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The Elasticity~最強の魔導士、最愛の家族と再会する~  作者: 桜 寧音
一章 デルファウスからの狼煙
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1-3-2

本日二話目です。


 二人は特に会話をするわけでもなく、静かに旅は続いた。する音といえば馬の蹄が地面をテンポよく蹴る音と、荷台の車輪が地面と擦れる音だけだ。

 さすがに耐えきれなかったラフィアが、会ったら聞こうと思っていたことを尋ねてみた。


「あの、ジーン殿はどうして魔導研究員になろうと思ったのですか?」


「生きてくためだけど?むしろ魔導士(おれたち)が生きていく方法なんて、こっそり隠れるか、研究員になるか、お前のように騎士団に入るかしかないからな」


 魔導士が生きていくにはかなり選択が絞られる。魔導を活かすか、隠すか。

 もちろん隠していた際にもしバレてしまったら、非難轟轟である。人間関係が崩れるなんて当然とも言える。

 そこで魔導を活かすなら、研究員になるか、ティーファッド騎士団に入るしかない。


 騎士団は珍しく魔導を蔑ろにしない体制ができており、しかも団長が魔導士なのだ。生きていくには良い環境である。

 もしくは傭兵になる者もいるが、それは少数だ。魔導士だと依頼が来ないことが多いらしい。

 信用がもらえないのだ。


 そういう意味では、信用を得やすい騎士団に入る方が幾倍もマシなのだ。

 あとは、生きていくために盗賊団を作る者もいる。

 盗賊団の多くは魔導士だ。盗みでもしないと生きていけない境遇の者が集まり、結果として騎士団ですら手を焼くような集団ができてしまう。

 この原因は、世界情勢もそうだが、一番の原因はアース・ゼロだ。


「アース・ゼロのせいで、魔導の力は危険だという認識が世の中に広まっちまった。魔導もそりゃあそうだが、騎士団の所有してる軍事兵器だって似たようなもんだ。なのにお前ら騎士団は世界から信用を得て兵器開発ができてるだろ?理不尽だ」


「だって、アース・ゼロのせいでたくさんの人が亡くなったんですよ?魔導の実験で、五千万もの人間が。それは、恨まれても当然かと」


「魔導の実験、ねえ」


 会話が嫌であるかのように、そっけなく厭味ったらしくジーンは答えていた。いないものとして扱うつもりなのに、話しかけられたら答えなくてはならない。

 知っていることを話されるのは嫌だが、無知の人間にはきちんと返答をするようにしている。知らないことを聞いてくるのは知的好奇心からだ。


 それを失うのは勿体ないと感じ、質問には答えてきた。

 このことで首都の研究員からは「話は聞いてくれないけど質問には答えてくれるいい人」という共通認識が根付いている。

もちろん知っていること以外は「知らない」と一刀両断にしているが。


「正直、自業自得ではないかと」


「一回の事故で全部をそうみなすのはどーなんだ?例えば馬車で人轢いたら馬車全てを恨むのか?……たしかにアース・ゼロは殺しすぎたさ。だからってその事故を引き起こした奴じゃなく、そいつが使った『モノ』を恨むのは正しいのかね?」


「その引き起こした者が誰なのか、わかっていないではありませんか。そうしたら魔導が恨まれるのも自然の道理だと自分は考えます」


「はっ。爆心地がわかってるのに何もわかってねーわけねーだろ」


 爆心地は首都のすぐそばであるのはわかっている。そして、そこで魔導の実験があった。それが国から発表された公式見解だ。


「魔導の研究施設があって、そこを何者かが利用して暴走させた。そこで実験した者たちの記録が残っていない。それが公式発表でしょう?」


「研究会が公式で使っていた、国営施設で本当に何もわからねーって?国絡みで隠してるんだよ。誰が関わったのか。どんな実験をしていたのか。……隠したい事実があったんだろーな」


「憶測、ですよね?」


「お好きな解釈でどーぞ」


 信じてもらえるとは思っていなかったので、適当に返す。

 実際調べてみれば、杜撰な隠蔽の証拠が数多く見られる。だからこれ以上は特に言わなかった。


「人間は魔導に頼らず生きていけます。魔物という脅威に騎士団やアスナーシャ教会がいれば対抗できます。……傷付ける力では、人を救えません」


「ほう?じゃあ騎士の力は傷付ける力ではないと?」


「ええ、守る力ですから」


「……結局、使い方次第じゃねーか」


 何事にも言えることだが、力なんてものは使い方ひとつで捉え方も全て変わってしまう。守る力、というのも結局は暴力だ。騎士の装備を見ればわかるだろう。

 銃器、剣、槍、斧、その他。

 どれも魔物を倒すためのものだ。それを魔物という対象にしているからまだいいが、この対象が変わったら軍事力という名の暴力だ。


「魔導士が自主的に魔物を倒していても、それは守る力にならないのか?それも傷付ける力なのか?」


「……そもそも魔導って、魔物を導く力でしょう?その魔物が溢れかえっている世の中でそんなこと言われても……」


「『魔術で導く』神秘だ。魔術によって人間を新たな段階へ導くために産まれた力っていうのが研究会の通説だ。科学が産まれる前から存在し、人類を席巻してきたのは魔導士。発展を願ってきた人間たちがあとから虐げられる。おかしな世の中だ」


 過去の世界では魔導も神術も平等に扱われ、併用して世の中を正し、導いてきた。だというのに今信仰されているのは片方のみ。

 奇妙な世の中だ。


「そうやって誤解してる奴が多すぎるんだよ。魔物は魔導が使える以外に接点はねーんだ。なのに勝手に関連づけやがって」


「信用がないから、でしょうね。それに火のない場所に煙は立たない、とも言いますが」


「ほざけ。実物を見てねーならただのデマだ」


 悪態をつくと、ジーンは不意に空を見上げていた。そして綱を引くまでもなく馬車は停まった。この馬たちは優秀すぎる。


「どうしました?」


「気配で気付け。魔物が三匹だ」


明日も九時に一話、十八時にもう一話投稿します。

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