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本日一話目です。
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翌朝。ジーンは昨日の夜シーラスからもらったおにぎりを頬張り、旅に出る準備のために荷物をまとめていた。ちなみにおにぎりは綺麗な三角形をしていた。
荷物をまとめたといっても、何着かの服と、暇つぶし用の本を何冊か。それと武器となるトンファーと、金銭ぐらいだった。
それらを一纏めにした革製のバッグを持って家を出ると、村の子どもであるダンジとケーラがやってきた。
「兄ちゃん!旅に出ちゃうってホントかよ⁉」
「どこまで行くのー?」
「少し西の街までな。その後首都に行かないといけないらしい」
ケーラは腰の辺りに抱き着いてきて、ダンジは腕を掴んできた。この村で赤子を除いて、一番歳が低い二人だ。
「また首都かよ!いーなー!」
「お土産買ってきてくれる?」
「わかったわかった。二人は何が欲しいんだ?」
「おもしれーやつ!」
「おしゃれなやつ!」
「はいよ。買ってくるからおとなしく待ってな」
「「うん!」」
ジーンは軽く二人の頭を撫でていた。この二人は魔導も神術も扱えない。つまり身体に何も宿していないただの人間なのだ。
魔導も神術も、天性の才能、産まれつきの力なのだ。遺伝も影響しているが、神術士の子どもが魔導を宿していることもある。
そしてそんな子どもを忌み嫌い、捨ててしまう親もいる。逆でも起こり得ることだ。魔導士の親から神術士が産まれても、捨ててしまう親もいる。
これはある意味、世界の情勢、規則がこうさせてしまっているという部分はある。これを変えられるのは神であるアスナーシャと魔導の祖であるプルート・ヴェルバーのみだろう。
「ダンジ、ケーラ。離してあげなさい。ジーン君が動けないでしょう?」
そう言って近寄ってきたのはシーラスとラフィア。シーラスの言葉で二人はジーンを解放してくれた。
「良い子ね。それとジーン君。これ今日のお昼ご飯ね」
「ありがとうございます」
渡されたのは黄色いランチボックス。この量ならラフィアの分もあるだろう。
「それではジーン殿。我々の馬車で早速向かいましょう」
「あ?別にそれはあの男騎士たちに残しておけばいいだろ。俺用の馬車もこの村にはあるんだし」
「そうなのですか?」
「首都に行く回数は多いからな。調査で色々な場所にも行くし」
実地調査、聞き取り調査、様々な理由でジーンはあちこちへ出かける。だから旅には慣れている。馬車がないとやっていけないというのもある。
それでもこの村はジーンにとって帰る場所なのだ。首都に住んでいた方が交通の便としても便利なのだろうが、首都に住むつもりは毛頭なかった。
「今日は隣町のミュースまで行けば上等だろ。ってわけで馬車取ってくる」
数分してすぐ馬車がラフィアたちの前にやってきた。黒い馬が二頭で、大きめの荷台を引いていた。もちろん操舵しているのはジーン。
「ほら、さっさと荷物入れて乗れ。急いでるんだよ」
「あ、あの。騎手代わりますよ?」
「……いや、いい。お前の腕信用してないとかじゃなくて、こいつらがお前に懐いてないから」
そう顎で前の馬二頭を示すと、近付いてみたラフィアを拒絶するような荒い鼻息をかけていた。
それのせいでラフィアは嫌な顔をしていたが、ジーンはもういいだろと証明したように頭の後ろをかいていた。
「ほら。懐いてもいないやつの騎手なんて無理だろ?だからお前はさっさと後ろに乗れ」
しぶしぶ納得し、ラフィアは自分の荷物を載せて、窓から顔だけ出していた。もしかしたら騎士団で使っている荷台よりも高級なのではないかと考えていたが、中にソファがある時点で雲泥の差だった。
「じゃ、シーラスさん。行ってきます。村長にもよろしく言っておいてください」
「ええ。わかったわ」
二人は軽く手を触れ合うと、馬車は西を目指して走り始めた。
この後十八時にもう一話投稿します。