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1ー1ー1 操り人形《マリオネット》の糸は、雁字搦め

「パンドラ」の秘密の会話。



『それで?グレンデルは高熱にうなされて、今は寝ているのですね?』


「そうよ。このバカ、五詠唱の召喚術に騎士団と『聖師団』相手取るために魔導をかなり使って、魔導研究員首席の呼び出した悪魔倒すために八詠唱使って、最後はあたし担いで長距離飛行よ?よくマナが尽きなかったって呆れてるわ」


 ある林の中でモードレアは「パンドラ」の構成員である女性に通信していた。

 すでに夜の帳は降りており、焚き火を用意してテントを張り、その中でグレンデルを寝かせていた。

 高熱を出しているのはマナが尽きる直前の肉体の生命活動故だった。身体中にマナを急速に送らなくてはならず、また大気からも回収しなければいけないため高密度のマナが体内を巡り、その余波で熱を出しているのだ。


 彼女たちは二人だけしかいないのではなく、厚意にさせてもらっているキャラバンに紛れているのだ。彼らも協力者の一部である。

 エレスティの影響でグレンデルは火傷も起こしており、その看病が中々に辛い。

 助けてもらったモードレア自身が、治癒術も包帯を付け替えることも、薬を塗ることも、水を渡してあげることすらできないのだから。


『でも、グレンデルの判断は間違っていなかったと思いますよ?そうでもしなければ首都から脱出なんてできなかったと思います』


「そうよ!あの騎士団長、来るの早すぎ!今でも手が痛いし、もう少し来るのが遅ければどうにかなったと思ったのに……!足止めは何やってたのよ?」


『何でも事態に気付いた神術士が直接ファードルに報告していたそうですよ?そのせいで部隊編成が速やかに済んでしまったとか』


「何よ?偶然だっていうの?」


 騎士団本部に神術士がいるなんて、冗談も良い所だろう。それだけ騎士団とアスナーシャ教会は魔導研究会と教会並みに犬猿の仲だというのに。

 騎士団は自然治癒こそが屈強な身体を作ると信じている集団であるため、神術士による治癒はほぼ受けない。命の危機であったり重傷であればそうでもないが、そういった理由もあって騎士団本部に神術士はほとんど近寄らないのだ。


『いえ。これがそうでもなくて。その神術士、あのジーン君の妹さんだったそうです』


「は?エレスティの?あの子に妹なんているわけが……」


 そこまで言って、モードレアが息を呑む。十年前の情報に照らし合わせた結果、妹はいない。だが、妹と呼んでもいい存在はいた。


「──まさか、あの女の娘が生きてたっていうの?」


『可能性は高いかと。見た目は十代後半ほどで、いてもおかしくはない年代ですね』


「あたしらはジーンがアイツを殺したのを見たわ。そのジーンが誰も連れていくことなくあの場を去った。だから生き残りなんていないと思ってたのに……。あたしらも当時生き残りがいないか探したわよね?」


『……はい。あの後生きていたのは全員で五人です。ジーン君も合わせると六人。それ以上は見付けられませんでした』


「じゃあジーンが事前に逃がしていたっていうの?いや、そんな余裕あの子になかったはずなのに……」


 いくら思い出しても、ジーンに当時できたとは思えない。そもそも、ジーンがアース・ゼロを引き起こすだなんてモードレアたちも(・・・・・・・・)知らなかった(・・・・・・)

 だから、あの事態を予測して事前に動くというのも不可能だ。親しかった姉妹もその十代後半の子だけではなかった。その一人だけ逃がしているというのは腑に落ちない。


『想定外ですが、まあ良い方向に向かうかと。その少女が新たな器になっている可能性があります。その子とジーン君がいれば、プルート抜きでも「新生」は可能だと考えます』


「プルート抜きねぇ……。それ、結局十年前と同じじゃない」


 アスナーシャは人類の可能性を信じてくれたのか、実験に協力してくれた。そうでなければ彼女を器に選ばなかっただろう。

 いや、正確には彼女が器に選ばれたから実験の協力要請をしたのだが。それでもアスナーシャは同意してくれた。

 問題はプルート・ヴェルバーの方。プルートは器に誰も選ぶことがなく、そのまま実験は強行された。それで暴走した結果、ようやく現れたのだ。それを考えると、プルートは初めから成功の芽がないとわかりきっていたのかもしれない。


『そうですねえ……。不安点はいくつかありますが、それこそ薬を使えば問題ないかと。そのためにも魔導の薬の調整を早く済ませたいですね。色々と収穫もありましたし、計画(プラン)を練りなおしますか』


「そうね、お願い。それであたしらはこれからどうすればいい?」


『ひとまずは帰還ですね。グレンデルが計測していたデータが欲しいです。騎士団とかに取られてしまった薬は内通者を使って回収しますので気にしなくて大丈夫ですよ』


「研究会にはいないんじゃなかった?」


『研究成果を報告するために一度手放す機会があるんですよ。そこを狙おうと思いまして。しかもおバカさんなことに全部、その一度に手放してくれるそうです』


 それを聞いて唖然とする。モードレアは奪われることも想定して通話先の彼女は計画を練っていたのではないかと舌を巻いた。

 まるで世界そのものが彼女の手の中にあるようだ。それだけ彼女が立てた予想は的中する。「パンドラ」の頭脳の要だ。


「ずいぶんと都合の良いことで……。アンタにはどれだけ先のことが視えてるの?」


『先のことなんてちっとも視えていませんよ。こんな大仰に計画を立てていたって、小さな異物(イレギュラー)で全て狂ってしまうこともありますし。その良い例がアース・ゼロでしょう?』


「それもそうね……」


『今はゆっくり休んでください。一番の大鹿狩りは盗みのプロを登用しますから』


「盗みのプロって、『君待つ旋風(せんぷう)』?魔導士ばっかの荒くれ者じゃなかった?」


 世界で一番有名な盗みのプロと言えば「君待つ旋風」だ。左腕につけた白いスカーフに緑色で描かれた二重線。それがシンボルらしい。

 そして予告した時の犯罪成功率は驚異の十割。彼らから予告状が届いたら諦めろと言われるほどだ。


『そういう集団の方が使えるんですよ。お金さえ積めば仕事をしてくれますからね。パトロンからの資金も潤沢ですし、資産運用にも支障はきたしません』


「アンタがそういうなら任せるけどさ……。もしかしてエレスティと妹の誘拐もそいつらに任せるの?」


『まさか。もう少し泳がせますよ。こちらの準備も整っていませんし。整ったら捕らえようとは思いますが、まだ時期ではありません。今はまだ地盤作りをする時期ですよ』


「あたしらにあんな派手なことをさせたくせに?」


 ちょっとした嫌味のつもりだったが、クスクスと笑い返されてしまった。その後ウフフなんて上品な笑い方に変わった時には通信を切ろうかと思ったほどだった。

 それほど透き通る声だった。彼女であれば見た目も相まってこんな世界でも幸せな生活を送れるはずだ。だというのに彼女は苛酷な道を選んだ。世界へ怨嵯を抱いて、日陰者になろうと復讐へ走ったのだから。


『あれのおかげでパトロンがさらに増えたんですよ?たった二人で首都を大混乱に陥れた蛮勇たち。戦力差を考えても充分だと。いいプロパガンダでした』


「あたしらをダシに使ったわね?別にいいけど。というか蛮勇って言った?それ褒めてないわよね?貶してるわよね?」


『いえいえ、褒め言葉ですよ?(わたくし)にはそのような荒事、向いていませんから』


「やっぱり褒めてはないじゃない!っていうか、戦闘能力ではアンタが一番厄介でしょ!?」


 返信が来ない。どうやら本気でそうは思っていなかったらしく、通信機の向こうでキョトンとしているようだ。


(わたくし)、そんなに凶悪ですか?』


「ええ。一度だって戦いたくないわよ。負けるのがわかってる勝負なんてしたいと思う?」


『頑張ればどうにかできませんか?だってほら。(わたくし)とっても非力な女ですもの。モードレアさんには敵いませんよ』


「そういうのを差し引いたってアンタは頭おかしい力してんのよ。ホント、何でアンタが後方支援なんだか……」


『だって予算管理とか皆さんできないじゃないですか。皆さんがやらないジミ~な仕事、全部任されているんですよ?』


「ごめん、そうだった。いつもありがと」


 「パンドラ」という組織は存外脆い。戦闘屋が二人に、研究職が三人。これが見事に魔導と神術で別れているのだが、戦闘屋であるグレンデルに研究分野もやらせて、他の雑事は全て通信先の彼女に任せている現状である。

 下部組織なども存在しているが、そこに全てを任せたりはしない。重要なことは彼女に任せっきりなのだ。


次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。あと評価とブックマークも。


あと、明日「ウチの三姉妹」更新します。

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