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2ー3ー1 目的と狂騒の果てに

教会と村々。

 サラサには一日で行くことができず、途中のコテージで一泊することになる。男女で分けることにして中型のコテージを二つ借りる。今回の経費は三大組織が折半することになっている。だから領収書を度々でもらっている。

 コテージの場合管理人がそこにいれば貰えるが、いなければ自分で書くしかない。後から管理人に連絡をして金額が正しいか経理が確認を取るという面倒なことをしなければならない。

 今回は管理人がコテージで永住しているような人だったので、領収書をもらって終わり。

 荷物をそれぞれ降ろして馬の手入れをした後、全員が男性用のコテージに集まっていた。これからの行程の確認のためだ。


「三日後にはサラサに辿り着けるだろう。行程自体は順調だな。怪しい集団もいなかったから、サラサで聞き込み及び情報屋を使って『パンドラ』と『君待つ旋風』の行き先を調べる。これに間違いはねーよな?ジーン」


「ああ。それでいい。情報は集まれば御の字くらいで、そこまで重視していない」


 ダグラスの言葉にジーンは頷く。大きな机の上に地図を広げて、そこに騎士を模した駒を置いて現在地の確認をしている。騎士団がよく使う道具だ。同じ物を『聖師団』でも使っているのか、フレンダも頷きながらこの先の行程を確認していく。

 エレスとメイルは事前にジーンから行程表をもらっているのでサラサに行くことは納得しているが、急に参加したルフドは何故サラサに行くのか理解していない様子だった。


「東に例の賊が逃げたのは知っています。ですが何故近くの村々を訪ねずにいきなり観光地であるサラサを目指しているんですか?」


「導師。地図を見ていいからサラサまで村はいくつある?」


「はい?……八、ですかね」


「そうだな。全部回るつもりか?」


「全部とは言わずとも、一つくらいは寄っていいのでは?賊が立ち寄った可能性もあります」


「どこかしらは寄ってるんだろうが、情報なんてまともに手に入らないぞ。だったらサラサに向かった方が効率が良い」


「どういうことです?」


 導師は基本引きこもりなので首都の外のことを碌に知らない。ついでにエレスへの教育にもなると考え、ジーンは細かく説明していく。

 一応馬車の中でラフィアとダグラスには予定を伝えていて、騎士団にはどういうルートでどういう意図でルート設定をしたのか行程表を提出しているので騎士団二人にはおさらいにしかならない。

 エレスには常識と、地図から見える情報をちゃんと伝えるためにもう一度丁寧に教育を施す。


「まず村っていうのはその小さなコミニティで完結していることが多い。俺の村もそうだったしな。国にも一応所属しているが、ただ税を払ってるだけで国に従ってるなんて意識はないわけだ。特産物を運ぶのは行商人。税を取りに来るのは国の行政官。村から一生出ないなんて奴も珍しくない」


「そうですね。魔物という脅威がいる時点であまり外には出たがらない人もいるでしょう。騎士団や傭兵に依頼するにしても高く付きます。旅行以外で外に出る村人は少ないかもしれません」


「そうすると、国への帰属意識が薄れるわけだ。で、外から来たいかにも偉そうな連中が言うわけだ。『国からの命令で怪しい人物を探している。知っていることを吐け』と。村長やら友人に言われるならまだしも、よく知らない相手がいきなりそんなこと言ってきたら素直に話すと思うか?」


「……難しいかと。信頼がないということですね?」


(案外理解力や頭の回転は悪くないのか?エレスももうちょい物事の線と線を結べるといいんだが)


 ジーンは導師の返答を聞いてそう評価する。きちんと例え話を出せば理解する頭があるのは助かる。それも理解できなかったら本当にお飾りだ。

 フレンダがバカバカ言うので結構警戒していたのだが、そこまで苦労しなくて済みそうだった。行動の数々は確かにバカとしか言いようがないが、基準がおかしいだけの子供なら話せばまだなんとかなると踏んだ。


「身内と他所者、どっちの話を聞くかってことだな。お前だって教会の人間を優先して庇ったもんな?研究会の俺を悪者にして」


「ああ、デルファウスの件ですか。それと同じことが村々でも起こると」


「そうだ。俺たちが聞き込みをしようと、本当のことを話す理由がない。だったら大都市に在中している騎士団や金を積めば教えてくれる情報屋を頼ればいい」


「ん?そうです。村にいる在中の騎士団に話を聞くのはダメなんですか?」


 気付いたように声を上げるルフド。これはエレスも前質問してきたが、ダメなのだ。

 それを他の面々は気付いている。だから意見として出さない。


「ダメだな。騎士団のオレが言うのもおかしな話だが、村とかに配属になった騎士は騎士団よりも隣人の村人を優先する。命がけで守ってる相手が大事になって情が移るのは当然の話だ。基本村に染まっていて、村の不利益になる情報は吐かないだろう。または村に馴染んでなくて村人から距離を置かれることで情報を得ていないか。どっちにしろ小さな村の騎士は情報源として役に立たない」


「国や組織の信頼度がないと?」


「いやー。優先度と諦観の問題だな。アース・ゼロのせいでいつか死ぬかもしれない、そういう災害が起きたら国は何もしてくれないなら自分たちは好きなことをしよう。首都の外なんてそんなもんだぜ?統一国家なんて言えば聞こえは良いが、実際は税のやり取りをしてるだけで統治なんてできていない。村々が基本独立してる。それがこのフレスト国の実態だ」


 十年前の大災害、それに類した政策の失敗から国民であって国民ではなくなった民たち。

 騎士団は広く村々を守護しているし、アスナーシャ教会だって魔物狩りは行なっている。だが、それだけで信じられるほど民は単純ではなかったということ。

 目の前の生活が大事で、それが惰性でも続くならそれを良しとして。組織や国なんて考えずに生きている人間も多く。


 意欲がある人間なら、首都に出てくる。そして騎士団なりなんなりに所属して自分なりの目標を持つことになるだろう。

 その意欲のある国民がかなり少ないだけで。


「フレンダ。アスナーシャ教会の実態、伝えても良いか?」


「……ええ、どうぞ。遅かれ早かれ知ることになるのですし、旅に出た時点で秘匿も何もありません。村々でどう思われているのかも知るべきです。今回の旅は良いきっかけになるかと」


 フレンダから許可も出たことで、ジーンは辺境の村で良くあることを伝える。

 なんて事のない、人の集め方だ。


「神術士として才能がある子供は、村にある教会で神術士としての教育を強制で受けさせられる。そのことを知っていたか?」


「……いえ。まさか教会に引き込むためですか?」


「ああ。まあ、例外もある。教会がない村もあるし、引き抜きに熱心じゃない教会もある。アース・ゼロで潰れた教会もある上に、復興も十年ばっかしじゃ終わり切っていない。俺の村じゃアース・ゼロで教会が崩落。修理もせずそのままだ」


 そのまま、とは言うがジーンの村の教会は瓦礫で子どもが怪我をしないようにとジーンが昔更地にしてしまったので、今は跡地しか残っていない。そうしてなくなった教会も世界を見れば多い。

 アスナーシャ教はこの世界唯一の宗教ではあるが、神は人を守ってくれないと十年前に証明してしまった。そのため、この世界では宗教があまり盛んではなくなった。

 風の噂では、新しい宗教も出始めていると、ジーンは旅をしている最中に聞いたことがあった。その宗教の名前を聞かない時点で宗教は下火だろう。


「預かった子どもが優秀なら首都に送って本部で育成する。まあ、子ども側が拒否もできるんだが、拒否をしたら強制でその村の司祭にさせられる。どっちが幸せなんだろうな。メイル」


「わたしが首都育ちじゃなかったら司祭になっていたと思います。のんびりしている方が好きなので。逆に言うとアース・ゼロの後に首都で保護された神術士は強制で本部に連れていかれます。選べる選択肢は『聖師団』か『天の祈り』だけです」


「ああ……。メイルも僕と同じなのか」


「導師がその神術を見出されて一般の家から本部に連れて来られたのは有名な話ですからね。わたしも似たようなものです」


 保護という名の身請け。それがアスナーシャ教会で常習となっている悪しき風習。それがなければメイルはもっと早くジーンと再会できていたかもしれない。

 メイルの妹たちがわざわざアスナーシャ教会に保護を申し出るわけがないとわかっていたからこそ、ジーンは各村々の教会を巡っていた。アース・ゼロは国運営のプロジェクトだったために、教会は色々と近過ぎるとわかる。


 メイルも首都に送り込まれなければ教会に所属しなかっただろう。

 そこはアスナーシャが現世をあまり知らなかったことが要因だ。だから時々メイルは、アスナーシャに小言を言ったりする。アスナーシャも実態を知ってメイルに謝っていた。

 教会から脱走するのは現実的ではなかったので、ならと出世を目指したメイル。自分より幼い妹は強制的に連れてこられる可能性も考えて教会での立場を得るために十年間邁進していた。結局、姉妹は一切見付からなかったが。


「時には強引な司祭もいて。本部に連れてこられた子の中には必死に村に帰りたいと泣く子もいました。親元を離れることになるわけですし、家族全員が首都に移住できるわけでもないです」


「それに村の子どもたちはほとんどが農家の子。農作業を教えるよりも神術士としての教育が優先されて親としては後継問題で困ることも多いんだと。首都に送られなくても司祭になるための勉学をさせられるか、十五を過ぎてようやく農作業を覚えられるか。親も子も大迷惑で、神術士の家系でも教会が嫌いって家もある」


「……」


 メイルとジーンの説明に口を閉ざしてしまうルフド。首都の本部という、狭い箱庭の中しか知らなかったからこその閉口。

 アスナーシャ教会で出世して名誉を授かるか、その日暮らしを拒絶されるか。二つに一つ。そして本部に行ったからといって幸せになれるかどうかはまた別。


 本部では様々な業務をこなせるように、村での教育より高度なものを覚えさせられる。それについていけない子どもだっている。エレスでは絶対ついていけない。

 メイル曰く、連れてこられた子どもたちは志願して教会に入ってきた人間と仲が悪いという。派閥まであるとか。


「さて。そんな心境の村人が多い中で、他所からやってきた人間が自分のたちの村に滞在していた客人について根掘り葉掘り聞こうとしてきたら?」


「先に滞在していた人を優先する可能性が高い……。いくら犯罪者たちでも穏便に過ごすならお金を払う正攻法が一番目立たないから」


「そういうわけで村に寄るのは意味がないわけだ。食料や水がなかったら買わないといけないが、まだ初日で寄る意味がない。情報を得られる可能性が低くて、むしろ反感を買う可能性もある。それに近くの村なら騎士団の巡回で補える」


 騎士団の力を使って周囲の村に潜伏しているかどうかの把握くらいはできる。もし東に行ったことが誘いだったとしても、その場合は騎士団が見付ける手筈になっていた。

 ジーンは「君待つ旋風」が確実に東にいることをわかっている。だからこのまま東に進めばいいと悠長に構えていられる。騎士団を信用しているからこそ、ただ後を追えばいいと考えられる。


 だから村に寄るという考えがない。「君待つ旋風」が首都を出て数日経っているために余分な時間を消費する猶予がない。その差分を埋めるための強行軍なのでいないとわかっている場所へ行く意味がない。協力者がいたとしてもその捕縛という雑務は騎士団任せで、本命を追うことに注力したかった。

 この旅でそこそこ話し合うだろうからと、ジーンは初っ端でルフドの意識改革をしておきたかった。後で面倒なことにならないように。


次は三日後に投稿します。

明日は「ウチの三姉妹」投稿します。


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