2ー2ー1 目的と狂騒の果てに
近衛隊とは。
結局。ジーンたちは馬車二つで旅に出る。
アパ・シャオが引くジーンの馬車には当初の予定通り、ジーンとエレス、メイルに、ラフィアとダグラスが乗っていた。フレンダが乗ってきた二頭引きの馬車にルフドとフレンダだけが乗っていた。二頭引きとはいえそこまで立派な馬車ではなく、食料を詰めてしまえばそれで荷馬車の中はそこそこいっぱい。
だからこんなアンバランスな配分になってしまう。
それでも二台の進む速度は一緒だ。重量を気にせず走れるアパとシャオがおかしいだけで、フレンダが連れてきた馬も悪くはなく。ただ速度を考えると教会側の人数を増やしたら行程が遅れると考えてこのままだ。
ジーンとしてはフレンダの操舵する馬車に移すとしたらラフィアを考えていた。神術の相性を考えたらエレスかメイルだが、ジーンが渡すわけがなく。ジーンとダグラスは魔導士なので却下。消去法でラフィアだが、彼女は休憩の時以外鎧を着ている騎士なので重量が増えて遅くなる。
速度を落とさないようにと考えたら、このままがベストだった。
ジーンは操舵をしながら、魔物を警戒して屋根の上に乗っているダグラスに気になっていたことを聞く。
「ダグラス。その銃って魔導の弾丸を放つ特注の銃だよな?」
「ん?おう。団長が魔導研究会に特注で頼み込んだって言ってたぜ。実弾を持たなくて良いから身軽で良い」
「ちょっと見せてもらって良いか?」
「魔物も見えないし、良いぜ」
上から渡される二丁の長銃。人の腕ほどの長さと、それを遥かに上回る太さのある銃だ。口径も馬鹿でかい。一つだけでも重いのに、二丁を軽々しく扱うダグラスは確かに騎士団でも有数の実力者である近衛隊だと納得していた。
「これを簡単に扱うダグラスはわかるけど、ラフィアはどうして近衛隊になれたんだよ?」
「それが私にもわからず……。ファードル団長に推薦を受けたので、周りからも同じようなことを聞かれましたよ?」
「そんなに不思議ですか?ジーンさん」
「そりゃ不思議だよ。こいつ一人じゃ魔物を倒せないくらいの実力だからな。家柄は没落寸前とはいえ良いけどよ」
「没落寸前では!……いえ、すみません。貴族位が残っていることが不思議な現状です。はい」
ジーンが首を傾げてラフィアの謎の昇進を聞けば、メイルもラフィアの人柄などを知らなかったので疑問を重ねた。ラフィア自身もわからず、実力ではなかったら家柄かと聞いてみても、家は貴族とはいえ没落寸前。
ジーンはファードルが「ミクチュアの英雄」だからこそ庇護下に置こうとしたのだろうと予測したが、そのファードルとラフィアが詳しく話をしていない様子に更に疑問を浮かべる。
これではラフィアが言っているように贔屓によるやっかみで孤立するだけだろうとわかっていたために。
「ダグラスはラフィアが昇進した理由知ってるのか?」
「団長からは将来有望って聞いたけど?肉体の全盛期なんていつかは終わるし、ファードルもいつまでもトップでいられないだろ?だから目星を付けた奴を早目に近衛隊に引っ張るっていうのはちょくちょくあるぜ?」
「あー、なるほど?ラフィアには確かに才能はあるか……。本人が自覚していないだけで」
「はい?」
予想だにしない褒め言葉に、ラフィアが惚ける。それと同時にジーンが女性を褒めたからか、エレスがプクーと頬を膨らませる。
女性的な褒め方ではなく、騎士や戦闘に関する褒め方だったのにこれでもダメだったのかとエレスの様子を見ていたメイルが驚く。エレスの扱いは大変だっただろうなと、ジーンへ同情の目線を向けてしまうほど小さいことに嫉妬しているエレスに呆れる。
メイルはジーンがエレスをかなり甘やかしていることを知っている。ここ数日ずっと頬を膨らませていたのではないかと予想していた。
メイルの予想は的中していたと記載しておこう。
「ラフィアさんに才能ってあるの?前も魔物を倒してたのってお兄ちゃんだよね?」
「エレス……。事実ですけど」
あんまりな言葉にラフィアは肩を落とす。まあ事実なので反論はできないわけだが。
折角の近衛隊を示す鎧の下の真紅のインナーが泣いているような気がした。
「……いや、何で本人が自覚してないんだって話だが。他の騎士と比較して違う部分があるだろ」
「至って平凡な実力の騎士でしたが?先輩方とも模擬戦であまり勝てず、同期の中でも中の上でした」
「あー、うん。戦闘の技術とかはそんなもんじゃね?俺も門外漢だからはっきりと言えないけど」
「それ以外に騎士として必要なものってあります?」
ジーンは知っているのに思い付かないラフィアは、答えを焦る。騎士として戦力が求められるのは当然なので、戦闘の技術が違うと言われてしまえば思い付かないのもしょうがないことかもしれない。
騎士は何のために武器を所持しているのかという話だ。様々な武器・兵器を開発して運用している理由などを考えても真っ先に挙がるのはやはり戦闘力だろう。
「統率力とかカリスマはどうですか?ファードル騎士団長はお持ちですし、部隊で動いたりする時には統率者がいた方が行動しやすいですよ?『聖師団』の方も序列持ちとなるとそういう項目も評価対象になるようです」
「あって不便はないでしょうけど、私は誰かの上に立って統率したことはありませんよ?それをジーンが読み取っていたらジーンは何者だって話ですし」
「そうですか……」
メイルが自分の所属している組織で当てはめて推測してみるが、おそらくハズレ。ジーンもラフィアのどこにカリスマがあるんだろうとじっと見てみるが、なさそうだと首を横に振った。
「じゃあ家柄?ラフィアさんって没落貴族なんでしょ?」
「没落だからそこまで大事にはなりませんよ、エレス……」
エレスの思い付きも外れ。だが悪くない線だとジーンは思っていた。その表情を見てどういう事?と首を傾げるメイル。
「性格って騎士団では特別だったり?」
「どうでしょう?貴族としての礼節は備えていますが、そこまで変わった性格ではない気がします。魔導士の、極一部は恨んでいますがそれも逸脱したものじゃないと、今は思います」
「そっかー。お兄ちゃんを恨んでなければいいや」
「ジーンはまあ、頼りになる人ですよ。性格はアレですが、分別はありますし」
「あ?喧嘩売られた?」
「売ってません。その喧嘩っ早いのは玉に瑕ですね……。そういうところですよ」
アレ、なんて言われたので喧嘩かと思ったが、ラフィアにやる気がなさそうなのでジーンも収まる。ジーンも全く本気ではなかったが。
エレスの中で、アスナーシャが冷や汗をかいていた。ジーンとメイルだけが知っているが、アース・ゼロを引き起こしたのはジーンで、ラフィアが恨んでいる人物はアース・ゼロを引き起こした魔導士という事実。
エレスも一応アース・ゼロを引き起こしたのがジーンだと知っているが、ラフィアの復讐対象については知らなかった。その会話をしていた時、アパの上でお昼寝をしていたために。
メイルは一応、と知らされていた。それでもおそらくその真相には辿り着かないだろうと思っていたので表情には出さない。
「んー。じゃあ事務作業とかは?近衛隊が騎士を連れて任務をやって、その報告書を書いたりもザラだし。そういう文官も必要っちゃ必要よ?」
「よく屋根の上から会話に参加できますね……。そんなに書類仕事って重要視されますか?」
「されるされる。報告書をまともに書けなかったら事務員大変だし、状況把握ができないからな。それに近衛隊って色々な組織や貴族、王族に顔出すもんだ。交渉に報告書作成能力に礼儀作法、んで実力。ここら辺が近衛隊には求められる」
ダグラスが先輩として近衛隊に必要なものを伝える。ジーンは直接ファードルと交渉していたので近衛隊を見るのは初めてだった。あまり首都にもいないのだから、見る機会がなかったとも言う。ファードルに護衛など必要なく、いつも一対一で交渉していたのであまり実情を掴めていない。
それはエレスも、メイルもだ。エレスは騎士なんて村にいたとも気付いておらず、まともに見た騎士はラフィアが初めて。メイルも所属しているアスナーシャ教会が騎士団とそりが合わないために治療で騎士と会ったことはあっても組織形態は詳しくなかった。
「近衛隊って、何だか色々な能力が要求されて大変ですね?」
「そりゃそーよ、メイルの嬢ちゃん。騎士団が誇る三十人の先鋭だ。与えられる役割はそれぞれだが、全員が団長の懐刀。騎士団の中でも命令権は団長を除いてトップだし、いざとなったら矢面に立って魔物だろうが人間だろうが相対しなくちゃいけねえ。時には王族にだって物申す。まさしく騎士団の顔なわけだ」
「本当に、何で私が任命されたんでしょう……?」
ダグラスの説明で消沈するラフィア。ダグラスの言うように将来性を見込まれてが一つ。ファードルが「ミクチュアの英雄」だからが一つ。あとは曲がりなりにも貴族ということで王城に登城しても問題ない礼節を身につけていること。
この辺りが理由だろう。
(ファードルはこいつに引け目でも感じてるのか?わからん……)
ジーンはそんなことを考えてしまう。ファードルがラフィアを重用する理由なんて過去にしか理由はないはずだとわかっているために。
ジーンも最悪、全てが終わったらラフィアに殺されてもいいと考えていた。どうせ残り少ない命だ。それで一人の女が救われるなら安いものだと考えていた。
最も。本当の意味で全部が終わってからでないと殺されてやるつもりは毛頭なかったが。
次は日曜日なので「ウチの三姉妹」投稿します。
こちらの更新は水曜日予定です。
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