2ー4ー4 目的と狂騒の果てに
二人のイチャつき。
お風呂も済ませてあとは寝るだけとなり、ルフドだけに外出禁止令を出して。
ジーンは部屋から出ていた。ルフドには文句を言われたが、気になることがあったからだ。
適当に屋上にでも行こうかなと考えていると、飲み物を二つ持って寝巻きとして部屋に常備されている浴衣を着たメイルがいた。ジーンも浴衣を着ているが、男性と女性で色味が違った。
ジーンの物は青色を基調としていて、メイルの物は桃色だった。
「あ、ジーンさん。どうしたんですか?」
(似合ってるな。それにこの服なら大きさも一瞬でわかる)
そう思っても口に出さないジーン。そのまま挨拶を返す。
「ちょっと確認したいことがあってな。メイルは飲み物の補充か?」
「うーん。実はジーンさんと会えるかもって思って二つ買ったんです。予感的中です」
(可愛すぎかよ)
少し頬を染めながらそんな運命的なことを言う妹のことが可愛くて仕方がなかった。
ジーンは人目のないところで確認したいことがあったので、メイルと気兼ねなく話す目的もあって屋上へ誘う。これにメイルは即了承。
ジーンたちの泊まる大部屋には外の夜景を望めるベランダがある。そこから十分街の様子や夜の湖を眺めることができるのに、わざわざ部屋から離れた屋上に行く客は皆無だった。
恋人や夫婦であれば同じ部屋を取る。
大切な人と異性だからという理由で離れ離れなジーンたちが特殊なだけ。
屋上の扉は解放されていて、予想通りに誰もいなかった。
「うわぁ。これだけ星が近いのは初めてです」
「確かに。高い建物の上から、星空を眺めるなんてしたことなかった。興味もなかったからな」
「ふふ。兄さんの初めてがわたしで嬉しいです」
メイルがこの言動を狙ってやっているならあざといだけだが、その実、思ったことを言っているだけの天然だ。彼女も考えてはいるが、咄嗟のことには全て本能で動いてしまっている。
特にジーンに関することについては、ほぼ何も考えずに本心を吐露してしまっている。
「……うん。メイルとこんな星空を見れた。そういう思い出が残せて良かった。綺麗かどうかは、わからないが……」
「うーん。凄いなあと思いますけど、綺麗とは思わないかもです。よく同僚には擦れてるって言われてました」
「メイルも?まあ、俺たちはアース・ゼロの光景と真実のせいか。エレスは絵画はともかく、景色や世界樹については綺麗だって感じる心が残ってるらしい」
「村であんな仕打ちを受けていたのに?……アスナーシャのおかげ、ですかね」
「だろうなあ。アース・ゼロの記憶がないっていうのもあるんだろうが。下手に憶えてる方が辛いこともある」
屋上に設置されているベンチに並んで座る。
二人はアース・ゼロについてほぼほぼ記憶に残っている。被害も、その惨劇の結果も見ている。実感している。だからこそ心が余計に擦れてしまったということもあるのだろう。
そしてメイルからすれば、ジーンが生きていることを知らなかった。
アース・ゼロの、魔導の波動から実行者がジーンの父親からジーンに変わったことはわかっていた。爆心地で直に感じたのだ。そして世界に波及する力を使ってしまって、力の枯渇から生きているなんて信じられなかった。
信じていたかったが、そんな奇跡はあるだろうかと何度も枕を濡らしていた。たった一人、愛してくれた兄の、絶望的な生存に情緒は不安定だった。
それでも生きているのだからと。他にも生きている兄妹がいるかもしれない。生かされた命なのだからしっかりと生き抜こうと思って、休みの日に首都で騒がしくなっている方へ足を向けて。
──奇跡の再会を果たした。
その奇跡の裏側にいた存在がプルートだと知って、深く感謝を捧げたほど、人生の中で最高の祝福だった。
奇跡が実在することを確かめたくて、置いてある手に手を重ねてみるメイル。その暖かさを感じて、頬が綻ぶ。
「なんだ。手だけでいいのか?」
「え?」
「どうせ誰の目もないんだ。何したっていいぞ」
「ふふ。じゃあ」
メイルはジーンの膝の上に乗る。そしてジーンの腕は腰に回してもらった。
背中はジーンの胸に預けて、全身でジーンの温もりを感じることにしたようだ。
「重くない?」
「全然。お前くらい乗せるなら問題ないよ」
「そっか」
「ちゃんと育ってくれて良かった。エレスはガリガリだからなあ」
「そこは腐ってもアスナーシャ教会ってことです。神術の才能もあったので優遇もしてもらいましたから」
ジーンがメイルの成長を確認するように、メイルの肩に顎を乗せる。メイルはそのまま近くにあった頬に頬擦り。嫌がらないジーンはメイルの好きなようにやらせていた。
「そういえばメイルって好きな奴いるのか?お風呂でそんなこと言ってたが」
「いますよ?教えて欲しいですか?」
「……そんな羨ましい奴、殺意湧きそうだからいいや。お前が選んだ奴ならまともなんだろうし」
「兄さんに保証してもらえたなら問題ないですね。わたしのこと真剣に想ってくれる人ですから」
「……誰だそれ」
ジーンとしてはメイルが付き合える相手ということで、人間か同じ神術士だけ。それでメイルが言うほど良い人がいるのかと考えるが、首都にはたくさん人がいるのだから一人くらいは良い人がいるだろうと納得する。
メイルとしてはジーン以上に好きな相手などいないのだが、それを口に出すことはない。今のような触れ合いが大事で、ちょっと困惑しているジーンの顔も見たかったのでちょっとしたいたずらだ。
「兄さん、好きですよ」
「俺も好きだよ。……そういうの、俺に言って良いのかよ?」
「良いんです。兄さんが好きなことは事実ですから」
「ふうん……?」
メイルの笑顔に、それで良いかと流すことにしたジーン。
本題である確認したいこと──情報屋から地図と一緒にもらった封筒を袖から取り出す。
「兄さん、これが確認したいことですか?」
「そう。多分『君待つ旋風』から渡された何かだろ」
「ハァ……。本当にああいうところって中立なんですね。依頼料に見合ってたらどんな相手でもお客にするって」
「俺も利用してたから何とも言えないが。んで、何があるってんだ」
封筒の中から手紙を取り出して、二人で顔を合わせて読む。
その内容を見て。ただただ感心する。
「へえ。凄いですね、彼ら。ただの犯罪集団じゃなかったんですね」
「うーん。これを承諾するとして、相手を騙すことにならないか?『パンドラ』に会うために利用する気ではあったが。……都合が良すぎる」
「『君待つ旋風』も『パンドラ』を利用しているんじゃないですか?」
「そうなるっぽいな。……俺も知りたいことがあるし、聖地カナンに行くか」
簡単に言ってしまえば招待状。その招待をジーンは受けることにする。
『パンドラ』の状況を知るために相手の誘いに乗って、情報を手に入れる。そのために書いてある通りに行動するだけだ。
「十年前のこと、知っていると思います?」
「プルートのことは気付いてそうだな。アスナーシャのことを知れば、自ずとプルートが来たことも繋がるだろ。……俺の命の恩人は、どこに行ってしまったんだか」
「プルートがいたなら、わたしもお礼を言いたいです。兄さんのこと、感謝してもしきれません」
「ヘソ曲げてないと良いなぁ。なにせ最後の契約者が俺だったんだから」
二人は手紙のことは置いておいて、飲み物も飲みながら誰に憚ることもなく雑談をしていた。他の者はもちろん、エレスとアスナーシャがいないからこそ話せる内容もあった。
昔の暮らし。父のこと、母のこと。
『パンドラ』の相手の予測。どんな人物だったか。
もう会うことのできない弟妹たちの名前や性格、施設での様子。
話したいことはたくさんあった。思い出したいこともたくさんあった。
ジーンが覚えていること、メイルが覚えていないこと。
ジーンが覚えていないこと、メイルが覚えていること。
二人して覚えていること。
それらを話して時に笑い合い、時に泣いて、その涙をジーンが拭って。
星空が見守る中、二人は体温を感じ合いながら小さな幸せに包まれていた。
更新頻度、「ウチの三姉妹」と変えます。申し訳ない。
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