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1ー4ー2 操り人形《マリオネット》の糸は、雁字搦め

集合。

 集合場所が騎士団本部になった理由は、ジーンが騎士団の推薦人を知らないためだった。ファードルには二人選出しておくということだけ伝えられたため、当日になっても誰が来るのか知らない。

 ジーンとしては大切なことはメイルとエレスと一緒に行動することなので、騎士団として誰が選ばれようが気にしていなかった。道中の戦力になれば良いと考えているだけで、どうせ知らない人間なのだから深く考えようともしていない。

 ジーンたちを含む五人程度であればアパ・シャオが引いているラーストン村から乗ってきた馬車で余裕だ。様々な物資を入れ込んで快適に暮らせるほど余裕があるが、これ以上の人数を入れることは無理。二匹の牽引限界を超える。


 メイルも一応別組織の人間なので、現地集合になっている。メイルがジーンの妹であることは一応隠すことになっている。バレたらバレたで問題はないのだが、その辺りはメイルとアスナーシャとも話し合って隠すことにした。

 ジーンとしては確信が持てなかった再会した時と違って、隠す意味はないと思っていたが、アスナーシャの言葉で納得せざるを得なかった。


 第一にジーンが有名すぎること。ラーストン村で暮らしていることもある程度の人間なら知っており、妹のメイルだけをアスナーシャ教会で一人で暮らさせていた理由を上手く説明できないこと。

 まさかお互いが存在を把握しないまま離れ離れだったなんて言えるわけがなく。

 第二にこれが決定的だったのだが。


「あなたたち、顔は全く似ていないじゃない。才能だけを見れば血縁って納得されるかもしれないけど、パッと見だけじゃ兄妹になんて全く見えないわ。それはジーンとエレスにも言えることだけど」


 これをアスナーシャに言われて、ジーンは肩を落とした。せっかく再会した妹のことを大手を振るって兄として構えないことが悲しかった。

 ジーンはようやく家族と再会できたからか、かなりシスコンを拗らせている。エレスにもメイルにもかなり苦労をかけさせたことから、何かにかけて甘やかそうとする。その溺愛っぷりはエレスが喜ぶものの、メイルは苦笑してしまうほど。


 そんなわけでメイルとは他人のフリをしたまま、ジーンたちは騎士団本部の正面玄関に辿り着く。懐中時計を確認したところ集合時間の十分前に着いていた。だが、既に他のメンバーは揃っていたようだ。

 ファードルに、赤い騎士服を着た人間が二人。ファードルは見送りとして、この「パンドラ」捜索隊の発起人でもあるので居てもおかしくはない。メイルも来ていて、その近くに何故だか見覚えのあるアスナーシャ教会の人間が一人いたが、ジーンは関わることなくファードルに謝る。


「悪い。待たせたな」


「構わないとも。全員自分の考えで行動できるということは、少人数編成においては助かることだ。まずは我々騎士団のメンバーから紹介しようか」


「ああ。一人は見覚えがあるがな」


 ファードルの傍にいた騎士団近衛隊の二人。ファードルから見て右側に三十代になろうかというほどの鳶色の髪にアメジスト色の瞳をした魔導士の男性。そして左側にいたのは先日とは着ている服装が近衛隊のものに変わっているものの、ジーンとエレスと旅をしていたラフィアだった。


「ん。それじゃあコウラス嬢から紹介しようか。この度近衛隊に昇進したラフィア・F・コウラスだ。騎士団としても何も素性を知らない人間を二人駆り出すのは忍びなくてね。一人は知己のコウラス嬢を選ばせてもらった」


「依怙贔屓が過ぎるんじゃないのか?『ミクチュアの英雄』」


「そうかな?私としては適材適所だと思っているが」


「『ミクチュアの英雄』?」


 エレスが口に出しながら首を傾げていたが、「ミクチュアの英雄」について知っているのはジーンとファードル、そしてもう一人の近衛隊だけだった。メイルもラフィアも、アスナーシャ教会のもう一人もその単語に聞き覚えがないようだ。


「ファードルの異名だ。まあ、これは魔導士がファードルに対して使ってるだけで、一般に知れ渡った異名じゃないが。とある事件を解決したことでファードルは騎士団の出世街道を駆け上がった。その偉業から魔導士からは尊敬されてそう呼ばれてるってだけ」


「ファードルさんが凄いってこと?」


「それで良い」


 誰もその事件や異名について深く聞こうとしなかったので、これ以上その話はしなかった。ファードルが騎士団長に異例の若さで選出されるきっかけになった事件とだけわかれば十分だ。


「ではもう一人の紹介に移ろう。彼はダグラス・ジェインバー。腰にある銃を見ればわかると思うが、遠距離攻撃に秀でた騎士だ。そして魔導士でもある。ジーンたちの側で守れる人材としては最適だろう」


「紹介に預かったダグラスだ。騎士団長からの推薦で今回の任務に参加することになった。一行の中で最年長者になると思うが、俺はジーン殿に従うつもりなのでよろしく」


「殿はいらないぞ。ダグラス」


「話がわかるー。よろしく、ジーン」


 ダグラスが差し出した右手を、ジーンはあっさり受け取る。

 騎士団や近衛隊は王城で守護警備があったりするので礼節には厳しいが、ここには王族や貴族はいないのでダグラスは素を曝け出してジーンたちに接するようだ。

 年齢は二十八。二十歳になる者がラフィア以外いない一行では最年長であっても、この捜索隊のリーダーがジーンだというのは決定事項だった。三大組織の唯一トップ。その人間が指針を示すべきだとダグラスは指揮権の譲渡で周りに示唆していた。

 ジーンとしてもこういう上下関係などは最初にはっきりさせておきたかったので、早々に自分の立場と本性を見せ付けてくれたのはありがたかった。


「じゃあ俺が自己紹介するか。魔導研究会首席のジーン・ケルメス・ゴラッドだ。今回の捜索隊発案者で、『パンドラ』に聞きたいことがある。こっちは妹のエレス・ゴラッド。妹も魔導研究会所属だが、神術士だ。ダグラスは気を付けてくれ」


「了解。エレスちゃんもよろしくなー」


「はい。よろしくお願いします」


 近衛隊だから神術士の扱いにも心得があるようで、ジーンとエレスの距離を見てそれと同距離以上近寄ることはなかった。ジーンもエレスも外法が使えるので実は触れ合えるが、この情報は家族間と、既に知っているラフィア以外にバラすつもりはなかった。

 ジーンとエレスの簡潔な自己紹介も終わったところで、残る一人のメイルが自己紹介をする。


「最後はわたしですね。アスナーシャ教会『天の祈り』所属、メイル・アーストンです。序列は九十八位ですが、首都勤めですので魔物と戦ったことはありません。そういう意味では皆さんに迷惑をかけてしまうかもしれませんが、よろしくお願いします」


「魔物なんてラフィアとダグラスに任せておけば良いんだ。『聖師団』でもない神術士にそんなこと求めねーよ」


「あはは。そうですね。怪我をしたらすぐに言ってください。治すことだけは得意なので。主にラフィアさんの治療になると思いますが」


「もしそうなったらよろしくお願いします」


 年齢はラフィアの方が上だが、彼女の性格柄か歳下のメイルに頭を下げていた。治療を受けさせてもらえるというのは生死に関わる。それを軽視していないからこその態度だった。

 他の面々は魔導士。エレスは戦場に出さないだろうから、矢面に立って魔物と戦うラフィアが主に恩恵を受けることになる。

 ジーンとしては余裕がない限りエレスとメイルを戦闘に連れ出すつもりはなかった。いくら神術士で、自分の力で傷を治せるとしても。家族が傷付くところを見たいとは思わない。


「わたしはジーンさんの推薦で今回の捜索隊に抜擢されました。アスナーシャ教会は今回の事件を重く受け止めていますが、世界に散っている者を呼び出すには時間がかかること、また序列が高い者は首都の防衛があるので派遣できない、という話だったんですが……」


「隣にいる導師は幻か何かか?ファードルのように見送りに来たわけじゃねえだろ。教会が導師をどれだけ重要視してるかくらいはわかってるつもりだぞ」


「ようやく話題を振ってくれましたね。このまま無視されたらどうしようかと」


 そう、何故かこの場にいる導師ルフド。メイルの隣にいるのが当たり前の顔をして立っているのだからジーンが幻と勘違いしてしまっても仕方がないだろう。

 導師とはアスナーシャを呼び出す者。そして今代も王族へ婿に入ることが決定している、政治にも口を出せて現状でも国政に口を出せる、政府にとっても最重要人物。


 次代の王になるかもしれない人物であり、彼がもしも死んだりしたら国民に与える絶望はフレスト王の比ではない。デルファウスにやってきただけで大事になったのだ。

 そんな人物が二度目の家出を画策しているともなれば、ジーンが溜息をつくのも尤もだろう。

 お目付役(フレンダ)がいない時点で、碌なことをルフドが考えていないとわかっているために。


次も三日後に投稿します。


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