集まっていた。全員が魔導士で、三百五十年前から聖地の保管と資金調達のために盗賊稼業を始め、同士を集めていた。実力の向上のためにも授けられた知識の書を読み解いて実力派になっていく。

 そして世界中を巡ってプルートの残滓を探した。この三百五十年、まるで成果が出なかったがアース・ゼロでプルートとアスナーシャのことを嗅ぎつけ、実験を止めることはできなかったが確かなプルートの顕現を把握した。

 やっとの思いで現れた魔導の祖。


 まだ顕現しているのか、残滓が残っているだけなのかわからず、この十年は特に活動を活発にしてきた。アース・ゼロにやられるような脆弱な者はおらず、首都などでアース・ゼロの被験者を調べていた。その活動がこの前の王室警護隊への潜入に繋がったりもしている。

 だというのにどうしてジーンに行き着かなかったのか。

 ジーンが本気を出したことなど、この十年でほぼないからだ。


 知識は確かに素晴らしかったが、プルートの器だと断定できる材料はなかった。アース・ゼロ後の混乱期を治めるための抜擢だと思ってしまったのだ。導師の選出がまさしくそうであったように。

 だが、ジーンが器の可能性はあった。幼いながらも風当たりの悪かった魔導研究会を曲がりなりにも立て直し、今までに存在しなかった理論を提唱。実力も魔導研究会の中で抜きん出ていて、当代では一番の有力候補ではあった。


 ジーンのことを詳しく調査できなかった理由として、やはり大きな理由はアース・ゼロだ。

 『君待つ旋風』は世界を巡るためのアンダーカバーとして行商人を演じている。実際彼らのおかげで助かっている街や村もある。アース・ゼロ直後は情報収集もまともにできないほど世界は混沌に包まれていて、本業を休んででも復興に力を貸した。


 器へ真実を伝えることも大事だが、器が生きる世界がどうしようもなくなっていたら意味がないと判断したために。復興の手伝いをしていたらジーンが台頭していたわけだ。

 その頃、『パンドラ』とも接触して行動を共にしていた。『パンドラ』の情報は捨て置けず、そちらに注力した結果見逃してしまった。

 首都にほぼいなかったことと、ジーンの住むラーストン村は牧歌的な村であまり調査もできなかったために。


 しかし、待望の時は訪れた。雌伏の時は終わり、聖地に招くべき代行者がやってきた。

 拠点の広場の奥に、木箱で出来た台があった。そこへリーダーが登る。手には十字槍を携えて。


「我らが同胞よ。こうして集まってくれて、ありがとう。三百五十年の時を長かったと感じるかは諸君らに委ねる。だが、これだけは宣言する。──器が見付かった。十年前、プルート様をその身に宿した少年だ」


 この事実は既に知れ渡っている。それでも彼はわざわざ口にする。

 これこそが、彼らが探していた「君」だから。


「『パンドラ』の二人が首都で戦った際に本人から聞き出していた。オレたちはかの御仁──エレスティ・ジン=ヴェルバー様を聖地カナンへ案内する。だが彼らは『パンドラ』を追うために情報を探しているはずだ。そしてオレたちは実際、『パンドラ』と接触する。見極めるために、二者の橋渡しをすることも必要だろう」


 もし本当にジーンが器なのであれば。これ以上『パンドラ』に便宜を図る理由はない。今までは器の情報を唯一知る相手だったので協力してきたが、ジーンという本人がいるのであればもう『パンドラ』に関わる理由はなくなる。

 アース・ゼロをどうにかするのかどうかも、ジーンに委ねるだろう。


 だが、それもジーン次第。ジーンが『パンドラ』に用があると言えばいくらでも交渉の場を整える。

 今回行動している理由はあくまで『パンドラ』を追うため。

 仕えるべき主人が現れれば、今のリーダーはリーダーではなくなり、ただの仕え人となるだろう。


「プルート様からこの地で魔導士と聖地について任された我らの、悲願が叶う時が来た。彼の者が世界を改変しようとすれば我らは彼の身を守る盾となろう。邪魔をする者の進撃を防ぐ槍となろう。その世界の改変を見守ろう。

 もし彼が平穏な世を望むなら、穏やかな終わりが迎えられるように陰日向に支えよう。彼の大事なものが穢されないように彼の夢を守ろう。プルート様との関わりを拒絶されたら、我らは素直に身を引こう。我ら狂信者なれど、追従せし獣にあらず。主人の意を汲み取れずして、何が誇りある風の末裔か」


 狂信者として自覚があれど、決めるのはあくまで主人として仰ぐジーンその人。

 彼に世界を陥れろと言われればやるが、関わるなと言われたら勝手についていって祭り上げることはしない。それくらいの分別はあった。

 とはいえ、本当に世界を滅ぼせと言われたら実行に移す気概はあったが。


 世界を切り拓くために礎となれと言われれば命を懸けて特攻もする。そんな覚悟を三百五十年前から先祖代々受け継いできた。

 彼らは表の世界に出てこなかった分、その執念と質は深く深く研ぎ澄まされ、破格の実力を備えてきた。

 いざという時に役立たずとして何も出来ないことこそ、三百五十年前の繰り返しになると呪いのように継承してきたために。


「さあ、皆の者。大恩あるプルート様へ、風を届けに行こう。御名を世界の端まで轟かせよう。邪魔者は薙ぎ倒せ。呑み込め。切り刻め。我ら以外の魔導士には辛酸を嘗めさせた。アスナーシャ教会とフレスト国には特にこの十年、好き勝手されたがそれもここまでだ。

 ──何が魔導士の暴走だ⁉︎何故魔導士が虐げられなければならなかった!回復の力を持つアスナーシャばかりを重用する愚か者共のせいで、ただ攻撃性の力を持つだけで、魔導士が神術士と共鳴できないからと、アース・ゼロの責任を押し付けられて!


 巫山戯るな!プルート様が顕現なされたからあの程度で収まった!エレスティ様がいらっしゃったから魔導士も神術士も生きていられる!異能もなくならず、人類が魔物に抗う術を無くさずに今日(こんにち)まで生きてこられたのはプルート様とアスナーシャ様、そしてエレスティ様とセニス様がいらっしゃったからだ!

 その事実も知らず、多くの魔導士(同胞)を傷付けてしまった!我らが弱かったからだ。国を覆す力がなかったからだ。我らが先祖が、アスナーシャ教会の台頭を許してしまったからだ。


 時は戻らない。この慚愧の念を忘れず、克己心を燃やせ!我らが時代に器が現れ、十年前のように何もできないまま無能の烙印を押されて、ただ耐え忍ぶしかなかった我らの祖先に顔向けできるか⁉︎

 我らに流れる風の血が、今も疼いている。我らは先陣を『パンドラ』に任せてしまった。だが、この大火を広げる役割は誰にも譲らない。『君待つ旋風』が請け負おう。


 改革の狼煙を上げろ!

 我らの始まりを示せ!我らこそが、今代プルート様の第一の忠臣だ!

 プルート様の悪名を(そそ)ぐことこそ、我らの役目!世界樹を要する世界へ、エレスティ様という船を届けるために、帆を押す風となろう‼︎」


「「「おおおっ!」」」


 リーダーが宣言の終わりに合わせて槍の石突を木箱にぶつけた衝撃音に、この場にいた全員が呼応して叫びを上げる。

 三百五十年という長期間、彼らは無力だった。些細なことしかできなかった。

 力はあるのにできなかった数々の出来事から鬱憤を貯めていたが、それも今日まで。彼らの使命のために大手を振るって行動できる喜びに打ち震えていた。


「皆の心意気、このシルフィが受け取った!間も無くエレスティ様一行はここへやってくる。作戦通り、神術士を誘拐してエレスティ様と交渉に入る!諸君らの奮闘を期待する!」


 ロウストンという、強力な魔物もいる場所で。

 盛大な茶番劇が始まろうとしていた。


また日曜日に更新予定です。


感想などお待ちしております、あと評価とブックマークも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 宣言カッコイイのに、茶番劇って。 でも彼らの覚悟は事実だろうから、どう進むのか楽しみ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ